hell - guchi『ONE LAST WISH』(書籍)
2018-08-04

FUGAZI~DCパンク・シーン周辺のファンのツボを突くタイトルで放った、
1975年滋賀県生まれの男性であるhell - guchi執筆本の第二弾。
8月1日に文芸社から発売されている。
小説形式のデビュー作の半生記『LIFE.LOVE.REGRET』を出す1ヶ月前の2016年3月から
2017年12月までを、
日記形式で綴った回想記である。
テーマごとに数章に分けられていて、
個々の章の中では時系列になっている。
序盤はライヴ・ハウス等に出かけた時のことやバンド関係者などとの交流の話が中心で、
人名に関しては“イニシャル・トーク”が多いが、
所属バンド等が書かれているから
わかる人にはわかる。
かなりマニアックだが、
精力的に観に行っていて東京にも足を運んでいる人だから
ポスト・ハードコア以降のバンドに興味のある方なら引っかかるバンド名が目に入ると思う。
バンド関係のネタが60ページ近く続いた次に、
母親との“神社巡り”が20ページ繰り広げられる。
これまたマニアックで最初は唐突にも思えたが、
以降のページにつながるスピリチュアルな橋渡しみたいな章とも言える。
中盤以降は2人の女性との関係の話だが、
“恋愛”と言っていいのかわからない微妙なドラマで100ページ以上を一気に読ませる。
最後の最後は前作本のプロモーション奮闘記だ。
日によっては数ページにまたがってもいるが、
日にちによって区切られているから読みやすい。
ヘヴィなことが起きた日もわりと飄々と綴っていて、
感情をあまり重く刻み込まずに淡々とした軽妙なタッチが特徴。
激情のスクリーム!というよりはラップっぽい。
どこに出かけた、何々をした、外食で何食べた(といってもほとんどがラーメン)ということを、
シンプルに書き、
そこかの心象風景を薄っすらと炙り出している。
書名の『ONE LAST WISH』はhell - guchiのとある所持品に刻まれているフレーズだが、
RITES OF SPRINGとFUGAZIの間の1986年に
ギー・ピチョットとブレンダン・キャンティがやっていたバンド名でもある。
ONE LAST WISHの音源は解散後10年以上経ってからDISCHORD Recordsから出たが、
hell - guchiのライフ・スタイルは
DISCHORD Records周辺のストイックなイメージとはかなり違う。
“エモ”からイメージされる内向性ともちょっと違う。
そんなところも愉快だ。
hell - guchiはポスト・ハードコア~激情ハードコア系だけでなく、
ハウス/テクノ系のトランスものも愛聴している。
プロローグとエピローグにバンドやアーティストなどの言葉が引用されていて、
envyなどの歌詞とともにEVISBEATSやTHA BLUE HERBのリリックが載っているのも、
hell - guchiの志向性を象徴する。
本作から読み始めても楽しめるが、
前作のキーパーソンで他界している父親と、
本書の後半のキーパーソンの“彼女”が間に立ってhell - guchiがコンタクトしているのが今回の肝。
“彼女”がhell - guchiの父親と霊的な“交信”をしているからだが、
hell - guchiと“彼女”の関係が微妙になると父親が仲を取り持ったりしているのもユニークだ。
hell - guchiが“オカン”と表記する母親との超親密な関係や、
“彼女”たちとの刺激的な関係など、
ちょこっとジェラシーすら覚える。
映画化も面白そうな一冊だ。
★hell - guchi『ONE LAST WISH』
文芸社
ハードカバーの220ページ。
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-19587-2.jsp
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