DVD『サラダデイズ(SALAD DAYS)』(80年代D.C.パンクの軌跡)
2017-07-10

ワシントンDCの80年代のパンク・シーンを振り返ったドキュメンタリー映画のDVD。
ハードコア・パンクからポスト・ハードコア/オルタナティヴ・ロック系までフォローし、
本国アメリカでは2014年に公開されて日本でも昨年劇場公開された作品である。
もちろん日本語字幕が表示できる仕様だ。
解説文を書かせてもらいました。
オフィシャル・サイトにアップされた映画の紹介文の転載で、
これから映画を観る人のための入り口として書いたものだから、
作品を体験した人が読むことを前提に書いたライナーとはちょっと違う。
色々と考えさせられる映画である。
とにかく語りたいことがどんどん出てきて一晩は“呑み”語り明かせる映画だから、
ここであらためて書いてみた。
当時のライヴ映像や写真などを盛り込みつつ、
新たに取材した撮り下ろしのインタヴュー映像中心の構成である。
その登場メンツは当時のDCシーンのオールスターというか、
様々なバンド経験者中心に無名の人たちまでしっかり押さえている。
その反面、DCシーン以外の人間がほぼ登場しないことも特徴だ。
SONIC YOUTHを率いてきて80年代初頭までのUSパンクに詳しいサーストン・ムーアは例外で、
あとはJ・マスキス(DINOSAUR JR.他)とティム・カー(BIG BOYS他)がちょこっと登場する程度。
外部の人間の意見がほとんどない。
DCシーンの“掟”なんか知ったこっちゃないBLACK MARKET BABYみたいなアウトローもいたが、
無意識でもDISCHORD Recordsがほぼ仕切っていた当時のDCシーンと同様に徹底して内向きの作りだ。
でもそういう極端な手法によって当時のDCシーンの特異性が浮き彫りになり、
清教徒みたいな空気感も息が詰まるほど伝わってくる。
結果的にバンド紹介にもなっているが、
陳腐な反政府スローガンをブチ上げる以上に反体制と言えるDIYな取り組みの紹介はもちろんのこと、
暴力ネタ、セクシズム、ドラッグなど、
ほぼどの地でも同時代に起こっていたことがDCではどうだったかの現象の紹介がメインと言える。
もちろん“発祥の地”だからストレート・エッジの話には当然時間を割いているし、
イアン・マッケイ(MINOR THREAT~FUGAZI~EVENS他)を筆頭に、
スラム・ダンスもダイヴもクラウド・サーフも含めてライヴでの観客の危険なノり方への対処の話も、
DCならではで興味深い。
ポリティカルなイベントのシーンでよくわかるが、
いわゆる左翼でも右翼でもない市民運動家に通じるリベラルな風貌が目立つのも興味深い。
ガキっぽいのイメージのパンクと正反対でほとんどが80年代から大人の佇まいだ。
そしてイアン・マッケイを筆頭に出てくる人物のほとんどの顔があまりにも血色がいいことに驚かされる。
後期SCREAMに在籍して当時のDCシーンに関わった
デイヴ・グロール(元NIRVANA、現FOO FIGHTERS他)の発言が、
この映画でもやはり広い視野で物事を捉えていて的を射ている。
BAD RELIGION加入まもない90年代後半にインタヴューした時に目の前でタバコを吸いまくっていた、
ブライアン・ベイカー(MONOR THREAT~DAG NASTY他)の発言にもうなずける。
その二人が人間臭い顔でホッとするが、
もともと彼らはDCシーンのアウトローでやっぱり三つ子の魂百までだと思わされもした。
パンクは貧乏だから生まれたみたいな旧態依然の陳腐なイメージはナイーヴすぎて問題外だが、
当時のDCシーンは中流とも違っていたようである。
「多くは比較的恵まれた家庭の出身だ」
「親が裕福なことを隠していた人もいる」
「金持ちの家に生まれた連中はリスクを恐れずに挑戦する傾向にある。
“失敗したら大学へ”という選択肢があるからだ」
という話の部分も見どころだし、
“DCは政府が主要産業”という言葉にも妙に納得させられる。
この映画が80年代初頭のハードコアに留めてないところもポイントで、
他の地域のバンドへの影響も含めて
DCシーンが80年代半ば以降のオルタナティヴ・ロックと密接につながっていることも示す。
ハードコア・パンクからポスト・ハードコアへの流れがどうして起こったのかを、
音楽的かつ精神的な背景を絡めて解き明かす。
