なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『戦争のはらわた』[デジタル・リマスター版]

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第二次世界大戦下におけるドイツとソ連の戦闘の中の人間模様を描いたサム・ペキンパー監督映画が、
公開40周年記念として8月下旬からデジタル・リマスター版で上映されることになった。
デジタル・リマスタリングにより一番前で観て粗が目立つどころか迫力に飲み込まれるばかりだし、
CGを使わず現場の匂いまで漂ってくる戦闘シーンのリアリズムはスクリーンで体感すると全身が痺れる。
彫りの深い映像で人物の表情が生々しく映し出されていて心理描写の彫りの深さもより実感できる。

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ソ連は現在のロシアとその周辺一帯を占めた当時の大国・ソビエト連邦のこと。
ドイツが侵攻した1941年以降のロシアが舞台で、
ドイツの苦境の戦況から察するに1943~1944年頃と思われる。
もちろんドイツはナチス時代でヒトラーの写真やハーケンクロイツは当たり前の“アイテム”だが、
いわゆるナチにまつわるイメージの話はほぼ無し。
逆にナチス・ドイツであまり話題に上がらないネタであり、
ヒトラーの軍隊が繰り広げた展開の一つで壮絶だった対ソ戦の中で、
敵の猛攻にあい絶望的な状況に追い込まれたドイツ小隊の人間たちの心の動きがクールに描かれる。

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いわゆる非戦闘員を描いて一方的に殺される戦争映画も多いが、
これは武器を持つ軍の人間同士の話。
話し合いでは解決不能な最前線の姿だ。

現在進行形の映画としても観られる。
戦争反対!なんて寝言でしかない地域は今も世界中にたくさんあるのだから。
たとえば最近だと、
イスラム国(IS)に支配されたモスルなどの自国の地を奪還するのに
語られることのないイラクの兵士たちがどれだけ壮絶な戦いをしたのかも想像させる。

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戦車も使われているとはいえ爆弾投下で一気に!というよりは一人一人の人間の手で撃つ。
食うか食われるかじゃないが、
撃つか撃たれるか。
まさに撃たねば撃たれる。
“戦争”というより“戦(いくさ)”と呼ぶがふさわしいプリミティヴな状況に息を呑む。
断末魔の兵士一人一人の意識の加速を映像化したような編集も相まって、
カオスの現場に居合わせている気分になるほどだ。

もちろん悲惨なシーンも多いが、
戦場では血も死も当たり前で兵士にとっても見慣れたものみたいに扱われている映し方で、
嘆いている暇もなく屍が景観の一部みたいな様相。
センチメンタリズムを極力排したハードボイルド・タッチの筆致にヤられる。
ドイツで使われてきた鉄十字章の名をタイトルにした原題『CROSS OF IRON』どおりの重厚な映像だが、
邦題の生々しさも捨てがたい。

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ただこの映画の肝は人間たちの心理の流れだ。
修羅場をくぐってきたベテラン兵士である現場主義の主人公の伍長と、
新任の中隊長として派遣されてきたが実戦経験がなくプライドと名誉欲は高い大尉をはじめとして、
劣勢の戦場における人間関係の緊張感と面白さが演技とセリフから滲み出ているのだ。
誰もが人間臭くギリギリの状況だからこそあちこちから湧き出るユーモアも、
ギスギスしかねない物語に潤いをもたらしている。
ソ連の女性兵士の“アジト”に乗り込んだ場面の“オチ”もリアルだ。

“敵”に復讐するかと思いきや、
“我々”の真の敵を見据える終盤の展開が意外なようで現実の戦争心理だろう。
“戦友”が顔を見合わせるラスト・シーンの苦々しい粋な笑顔が、
この映画を象徴する。

必見。

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★映画『戦争のはらわた』
1977年/イギリス=ドイツ/カラー/1.85:1/133分/原題:CROSS OF IRON
監督:サム・ペキンパー
プロデューサー:ウォルフ・C・ハルトヴィッヒ
脚本:ジュリアス・J・エプスティン、ウォルター・ケリー、ジェームズ・ハミルトン
撮影:ジョン・コキロン 音楽:アーネスト・ゴールド
出演:ジェームズ・コバーン、マクシミリアン・シェル、ジェームズ・メイソン、デヴィッド・ワーナー、
センタ・バーガー
提供:キングレコード 配給:コピアポア・フィルム 字幕翻訳:落合寿和
© 1977 Rapid Film GMBH - Terra Filmkunst Gmbh - STUDIOCANAL FILMS Ltd
8月26日(土)より新宿シネマカリテほか 全国順次公開
URL: cross-of-iron.com


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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