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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ローズの秘密の頁(ページ)』

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子殺しの疑いで40年もの長い月日を精神科病院で過ごしてきたローズのエクストリームな愛の物語。
アイルランドのジム・シェリダンによる5年ぶりの新作で、
第二次世界大戦時にアイルランドで花開いたロマンスから始まる女性の数奇な人生を
ミステリーとサスペンスも絡めてデリケイトかつ容赦なく描いた佳作である。

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精神科病院の取り壊しが決まって転院する患者たちの再診のために訪れた精神科医(エリック・バナ)は、
産んだばかりの赤ん坊殺しの罪で“精神障害犯罪者”として40年もの間収容されている
老女ローズ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)を看ることになる。
赤ん坊殺しの罪を否認し続けるローズは何十年も自分の聖書のページに日記を書き綴ってきたが、
親身になって話を聞いてくれる精神科医と出会ったことにより、
彼女は日記を辿りながら半世紀前の記憶を遡って自分の人生を語り始める。

現在と過去を行き来する形で、
老女ローズが述懐していく過去のシーンが大半を占めるが、
激動の若い頃のみに限られていて中年期は削ぎ落しているからテーマが凝縮されている。

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第二次世界大戦の影響でアイルランドの田舎に避難してきた若き日のローズ(ルーニー・マーラ)は、
宗教的圧力と古く保守的な風習が根付く街で無意識のうちに蠱惑的な魅力を醸し出していた。
そんな中でローズに近づこうとした若い神父(テオ・ジェームズ)らによりスキャンダラスな注目を集め、
叔母の判断で町を追い出されて山奥のコテージに隔離されてしまう。
そんなある日、コテージの近くで1機の航空機が墜落した。
操縦していたのは地元から義勇兵としてRAF(イギリス空軍)のパイロットになった
マイケル(ジャック・レイナー)だった。
コテージに連れ帰り介抱するローズと惹かれ合うが、
マイケルはアイルランド国家主義の反逆者として追われていて、
屈折した前述の神父との三角関係も相まってローズの運命は翻弄されていく。

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オープニングの老女の独白でいきなり打ちのめされる。
弱っているお年寄り、
特に非業の人生が刻みつけられた顔の女性は見ていてつらい。
だがその目は不屈の意思と意志に貫かれ、
こっちの目もそむけることができない。

ローズが精神科病院に“連行”されてからは非情の嵐で、
そこでの仕打ちは目を覆いたくなるほど容赦無く、
厳選して見せているだけに一つ一つが心臓に突き刺さる。
いたたまれない。

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アイルランドと英国の当時の政治背景やカトリックとプロテスタントの宗教の問題が、
さりげなく溶かし込まれているところもポイントだろう。
そういう背景をわかっているとより深く味わえる作品だが、
予備知識がなくても夫と子どもへの深い愛と底無しの絶望の念を堪能できる。

ただ1940年代当時のアイルランドにおけるカトリック教会の保守的な女性観が
ローズの人生をズタズタにしたこともまた事実である。
誘惑したわけでなくても男を欲情させる佇まいというだけで女性は精神科病院に連れ込まれ、
カトリック教会や修道院が運営する収容施設では残酷に扱われたらしい。
ローズがこっそりと何十年も書いていた日記が、
余白を利用しつつ聖書の言葉の数々に上書きする形で綴られていたことで彼女の心理を深読みもできる。

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教会の権威ゆえに一人の神父が一人の女性の運命を支配することも可能な時代だったという。
そんな男の嫉妬の恐ろしさと“人間味”も知らしめる。

誰にも迷惑をかけてないのに拘束する警察の不当逮捕みたいな調子で精神科病院に収容される。
さらにハードな状況下で一人で産んだばかりの子供のヘソの緒を自分で叩き切ったがゆえに
目撃者から赤ん坊殺しの疑いをかけられて“精神障害犯罪者”扱いにされる。
その間に最愛の男はどうなっていたのか。
その間に以前からローズを狙っていたた神父は何をしていたのか。
悲劇にミステリーとサスペンスを絡めてうねりを打つ壮絶な波に観ている者は飲み込まれていく。

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若い頃も老女になってからも大半が断末魔であるローズ役の女優二人の必死の演技はもちろんのこと、
ローズの永遠の恋人のマイケルと深い闇を感じさせる神父役の二人の男優、
疑心暗鬼になりながらも老女ローズと真正面から向き合う誠実な精神科医の男優も好演だ。

ほとんどの時期が厳寒のローズの心模様と共振している凍てついた色合いの映像にも身が引き締まる。
当時のファッションを反映させた服装などのアイテムも見どころの一つだ。
べートーヴェンの「月光」などの静謐なピアノをはじめとするクラシカルな音楽のささやかな挿入も、
ひとつひとつのシーンの心理とひそかに寄り添っている。


ハッピーエンドなのかどうかはわからない。
でも終盤、
これを救い、
そして赦しと思いたい。


★映画『ローズの秘密の頁(ページ)
2016年/アイルランド/108分/英語/原題『The Secret Scripture』
2月3日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開。
© 2016 Secret Films Limited
http://rose.ayapro.ne.jp/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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