なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『きっと、いい日が待っている』

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子どもたちが抑鬱になった60年代後半の首都コペンハーゲンの養護施設における事件が基の、
2016年のデンマーク映画。
さりげなく重い邦題がピッタリの明日の見えない抑圧状況の中で
宇宙に対する“夢”をエナジーにしながら、
兄弟が命がけで“ファック・ユー!”アティテュードを炸裂させる。
60年代の空気感が醸し出されている落ち着いた発色の映像も奏功し、
音楽も含めて感動を押しつける作品とは一線を画した胸のすく佳作だ。

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13歳の兄と10歳の弟は母親と3人で貧しいながらもつつましく幸せに暮らしていたが、
1967年のある日、病気が悪化した母親が入院することになり、
兄弟だけでは生活していけないと役人に判断された二人は男子児童向けの養護施設に預けられる。

宇宙飛行士になるのが夢ながら足の悪い弟にも過酷な労働作業が課せられ、
上級生からのイジメや制裁と
校長をはじめとする教職員たちの体罰の毎日。
出る杭は“平手”で打たれる。
目を覆いたくなるほど容赦ない。
子どもたちには「no!」という選択肢はない。

人一倍反骨心が強いわけでもない。
ただ自分らに向き合わずに聞く耳を傾けない連中が気に食わないだけだ。
協力してくれる大人もいるが、
なかなか事が上手く進まない。
施設から“解放”されることになりかけるも状況は悪化する一方で決死の行動に出る。

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わかりやすいストーリーだからネタバレを避けるべくかなり大ざっぱに話の筋を書いたが、
教職員の“責め”と兄弟の“攻め”の、せめぎあいから生まれた、
事件、トラブル、アクシデント、挑戦、反抗がスクリーンに刻まれていく。
キワドイ話だからぼかして描いたと思われるが、
同性愛も絡んだ性的児童虐待と想像できるシーンも織り込まれている。

「いずれ私たちに感謝するようになる」みたいな言葉が最後まで一貫した口癖で
自分の名誉のことしか考えてない鬼畜極悪校長に対し、
観ている僕でも殺意の絶えない映画だ。
子どもがどんな状況であろうと“持論”を曲げずに手を上げる校長をはじめとしてここの教職員たちは、
規律と懲罰で子どもたちを一般社会で通用する人間に育てようとしているのだろうが、
規律と懲罰で子どもたちを支配しているようにしか見えない。
絶対的な力を持つ者による弱い者いじめだし、
正義の味方を気取って善人ヅラした高圧的な“モラリスト”の恐ろしさとインチキ臭さも知る。

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“その他大勢”の子どもたちも含めて登場する俳優のすべてが熱演だ。
たとえぱこういう映画を日本で作ったらイケメン少年がズラリと並んでウソ臭くてシラケるが、
少年院みたいな不良の集まりとも違うほんと素朴な少年児童がもっさりした佇まいでリアルである。
とりわけ兄弟役の二人は長編映画初出演とは思えない生々しい演技で、
意識の流れが見えてくる心理描写に引き込まれる。

兄はストレートな熱血漢であり、
弟はいい意味でクレヴァーでもある。
特に弟は宇宙関連の豊富な知識と言葉を使った創作力が施設内で知られるようになり、
徐々に一目置かれていく。

兄弟も生き延びるために本音を隠してウソの心情を吐くことを覚えていくが、
まっすぐな人間ほどウソも方便になる。
不条理を突き抜ける目的を遂げるために。
従順に、従順に、耐え忍ぶ姿が痛々しい。
『The Day Will Come』という本作の英語の原題にならうと“その日”が来るのを指折り数えて待っている。
だがその期待が裏切られた時に炸裂する“静かなる殺意”の行動も痛々しい。
そして大切な人が死にそうになった時に決死の“テロリズム”に走る。

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施設内の友人や一部の“大人”のサポートを得つつ、
兄も弟も一人で立ち上がって行動を起こしているところに注意したい。
つるんでないのだ。

仲間を信用してないわけではなく、
むしろ仲間を大切に思っている、
だからこそつるまない。
自分の問題で立ち上がったわけだから巻き添えを食わせたくなかったりかもしれないが、
そもそも団結して云々という発想はなかった。
あくまでも自分自身のための闘いだからだ。

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まずは兄が弟を気遣ってリードして激昂した勢いで“傷”を付け、
兄から勇気をもらった弟が後を継ぐように“破壊”する。
文句を垂れながらの二人の兄弟愛もジェラシーを覚えるほどイイ。

米国のアポロ計画で人類が月に行く時代で映画中にそういうネタがちりばめられたところもポイントだ。
ヘヴィな物語の中で風通しを良くしている。
この映画の弟も施設に入ろうが宇宙飛行士への夢がふくらむ一方だったが、
意志がみなぎる中で追い詰められ、
“ある人”が住む天国に近い“月”に飛び立とうとするシーンがクライマックス。
ただファンタジックな要素もちりばめながら漫画みたいな“奇跡”で現実感を薄めることなく、
リアリティのある見せ方をしている。

兄弟にインスパイアされて仲間たちもゆっくりと手を挙げて意思を表すようになっていく。
さりげなく友情を感じさせるラスト・シーンも好きだ。


★映画『きっと、いい日が待っている』
2016年/デンマーク/デンマーク語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/119分/PG12/
原題:Der kommer en dag 英題: The Day Will Come/配給:彩プロ
8月5日(土)より YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB.
http://www.kittoiihigamatteiru.ayapro.ne.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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