なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ダイ・ビューティフル』

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ユニークなトランスジェンダーの人生をユーモアとペーソスをまぶして描き、
『Die Beautiful』という原題がリアルに響く2016年のフィリピン映画。
『ある理髪師の物語』(2013年)を手掛けたジュン・ロブレス・ラナ監督の佳作である。

主人公は実在の人物ではなく『ダイ・ビューティフル』は劇映画だが、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ、ミスコンの女王”であるトランスジェンダーの
ドキュメンタリー映画のように作られている。
主演のパオロ・バレステロスはメイクアップ・アーティストでもあり、
instragramで披露している海外セレブのものまねメイクも見せるカラフルな作品だ。

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幼少のころから目立ちたがり屋さんで“男好き”だった男の子のトリシャは、
保守的な父親に男手一つで姉とともに育てられた。
いつかは“ヴァージン喪失の覚悟”をしないと思っている高校生の時にボーイフレンドを作るも、
悲惨な形で“初体験”。
家族にバレて父に絶縁を通告されてダメージを負うも、
トリシャは親友と共同生活を始め、
身寄りのない娘を引き取って育てながら、
ミスコンへの出場を続けて女王を目指す。
トリシャも恋をして“娘”と家族を作れる期待感でテンションが上がるも、
人生いろいろ。
一筋縄ではいかない相手の思いと運命と状況に煩悶しながら、
顔だけでなくオッパイもビシッ!と“メイク”し、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ”のミスコンの決勝戦に臨む。

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わかりやすい物語だが、
“ミス・ゲイ・フィリッピーナ、ミスコンの女王”としてのトリシャの最期を最初に見せ、
適宜時代を行き来しながら遡って話を進めていくスタイルの構成で、
入り組んだ流れにしたことが奏功して躍動感を生んでいる。
もちろん“娘”までも学校で馬鹿にされるような状況だが、
不幸自慢なんてする暇あったらビューティフルになるため精を出した方がいい!ってアティテュード。
自分自身をはじめとしてなんもかも笑い飛ばすことでエナジーを放射するようにトリシャはたくましい。
トリシャも仲間たちもみんな、いい顔をしている、

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あけすけな会話も痛快きまりない。
ワイセツとされるスラングを使っているにもかかわらず、
お下劣フィーリングを封じ込めて一般的な日本語に“矯正”された字幕になっていて、
“これはおかしいだろ?”と思わされる海外の映画が多い。
“チンコ”はもちろんのこと“マンコ”も堂々と日本語化した、
日本語字幕担当者をはじめとするこの映画の関係者の方々に親指を立てたい。
卑語でないと伝わらないニュアンスがあるしスノッブと対極の赤裸々な人間たちのナマの声なのだから。
そういう言葉を発している人物たちの、
“ふぁっくゆー!”とあっけらかんと中指を突き立てる佇まいの和訳でダイレクトに伝わってくる。

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というふうに遠慮なきストレートな言葉遣いながら
もちろんキワモノ扱いはしてない。
ネタがネタだけにエキセントリックに映るかもしれないが、
落ち着いた調子で人物の感情の揺れをじっくりと描き込んでいる。
微妙にくすんだストレンジな明るさの映像色も、
次々と深手を負いながらも輝こうとするトリシャの心情の表れに見える。
やはり映像そのものが味わい深いからこそ面白いセリフも生き生きするのだ。
トリシャをはじめとする俳優たちの熱情と
監督などの制作陣の情熱がハーモニーを織り成し、
テンポがいいところも高得点。
映画全体がヴァイブレイションに貫かれているからリズムを生み、
心の底から生きている映画だなーと思わされるのだ。

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もちろん根っこの気持ちはそういうものだろうが、
LGBT差別反対!とか馬鹿の一つ覚えで連呼するようなトーンとは真逆の映画だ。
諦観諦念を突き抜け、
ある意味冷めているからこそエネルギッシュになれるしストロングになれる。
つるんで声高にアビールなんてしない。
“個”であることが大切だとわかっているから。

“もし死んだら、
アンジェリーナ・ジョリー、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、ジュリア・ロバーツ、レディ・ガガといった、
海外セレブの日替わりメイクをしてね”と、
急死直前に冗談交じりで近しい人にお願いしていたトリシャ。
ただそれはヴィジュアルの憧れの話だ。
と同時にミスコンの公の場で、
「死んだあと、もしも生まれ変われるなら、もう一度自分になりたいです(以下自粛)」とトーク。
ありとあらゆるどこかの範疇に属することなく、
もっともっともっともっと自分自身でありたい強靭な意志表明に目が覚める。

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心を動かされるのはトリシャの生き方に対してだけではない。
トリシャが棺に入った以降に時間を割いているところも特筆すべきだろう。
何事においても自分が“理解”できないからといって恐れて排除しようとする人間が後を絶たないが、
生前だけでなく死後も自分の所有物にしようとするエゴイストからトリシャを解き放とうとする、
仲間や支持者たちのクールな友情やサポートぶりも見どころだ。

映画を観た後“もうちょいがんばってみよう”って気持ちになる。
オススメ。


★映画『ダイ・ビューティフル』
2016/フィリピン/120分/カラー/原題:Die Beautiful/日本語字幕:佐藤恵子
© The IdeaFirst Company Octobertrain Films
7月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
https://www.cocomaru.net/diebeautiful


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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