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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『シャルロット すさび』

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全身が痺れる新作映画を久々に体験した。

1945年の2月に東京で生まれて1988年からフランスに住んで60歳を過ぎてから映画製作に入った、
現役舞踏家・岩名雅記による監督/脚本の長編劇映画第4作。
前妻への鎮魂の想いで作ったらしいが、
単なる“私小説映画”をはるかに超えたスケールで迫る深遠な大作である。

断続的にフランスのパリとノルマンディや日本の東京と福島で計ほぼ7週間撮影。
出演者は実質的に主演で普段もパフォーマーの成田護を筆頭に日本、
イタリア、フランス、レバノン、スウェーデンなどから、
俳優、舞踏アーティスト、パフォーマーが参加し、
スタッフも日仏ほかの混合チームで作られている。

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現代のパリが“もともと”の舞台。
自身のアート活動に深くのめり込んで妻を失った日本人パフォーマ ーのカミムラは、
シンバルを使ったパフォーマンスが以前のようにはできなくなっていた。
そんなある日にカミムラは公演に使う板ガラスを買うためにガラス店を訪れ、
夫と子どもがいる日本人の店主の女性に出会う。
同じ日に突然の雨で地下鉄構内に入り込んだカミムラが目にしたのは、
大勢の人々の視線にさらされる下半身“欠損”のイタリア人女性のシャルロットだった。

以上はオフィシャル・サイトに載っている序盤のあらすじをアレンジして書いたものだが、
以降の物語を詳しく書くことはやめておく。
映画でしか成し得ない時空を超えた奇想天外のストーリーの表現で、
理路整然とした文章にしにくい話の流れだからでもある。
映画だけが持ち得るリアリズムとロマンが静かに息をしているのだ。

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カオティックな映画でパズルのような作りだが、
カミムラと人妻の一種の不倫関係を軸に話が進むから“ストーリーの路頭”に迷うことはない。
そこに亡くなったカミムラの妻の幻影が重なって物語はふくらむ。
人生を翻弄されたフリークスのシャルロットや、
東日本大震災以降の福島県で国からも村人からも見捨てられつつ
よろず屋を営業している怪しい主人と孫娘と共に共同生活。
まもなく「より遠く、より速く、逃げる」終盤に加速していく。

そんな調子で、
フランスで物語が始まるも
いつのまにか昭和30~40年代の日本と2011年以降の日本の邂逅の渦に突入する。

大疾走

岩名監督がよく観ていた60年代のATG作品や70年代の日本ヌーベルバーグの映画を思い出す。
若松孝二の初期作品などのあの時代のアンダーグラウンドの邦画の匂いがしてくる。

と同時にポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督の一連の映画にも、
エロチック感覚やユーモア、さりげない政治のダシの刷り込みの点で通じる。
本作みたいな激しいセックス・シーン無しとはいえ、
特にスコリモフスキの60年代の映画を想起するアナーキーなコマ割りやリズムを彷彿とさせる。

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もちろんノスタルジックな作品とは一線を画し、
やはり日本でずっと生活している監督とは一味違う感覚に目が覚める。
邦画伝統のジメジメしたムードや最近のサブカル系邦画に目立つグダグダした雰囲気はなく、
彫りの深いモノクロ中心の映像をはじめとして
研ぎ澄まされて適度に乾いた質感でつまずきながらゆっくりと疾走する。

171分もある。
だがこの映画に無駄はない。
グレイトな映画のすべてがそうであるようにすべてのシーンが必然だ。
基本的には落ち着いた佇まいでどちらかというと寡黙な映画だが、
示唆に富む数々のセリフ、
映画の話の筋を補強するシンボリックな映像、
現代音楽風の曲や様々な軋みの音、
といったものの挿入もストイックで引き締まっている。
何しろ映像そのものに、
アイテム一つ一つを丁寧に映しこむことに“理由”があるディテールへのこだわりを感じる。

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純なプラトニック・ムードから混じりっけなしの交尾シーンに突入する落差がリアルで、
日本出身の監督の映画でこれほど“スケベ”なシーンに魅せられた作品は久々だ。
セックス場面に時間を割いている映画は内外問わずその生々しさで全体の出来が決まる。
ぼかさず性器露出せずのプリミティヴな絶妙の手法も織り交ぜ、
セックスというより性交という言葉がふさわしいナマの容赦なき描写にひたすら息を呑む。
しかも体位を変えて何度も重ねる廃屋における“まぐわい”は、
主人公の“トラウマこだわり”ゆえにすべてガラスの上で行なわれる。
二人を覗き見する男の“性行為”も含めて生きている証しとばかりにすべてがエネルギッシュだ。

そういった人間たちの性の営みのかたわらで
ヒトという種以外の牛や昆虫や魚などの生物の息遣いを絡めたところも特筆したい暗示である。

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フリークスのシャルロットは映画が始まってしばらくはアクセント的な脇役に見えるが、
映画のタイトルに名前が使われているようにも
終盤に向かうにつれて本作の象徴的なキーパーソンであることがわかる。
彼女の様々な“肉体”が放つ光は覚醒の調べ。
まさに“すさび”の肝だ。

映画に限らずグレイトな表現のすべてがそうであるように、
“これが正解!”といった調子で白黒つけて押しつけることのない作品である。
僕は試写会で一回観ただけだが、
観るたびに違った“表情”が見えてきそうなほどディープな示唆に富む。

結論なんか知ったこっちゃない。
意識が触発されることがいちばん大切だから。

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★映画『シャルロット すさび』
企画・製作:Solitary Body/2017年日仏映画/171分/白黒+パートカラー/16:9/デジタル撮影
10月6日(土)~19日(金) 東京新宿K’sシネマにて2週間上映で、
全国順次ロードショー予定。
なお、9月28日(金)には東京上映・記念イベントが
小田急線成城学園駅前のアトリエ第Q藝術で行なわれる。
http://www.iwanabutoh.com/film/susabi/indexJP.html


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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