なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『静かなふたり』

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2011年の『ベルヴィル・トーキョー』に続く、
74年フランス生まれのエリーズ・ジラール監督による長編2作目。
快作と呼ぶにはまさにbittersweetな甘く苦すぎる映画である。
オッサンの視点ではなくアラフォーの女性監督ならではの観点で、
“年の差カップル”をロマンチック&シビアに描く佳作だ。


主人公は27才の女。
行きつけのカフェで目にした
“貸し間:ワンルーム 家賃:数時間の労働 当書店「緑の麦畑」へ来店のこと”という貼り紙に反応して、
まもなくそのパリの古本屋を訪れる。
頑固そうな70才弱の男が運営していたが、
その二階の部屋に猫と引っ越して働くことを決める。
商売っ気ゼロのその男はちょっとした変人だったが、
労働賃金以上の“金銭援助”に戸惑いつつワケありの男とわかってからも女は惹かれていく。
男の方も女をただのアルバイトとしては見ていない。
出会ってからお互いが何かから解き放たれていったようである。

でもなかなか“一線”は越えられない。
というかいつまでも“一線”は越えない。

ある日ぽっかり心に穴が開いた女が映画館にインドの映画『チャルラータ』を観に行くと、
書店主とはあらゆる点で対照的な男が隣に座ってきた。

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例によってネタバレを極力少なくするため思い切り省略して話の流れを書いてみた。

まずフランス臭い映像センスにしょっぱなからヤられる。
パリの媚薬はこんな匂いだろうと想像させる気温が低そうな寒色の映像のだ。
奇をてらわずに大胆なアングルや対象との適度な距離感も申し分ない。
グレイトな映画のすべてがそうであるようにまず映像そのものに持っていかれる。

カット割りも絶妙だ。
長回しせずに比較的細かく切っていて一つのシーンを長く続けないからこそ、
落ち着いた映画にもかかわらずテンポの良さを生み出している。
グレイトな映画のすべてがそうであるように無駄な部分をさりげなく削ぎ落し、
最近の映画では珍しい長さの70分に濃縮した編集が素晴らしい。
さっぱりしている。
いい感じで乾燥している。
淡泊というより淡い。
パリの街並みの映し方も静謐でゆっくり迫ってくる。

こういったところがデリケイトに撮られているからこそ女と男の意識の流れも浮き彫りになっている。

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最近の日本映画に目立つ“自分の身の回りのこと”に絞ったような物語の映画にもかかわらず、
えらく普遍的で深い。
身内ウケみたいなノリとは百万光年かけ離れている。
意識が外に向いているからである。

女と男の静かなるキャラ立ちがとても自然だ。
女は自分を「つまらない女」と卑下する。
「気ままに生きよう」と言う男は気難しく偏屈で、
政治問題に関してシニカルだし人生に対して冷めている。
孤独者同士で世代間で生じる価値観の違いを楽しんでいるようにも見える。

女と男の遠慮のないトークが楽しい。
ウィット・・・いやまさにエスプリが効いている。
インテリジェンスに富むが、
フランス映画につきまとうスノッブとは違うしインテリ気取って難しい言葉を使うようなことをせず、
会話がとてもわかりやすいところも特筆したい。

とはいえ“デート”は沈黙の時間が長い。
言葉を必要としない二人とも言えるし、
お互いの“腫れ物”に触れつつ、
お互いが“一歩踏み込むこと”に躊躇しているようにも映る。
そのジリジリした時間がもどかしいが、
そのジリジリした時間が二人の最高のしあわせの時間だったようにも映る。

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すべて聴き逃がせない“会話の見せ方”にもうならされる映画だ。
もちろん大半は会話と一致した通常の映像で構成されているが、
ロマンスめいた言葉に限って実際に語っている場面ではなく二人のイメージ映像が使われている。


女「孤独を感じないの、生まれて初めて」

男「君を信じている」
女「私を信じてくれた人は初めて」

男「夕べ、君と愛し合う夢を見た」
女「私も」

女「ジュテーム(Je t'aime~愛している)」
男「私もだよ」

女「私は大人。あなたは反抗する子供」

女「あなたは愛が足りない人だから」


二人の関係の肝になるこういったセリフが、
実際に二人の間で交わされていたというよりは、
女がカフェや自室でノートに綴っている妄想や夢想や願望に思えてくる作りに痺れるばかりだ。

そんな女が繰り返す“独り言”は、
「年が近かったらよかった」。

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僕はこの映画の女にも男にもシンパシーを覚える。
特にこの男、
置かれている状況も年齢も違うが、
反核デモに対する意見も含めて“ファック・ユー!”アティテュードがとても他人とは思えない。
観ていて何度も笑ってしまったが、
爆笑というよりは“くすっ”“プッ!”といった類いの笑いである。

そんなふうに笑っていたからこそラストに至る物語の流れには複雑な思いを抱いた。
ネタバレしないように映画を観てない方に向けてこのブログは書いているから思いを封印するが、
男は自分の殻を破れてしあわせになっている娘を見る父親の気持ちなのだろうか。
ポリティカルな問題も含めて、
女の選択がリベラルかつ現実的で自然と言えばそのとおりだ。
それほどまでにクールなほろ苦さを味わうために、何度でも、何度でも、観たくなる。

さりげなく挿入される音楽も粋だ。
ただ物語を追わせるだけに終わらず時間が経つにつれて酔いが強くなるワインの如く芳醇な、
まさに映画ならではの“五感表現”に痺れるしかない。
オススメ。


★映画『静かなふたり』
2017年|原題:Drôles d'oiseaux|フランス|カラ―|73分
出演: ロリータ・シャマ(『マリー・アントワネットに別れをつげて』)、ジャン・ソレル(『昼顔』)、
ヴィルジニー・ルドワイヤン(『8人の女たち』)他。
10月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
©KinoEletron - Reborn Production - Mikino – 2016
公式サイト:mermaidfilms.co.jp/shizukanafutari


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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