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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『犬猿』

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一組の兄弟と一組の姉妹の愛と憎しみをコミカルにシリアスにシビアに描いたリアリズムの傑作。
窪田正孝、新井浩文、江上敬子(ニッチェ)、筧美和子がメインの出演俳優で、
監督・脚本が吉田恵輔(『純喫茶磯辺』『さんかく』『ヒメアノ~ル』)、
という具合にまさに“役者”が揃っているから悪かろうはずがない。

試写会で笑いが絶えなかった。
と同時に僕の隣で観ていた若い女性のように泣いている方もいた・・・そんな映画は珍しい。
かといって笑いと感動の映画!って単純な作品じゃないからこそ僕は心の底から入れ込んだ。

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兄弟と姉妹の別々の“きょうだい”の物語。

地方都市の印刷会社で働く営業マンの弟(窪田正孝)は、
イケメンながら真面目かつ堅実で老後のために毎月わずかな貯金をする地味な生活を送っていた。
そんなある日、彼のアパートに、
強盗の罪で服役していた兄(新井浩文)が刑期を終えて転がり込んでくる。
弟とは対照的に“人生はギャンブル!”みたいな生き方でオイシイ話に目がない与太者である。
弟は父親が友人の連帯保証人になって作ってしまった借金を一人でコツコツと返済もしてきたが、
ヴァイオレントな兄に対してずっと文句も言えない中でフラストレイションを溜め込んでいた。

一方、上記の営業マンの弟(窪田正孝)が頻繁に仕事を依頼する小さな印刷所があって、
そこには親から引き継いだ会社を切り盛りする別の家族の姉(江上敬子)がいる。
仕事テキパキで家事もバッチリの女だが、ヴィジュアルはイマイチで男慣れしてないメガネっ娘純情派。
対照的に妹(筧美和子)は姉の下で印刷所の手伝いをするも仕事ができない女だが、
ヴィジュアルが良くて雑誌のグラビアやイメージDVDにも登場して女優を目指すタレントの卵。
シモの世話も含む寝たきりの父親の介護をはじめとして家のことを一人で奮闘する姉は、
取引先の男にもチヤホヤされるも家のことは何もしない妹に対してフラストレイションを溜め込んでいた。

仕事上の付き合いからプライヴェイトに付き合いに発展していく中で兄弟と姉妹は交流し、
二組とも同性の“きょうだい”ならではの様々な嫉妬が三角関係を経て燃え上がる中で、
“兄はツケ”が回ってきて“姉”は心が折れて二組各々が“最期”を覚悟する局面に進んでいく。

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まずメインの出演俳優がグレイトな演技で、
よくぞこの4人を揃えた!と膝をポン!と打ちたいほど配役の勝利の映画である。
漫画ちっく一歩手前で、
ウソ臭くなるギリギリところに踏みとどまった大げさな演技でリアリティを際立たせている。
コミカルに描いてるからヘヴィに感じさせない作りながら、
笑いを抑えたくなるほど生々しくナチュラルな立ち振る舞いだからこそ重い。

窪田正孝は超売れっ子なのも納得のオドオドした逆噴射の演技で、
昨秋のテレビドラマ『僕たちがやりました』から就職しても変わらない感じのヘタレぶりが素晴らしい。
新井浩文は凶暴な佇まいが素の姿そのままと思わせるほど天然の凄味のある兄だ。
筧美和子も色々な意味を込めて地でやっているんじゃないかと思わせるほどの世渡り術がハマった妹。
そして江上敬子は残酷なぐらいの必死さが観ていて笑えないほどの痛々しい熱演で息を呑む。
4人全員多少なりともズッコケ・キャラなのだが、
江上はユーモアとペーソスを超越したエクストリームな崖っぷちの領域にまで達している真の芸人だ。

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シンプルでわかりやすい話の展開にもかかわらずツボを心得ていてリアルで深い脚本も見事。
それぞれの兄弟と姉妹にとってヘヴィな問題がお互いが絡み合ったことで加速していく話だが、
深刻なネタなのにそう感じさせないテンポのいい展開とコミカル・スパイスが絶妙で、
しかも作品の肝は妥協してない。

アートな撮り方をしているわけではないが、
対象の人物が置かれている状況と精神状態を見事に捉えたカメラ・アングルも特筆したい。
明るすぎず暗すぎないナチュラルな映像色も生々しい仕上がりに一役買っている。

いわゆる粗削りの作りでもないが、
とにかく綺麗綺麗に仕上げようということより俳優と制作者のすべての熱情が映画に凝縮されている。
だから胸を打つのだ。

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損してばかりの人間がいる。
格差社会がどーのこーのとか調子いいこと言っていても、
損する者がいるから得する者がいるからこそシステムが成り立っているのが現実だ。
要領よく立ちまわる人間が人生を楽しんで自由を謳歌する。
平等みたいな感じで役割分担するパターンもあるだろうが、
家族や“きょうだい”の中は社会の縮図のようで、
責任から逃げない限り一生しがらみに縛られるから一般社会の百万倍残酷だ。
親のために働くなど家族の責任を一人が背負う“きょうだい”も多いし、
特に二人“きょうだい”はどちらか一方が貧乏くじを引く。

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絶えることのない“きょうだい”の間の殺伐とした事件のようなケースと違って、
この映画の“きょうだい”はいざという時には助け合おうという気持ちもあるからまだ救われる。
でも忍耐には限界がある。
とある人物がそれっぽいセリフを心の中で吐くが、
「(相手が)死なないと自由になれない」のが行き着きところまで行った“きょうだい”や家族の姿。
“きょうだい”を比較する親の一言が“きょうだい”の片方を恐ろしく傷つけることもそれとなく見せてもいる。

そういう心情の描き方も深刻になりすぎずにさりげないからこそ、
この映画はヘヴィな話が苦手な方にも入ってくると思う。

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映画の中でも誰かが口走っている“家族なんだから”とか“きょうだいなんだから”とかいう言葉に
重苦しさを感じる方も、
観ると少しは楽になると思う。
さらに
「お兄ちゃんは、変わらないって。変われないんだよ。」というリアリティに満ちたセリフを吐く、
諦観めいた窪田正孝の表情にグッとくること請け合いだ。
ウソがない。

終盤はいわゆる感動の映画の流れで進むが、
最後の最後がコレかよ・・・って感じで、
例によってコミカルな見せ方をしつつ
ラスト・シーンでまた現実を叩きつける監督の容赦ないセンスに舌を巻く。

大スイセン。


★映画『犬猿』
2017年/日本/カラー/ビスタ/DCP5.1ch/103分
2018年2月10日(土)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
(配給:東京テアトル)
ⓒ2018『犬猿』製作委員会
http://kenen-movie.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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