とはいえ狭い街だからと言ってしまえばそれまでだが、
ほぼシーン全体がハードコア・パンクからポスト・パンクのスタイルに移行したことも不思議だ。
80年代初頭のハードコア・パンクも含めてエモーショナルであるにもかかわらず、
不思議と合理的でドライなイメージも湧く。
初期USハードコア・パンクは他の地域でも短命のバンドが多かったが、
特にDCシーンのパンク系バンド全般の活動が短いことも特筆したい。
結成数年でDCから拠点を移しているし何度も活動停止しているとはいえ
なんだかんだ言ってもしぶといDCシーンの開拓者のBAD BRAINSを除けば、
ある程度コンスタントに続けているバンドがない。
一つのバンド自体が続いてないとしても別のプロジェクトでもいいのだが、
表立ってて活動を続けている人があまり見当たらない。
なぜか?を考えてみるとまた話が広がっていく。
80年代のDCシーンをリスペクトはしているのだろうが、
MINOR THREATをカヴァーしたDARKEST HOURをはじめとして、
DISCHROD Recordsと直接“仕事”はしてない90年代以降のバンドたちは
精神面などのいいところを取り入れつつ“反面教師”にもしていると思う。
なお、ボーナス映像として以下が追加されている。
<本編のアウトテイクのインタヴュー>
本編でも言いたいことを言いまくる“生粋のアメリカ人”のイアン・マッケイと
同じく御意見番のヘンリー・ロリンズ(S.O.A.~BLACK FLAG~ROLLINS BANDをはじめ、
ブライアン・ベイカー、フレッド・フリーク・スミス(BEEFEATER)、
ケヴィン・セカンズ(7 SECONDS)、Jマスシス、モニカ・リチャーズ、アレックス・フライツヒ、
ニコル・トーマス(FIRE PARTY)、ピート&フランツ・スタール(SCREAM~GOATSNAKE)、
スコット・クロフォード(監督12才当時)、ジョン・ワースター
の話が計約12分。
<本編では抜粋だったライヴ映像を各々1曲ずつ丸ごと収録>
EMBRACE(MINOR THREATとFUGAZIの間にイアン・マッケイが在籍) 86年
BEEFEATER 84年
FUGAZI 90年
GOVERNMENT ISSUE 85年
GRAY MATTER 85年
HOLY ROLLERS 90年
★『サラダデイズ(SALAD DAYS)』(キュリオスコープ/ポニーキャニオン PCBE-55271)DVD
本編108分。
12ページのブックレット封入。
アウターケース付。
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コメント
劇場に観に行きました。
自分のお気に入りのバンドは出演してないのですが、行川さんの解説付パンク映画ですし、(Not punk,hardcore punk)というサブタイトルに惹かれました。観た結果、監督がパンク世代では無く、グランジ世代だったという解釈で良いのでしょうか?
行川さんはパンクの弁護人だそうですが
パンクを守ったことが一度でもありますか?
パンクを守ったことが一度でもありますか?
書き込みありがとうございます。
>余分三兄弟+さん
(70's)パンク世代かグランジ世代か何とも言えませんが、あまり幅広くパンクものに接してない人かもとは思いました。逆に言えばだからこそ、内向きに集中してユニークなシーンを捉えられたのかもしれません。余談かもしれませんが、STOOGESの映画を観ると違いがわかるかもしれません。
> さん
歌い方をはじめとしてやっぱりパンクの元祖のイギー・ポップの全キャリアを弁護し続けることがパンクを弁護している一つだと思っています。
>余分三兄弟+さん
(70's)パンク世代かグランジ世代か何とも言えませんが、あまり幅広くパンクものに接してない人かもとは思いました。逆に言えばだからこそ、内向きに集中してユニークなシーンを捉えられたのかもしれません。余談かもしれませんが、STOOGESの映画を観ると違いがわかるかもしれません。
> さん
歌い方をはじめとしてやっぱりパンクの元祖のイギー・ポップの全キャリアを弁護し続けることがパンクを弁護している一つだと思っています。
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