なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『心に吹く風』

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韓流ドラマ・ブームの発火点であり
2000年代半ばに日本でも大旋風を巻き起こした『冬のソナタ』で知られる、
ユン・ソクホが監督・脚本を手掛けた初の映画。
春の北海道富良野を舞台に、
眞島秀和(『フラガール』『ボクの妻と結婚してください。』ほか)と
16年ぶりに女優復帰を果たした真田麻垂美(『月とキャベツ』ほか)が織り成す、
大人の純愛映画である。
僕も含めて興味がない人間もその気にさせた『冬のソナタ』にも通じる、
むせかえるほどの透明感あふれる濃厚な匂いどっぷりの佳作だ。


仕事で富良野を訪れたロンドン在住のビデオアーティスト/写真作家の日高リョウスケ(眞島秀和)は、
まったくの偶然で高校時代の恋人・春香(真田麻垂美)と20年ぶりに再会する。
春香にはダンナも娘もいるが、
春香をずっと想い続けていたリョウスケは風景画などのビデオ撮影の付き添いに誘う。
春香は戸惑いながらもリョウスケに同行して忘れかけていた想いをよみがえらせ、
20年前のプラトニックなふれあいの情景を浮かび上がらせながら、
失った時間を取り戻すように2人は急接近していく。

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冷静に見ればただの不倫映画である。
そこまで言わなくても浮気であることは間違いない。
いやこの程度だったら不倫二歩手前で浮気一歩手前ではないかとも思うし、
そういう“ギリギリのライン”の表現がこの監督ならではだろう。

二人の距離感と間合いと空間の見せ方がまず素晴らしい。
20年前みたいな後悔をしないように男が押し、
女は戸惑って心を逃がしつつも思いを受け止めようとゆっくり自分自身を開いていく。
奇人でも変人でもない二人が“俗”を超越した時間を創る。
春香の気持ちを“現実”に戻すように数ヵ所で登場する口うるさい姑とオッサンなダンナが、
溜め息が出るほど“いかにも”俗っぽいのも的確だろう。
まるでフツーのテレビ・ファミリー・ドラマの典型的な人物みたいで、
ギャップが大きいがゆえにリョウスケとの時間が際立つ。

寡黙な映画だ。
それだけにセリフのひとつひとつが重い。
おだやかな緊張感に貫かれている。
もちろん通常の聞き取れるスピードで語ってはいるのだが、
特に春香の言葉は“スローモーション”でじんわりと胸に響く。
白馬に乗った王子様ではなくリアリスティックなリョウスケのロマンチストぶりも特筆したい。
静かな音楽の多用も奏功して現実の時間軸を動かしそうなほどの独特のタイム感に飲み込まれる。

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宣伝コピーどおりにまさに“大人の純愛”、
というか大人にしかできない超ロマンチックな純愛のかたちが描かれる。
いわゆるロマンチックというよりは、
息を吐くように口から解き放つセリフの言葉を聞いていると
英国をはじめとする中世のロマン派詩人のロマンティシズムを思わずにはいられない。
ウィリアム・ブレイクやジョン・キーツ、パーシー・ビッシュ・シェリー、
ジョージ・ゴードン・バイロンといった人たちの作品を思い出す。
比喩の仕方など現実離れしているようで実はかなり現実を反映しているのである。

自然の事物や現象で心を描く映画だ。
「昔から風が吹く日は心にも風が吹いている」
「風のざわめきは心のざわめき」
「風と日差しのスキンシップ・・・風が男性、日差しが女性」といった言葉が、
鮮やかな映像とともに解き放たれる。

映画館のスクリーンが映える映像だし、
ほんと僕もこの地に行ってみたくなった。
木々をはじめとする植物、野の夜景、湖水など、
凛とした景色を際立たせるまっすぐな撮り方が絶妙で、
観た者すべてを覚醒させるほどの映像美なのだ。
風がテーマの一つの映画だけに、
風で揺れる木々などで“風の動き”もしっかり見せてくれる。
もちろんそれは心の動きでもある。

終盤は特にネタバレ厳禁の映画だが、
美しいものは、はかない。
僕はこのエンディングを“再生”と信じてやまない。


★映画『心に吹く風』
日本/2017/ビスタ/107分/5.1ch
監督・脚本:ユン・ソクホ 
音楽:イ・ジス 
出演:眞島秀和 真田麻垂美 鈴木 仁 駒井 蓮 長内美那子 菅原大吉 長谷川朝晴
製作:松竹ブロードキャスティング 
制作:ドラゴンフライエンタテインメント 
配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 
クレジット:©松竹ブロードキャスティング
公開表記:6月10日(土)より北海道先行公開、6月17(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
http://kokoronifukukaze.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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