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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『人間機械』

MACHINES_main.jpg


インドの繊維工場で働く人間たちのドキュメンタリー映画。
原題は『Machines』だが、
ドイツのKRAFTWERKのアルバム・タイトル『The Man-Machine』を思い出す邦題も
本作の肝をわかりやすく表しており、
センチメンタリズムを削ぎ落したハードコアな佳作である。

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インド北西部グジャラート州にある巨大な繊維工場が本作の舞台。
老年から少年までの出稼ぎの男性たちが勤めている。
まさに朝から晩まで働いている姿が映画の大半を占める。
少なくても映画の前半はひたすら労働シーンだが、
デビュー作とは思えない監督の編集センスで肝が凝縮されている。

まず映画の中の過半数のシーンの空間に轟く工場機械の音に目が覚める。
一般的にはノイズなのかもしれないし、
言ってしまえば文字通りリアル・インダストリアル・ノイズだが、
“雑音”には聞こえない。
リズミカルな音だから猛烈にラウドなミニマル・ミュージックにも聞こえる。
音も重視した映画でサウンド・デザイナーも擁した制作体制だけに、
“レコーディングの仕上げ”も万全である。
サブカルなノイズとは別次元で労働者たちの真剣な思いが託された生の音であり、
混じりっ気のない“純音”だ。
劇場で体感したい音響で研ぎ澄まされた“美”すら感じる。

MACHINES_sub_5.jpg

音と共振した映像にも覚醒される。
引きと押しが絶妙で対象に対しての的確なアングルの撮影によって、
陰影が十分で彫りの深い映像に息を呑む。
スクリーンで観たいダイナミズムにあふれ、
たとえ汚れが目立とうが工場機械も“メカ”としてクールな輝きを映し出し、
休憩時間以外はフル回転の機械のタフな息吹も感じ取れる。

映画のメインの労働者たちの姿からも目が離せない。
さすがに冷房が効いているのだろう汗だくには見えないが、
機械のオイルなどの匂いとともに汗の匂いが漂ってくる生々しさで迫ってくると同時に、
ひたすらストイックに迫ってもくる。
シャープな編集も功を奏し、
規則正しい動きも浮き彫りにされて人間が機械のように見えてくる。
まさに黙々と仕事をしている労働者たちの動きと佇まいにも、
彫像のような研ぎ澄まされた“美”すら感じる。

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だがみんな無表情なのが怖い。
サボっているのが見つかったらヤバいのだろうし、
真剣に仕事に取り組まないと大ケガをしそうな仕事場というのもある。
表情が消されたかのようであり、感情を殺されたかのようでもある。
目はしっかり開いているが、生気に欠けているように見える。
睡眠不足か過労かウトウトしている少年も映し、
休憩時間と思しき時間にみんな工場内で横になって寝ている姿にも目を奪われる。
そうやって労働者たちの苦闘をゆっくりと滲ませていく。

朝8時から夜8時までの労働だという。
耳栓をしていても長時間だと耳が殺られそうな音の場所だけではないが、
染料を作る作業も薬品を扱うから危険に見える。

基本的に映像そのもので勝負の映画ではある。
語りなどが一切ないドキュメンタリー映像作品として見せることも可能だったであろう。
でも勤勉な労働者の“ピュア”な記録映画という誤解を受けかねないからか、
必要最小限の言葉でテーマをほのめかしていく。

MACHINES_sub_9.jpg

数人が語っている。
子どもを育てるためなどの現実問題を抱えている人もいる。
休憩時間の嗜好品もほんとささやかなもので、
タバコも買えないほど切り詰めている。
金は貯まらなくても腹は満たせると言う人もいる。
底無しの諦念を感じずにはいられない。

中国に次ぐ世界第二位の人口ということも相まって国も隅々までフォローできず、
インドも格差がハンパないわけだが、
この映画も現実の一つのでしかない。
映画の中では「強制ではない」と答えている労働者もいるが、
世界中のいわゆる強制労働者の半数はインドだという。

この工場はマシな方だとも言う。
公にされても問題がないという“自信”もっているから会社は撮影にも応じたのだろうが、
経営者と思しき人が発した労働者たちに対する考え方の話も強烈だ。

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終盤に監督をはじめとする映画のスタッフが労働者たちに工場の外で囲まれるシーンがある。

いわゆる弱者や被抑圧者を“ネタ”にするジャーナリストやルポ・ライターやカメラマンも、
反体制や反権力を気取っていようが所詮政治家や権力者と変わらない同じ穴のムジナ思うことは、
僕にもある。
いわゆる正義や良心で行なっていてるつもりの告発が目的の一つだとしても、
書き手や撮り手が内省して自分自身の軋みたいなものを掘り下げて表現してないと
傲慢なエゴが見えてきてしまうのだ。

ラーフル・ジャイン監督はインドの首都のニューデリーで生まれてヒマラヤで育ち、
カルフォルニア芸術大学で映画とビデオを学んだ。
労働者たちには監督も恵まれた環境で生きてきたエリートに見えたのかもしれない。
この張りつめたシーンを入れることは監督らの“免罪符”とも解釈されかねないが、
編集段階で削除しなかったところに監督の誠実さを見る。
荒っぽいわけではないにしろ
突き刺す目とトーンを落とした声の労働者たちのいらだちの深さが描き込まれ、
映画全体の説得力を増している。

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さらに終盤、工場の屋上での労働者のシーンがある。
自分たちが汗水流して作ったものにもかかわらず仕事中以外は縁がなさそうな“美”を身にまとっている。
“設定”は一種の演出だろうが、
幻想のようなこのシーンの表情にウソはない。
仕事中は一種の軟禁状態で閉じ込められた工場内から“飛翔”し、
解き放たれた労働者たちの生き生きした顔に、
監督の祈りを感じた。


★映画『人間機械』
2016年/インド・ドイツ・フィンランド/デジタル/カラー/71分
7月21日(土)〜渋谷ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー。
http://www.ivc-tokyo.co.jp/ningenkikai/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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