なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画“ヘルツォーク特集2017<誕生!ヘルツォーク>”+映画『問いかける焦土』

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1942年9月5日ドイツ生まれの奇才ヴェルナー・ヘルツォークの監督の75歳を記念して、
東名阪で“ヘルツォーク特集2017<誕生!ヘルツォーク>”が開催される。
上映される映画は以下のとおりだ。

小人の饗宴(1969-1970年 96分)
アギーレ、神の怒り(1972年 91分)
カスパー・ハウザーの謎(1974年 109分)
シュトロツェクの不思議な旅(1976年 104分)
ノスフェラトゥ(1978年 103分)
ヴォイチェック(1979年 81分)
フィツカラルド(1981-1982年 157分)
コブラ・ヴェルデ 緑の蛇(1987年 110分)
問いかける焦土(1992年 54分)日本劇場初公開
キンスキー、わが最愛の敵(1998-1999年 95分)

このうち『ヴォイチェック』『コブラ・ヴェルデ 緑の蛇』以外は僕も観ているが、
様々な意味で狂気を孕むグレイトな映画ぱかりである。
『シュトロツェクの不思議な旅』は、
JOY DIVISIONのイアン・カーティスが首を吊る直前にテレビで観ていた映画としても知られている
(イアンがその時の自分の境遇を映画の主人公とダブらせたという説も有力)。
ドイツのプログレッシヴ・ロック・バンドのPOPOL VUHを“寵愛”し、
彼らの音楽を自分の映画で何度も使っている監督としても有名だ。

ここでは日本劇場初公開の『問いかける焦土』を紹介したい。

35.jpg

『問いかける焦土』は1991年の1月に中東で勃発した湾岸戦争“関連”のドキュメンタリー映画である。
1992年9月8日にNHK教育テレビ(現・Eテレ)の番組『プライム10』で放映されたが、
本編の半分ほどの映像とヘルツォークのインタヴュー+αの44分の構成だったらしいから、
日本での完全版の公開は今回が初である。

湾岸戦争そのものというよりは“関連”のドキュメンタリーと呼びたい映画だ。
というのも、
サダム・フセイン率いるイラクがクウェートを侵攻した“pre湾岸戦争”のシーンではなく、
“ハイテク戦争の走り”で当時テレビのニュース等が報じたヴァーチャルっぽい映像もほとんどなく、
ほぼすべてが“戦後”のクウェートの“変わり果てた姿”だからである。

13章に分かれているのだが、章ごとに付けられたタイトルがイメージを広げるから記しておく。
1首都、2戦争、3戦争のあと、4拷問室の風景、5悪魔の国立公園、6子供時代、
7「炉の煙のように煙は立ち昇る」、8巡礼、9恐竜が動き始める、10紅炎(プロミネンス)、
11井戸を枯らす、12火のない生活、13「私はため息に疲れました。主よ夜を来たらせたまえ」

平時の首都の映像と、言われなければそうは見えない戦闘中のシーンは、イントロダクション。
あくまでも戦争の爪痕がメインだ。
骨が散乱する砂地、イラク側が使ったと思しき拷問道具、石油で真っ黒の国立公園、
イラク軍の暴力で失語症になった子供、言葉を失った老女などなどが映しだされるが、
映画の中心は油田で猛烈に噴き上がる“火柱”とヴァイオレントな勢いの黒煙を止める男たちの
必死の作業の場面である。

35b.jpg

とにかくそういう映像素材を使ってもヘルツォークの映画!に仕上がっていることに感嘆した。
ヘルツォーク自身の狂気の色と匂いで“事実”をリアルかつシャープかつ緻密に描き込み、
映像そのものの強度も申し分無く覚醒させながら観る者の思考をファックする。

炎上現場での消火作業などで使われているマシーンも含めて映像美に息を呑む。
火や油は現代社会に欠かせないものだが、
この映画の舞台では黒煙を生み出して大池や水や空を汚すネガティヴな要素ながら神々しくも映る。
すべての物事が正と邪のどちらにもになりえるようにも見せる。

もちろん馬鹿の一つ覚えみたいにお手軽なスローガンの“反米”を主張するわけではなく、
最新兵器で“イラク退治”に努めた多国籍軍はもちろんのこと、
この10年ほど後に米国とのイラク戦争で再び矢面に立つサダム・フセインも責めない。
糾弾せずに炎と黒煙と油の映像で
湾岸戦争を…いやもっと大きな視点でヒトという不可解な“種”を深く炙り出す。
まるで観ている者すべてが傍観者で、
まるで観ている者すべてが共犯者であるかのように“現場”を映し出す。

余計な説明はせずに映像そのものに語らせている映画ならではの強みを活かした作品だが、
ヘルツォーク自身がナレーションを務め、
必要最小限のコメントとともに“詩”を挿入している。
その言葉も相まってドキュメンタリーを超えた黙示録の佇まいを呈しており、
ワーグナー、シューベルト、ヴェルディ、マーラー、プロコフィエフらの曲の使用も一役買っている。
言うまでもなく音楽は適材適所での挿入で、
現場作業の音声をそのまま延々と流す場面も多いからこそ生々しい。

英語の原題は“Lessons Of Darkness”・・・暗黒の教訓、邪悪の教訓、暗愚の教訓、
ブラック・メタルのタイトルみたいじゃないか。

表現というものをあらためて考えさせられる。
オススメ。


★“ヘルツォーク特集2017<誕生!ヘルツォーク>”
東京 10月7日(土)~27日(金) 新宿K’s cinema
愛知 上映予定 名古屋シネマテーク
大阪 上映予定 シネ・ヌーヴォ

★映画『問いかける焦土』
原題:Lektionen in Finsternis
1992年/仏・英・独/カラー/デジタル/54分

©ロゴWH Werner Herzog Film high resolution

http://www.pan-dora.co.jp/wordpress/?cat=4


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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