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なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『岬の兄妹』

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“無職”で足の悪い兄と自閉症の妹のエクストリームな兄妹愛を描いた問題作。
中途半端でイライラさせられる映画が目立つ中、
これほどすべての針が振り切った邦画は久々だ。

松浦祐也(『ローリング』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』他)と
和田光沙(『貌斬り~KAOKIRI~』『菊とギロチン』他)が兄妹を演じ、
風祭ゆきが産婦人科の医者役で特別出演。
監督・製作・プロデュース・編集・脚本は、
ポン・ジュノや山下敦弘監督作で助監督を務めてきた片山慎三である。
サブ5
港町の掘っ立て小屋での底辺生活を送る兄妹の物語。
兄はある日、脱いだ服や下着から妹が“売り”をやったことに気づくが、
“失踪癖”もあるだけに外出できないようにするも妹は家の中でじっとしていられない。
その直後に兄はリストラ。
足が悪い上に都会と違って仕事がなかなか見つからないという事情もあるのだろう、
家賃も電気代も払えない状況に陥る。
そんな中でも元気な妹は外に出たがり、
「冒険~」という言葉を連発する彼女の姿を見ているうちに
兄は妹の“売り”の斡旋を思いつく。

トラブルを重ねて試行錯誤しながら“営業体制”を整えて“仕事”は軌道に乗っていくが、
危ない橋を渡っていることに変わりはなく、
やがて大きなツケがまわってくる。
サブ1
映画の大半を占める兄妹の演技がとにかく素晴らしい。
“なんでもいいから ぶち壊せ/なんでもいいから さらけだせ”という、
三上寛の歌の「小便だらけの湖」を思い出す。

特に和田光沙の超体当たりの熱演は感動を超える。
人間自体がそれぞれ違うように自閉症の方も一人一人違うことを念頭に置きつつ、
リアルに響いてくる演技なのだ。
幼少時から快楽に敏感だっただけに誤解を恐れずに言えば“天職”であるかのように
行為が楽しくてしょうがないといった調子で、
ノリノリ無邪気にセックスに興じるシーンは観ていてこっちも楽しくなるほどの名演である。
兄との確執などで地割れを起こす勢いで泣くシーンも強力だ。
もちろんわざとらしさなんて微塵もなく、
常連客との“ロマンス”のところもまたかわいい。
サブ3
もちろんとことんシリアスな映画でありテーマは重い。
中途半端なギャグでごまかさずに“真剣勝負”だからこそ、
悲劇が喜劇に“昇華”されている。

兄役の松浦祐也のダメ男ぶりも見事だ。
ダラダラした怠け者とは一味違い、
生きるために原始的な発想で必死に道を切り開こうとしている。
意識高い系とは真逆の火事場の馬鹿力がエナジーになったパワーの言動に
苦笑と失笑を禁じ得ない。
実にいい顔しとる。
サブ2
本人が積極的になっているとはいえ妹を“売り”に出す兄は道義的にサイテーだが、
その行為のすべては妹のしあわせな顔を見たくてやっているようにも思える。

“売り”の斡旋を始めたのも二人の生活のためとはいえ、
半ば閉じ込められてもいた家から解放された妹の“変化”に兄は気づいていく。
ふにゃふにゃの爺さんからイジメられっ子の童貞高校生までの他人の役に立ち、
しかも心身ともに気持ちよく“仕事”ができる喜びにあふれ、
生きがいを得た人間の活き活きした表情になっていくのである。
サブ4
この兄妹の行為は犯罪に当たるのかもしれない。
だが二人は、
ホームレスと争いながらもゴミを漁って食料を確保することはあっても万引きはしてない。
盗みに入ったお店をつぶしかねない万引家族と違って、
この兄妹はお金を無心される友達以外にほとんど他人に迷惑をかけてない。

二人の食事シーンも強烈だ。
たくましくて身も心もハングリーな兄妹なのである。
サブ7
生々しく簡潔に映し出すセックス関連のシーンに象徴されるように、
間延びしてない編集も的確でゆっくりしたテンポの良さを生んでいる。
さりげなく映し出す情景や風景の映像からも地方の匂いがさりげなく漂ってくる。
適度に入る髙位妃楊子のピアノ音楽も緊張感を高めながら兄妹に寄り添う。


一瞬、ふりだしに戻ったかのように見せかけたあと、
“兄妹愛”の物語の続きを観る者にゆだねたラストの余韻もいい。

必見。
サブ6
★映画『岬の兄妹』
2018年/シネマスコープ/89分/5.1ch SURROUND SOUND
(C)SHINZO KATAYAMA
公式ホームページ:misaki-kyoudai.jp
3月1日(金)より、イオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。


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コメント

シネマスコープで89分というフォーマットがまずイイ感じですね!
これは観たい。
中身のないハリウッド映画も辟易ですが、ここ最近の上辺だけ "華やかな" 装いの邦画にもウンザリです。
コードブルー劇場版にいくら客が入ろうが知ったこっちゃないし、テレビドラマの顔芸大会をスクリーンに延長したような映画も用はないです。
漫画の「賭けグルイ」だか何だかの劇場版もやるようですが、テレビの予告編を見ただけで駄作臭がプンプンする。
芝居の出来てない小娘タレントの学芸会に毛が生えたレベルの台詞回し。そんなもんスクリーンで見て何が面白いんだろうか。
まだ上映してもいない映画を駄作と言い切るのもどうかとは思いますが、自分の直感がそう思います。
もしかしたら "違う" かも、という淡い期待をした自分がバカだったと思わされる、貧しい気分で劇場を後にした経験が一度や二度ではないので。
そういうクズ映画が金を稼ぐのが現実と言われりゃそうでしょうが、そんな作品ばかり本数が増えていっても邦画界は先細りするばっかりですよ!
デロデロしていてワル甘い、溶けたバニラアイスみたいな映画に金を払いたくないです。はやく淘汰されてほしいですね。
何とは言わないが最近そういうやつに付き合いで観せられてイライラするばっかりだったので怒りが表出してしまいました。
昨年やたら評判になった『カメラを止めるな!』もピンとこなかった。

Re: タイトルなし

Nuggetsさん、コメントありがとうございます。
Nuggetsさんの好みに合う映画だと思います。ありきたりの甘ったれた反体制とかとは次元が違い、なんもかも知ったこっちゃない!たくましいな諦念も感じさせ、まさにギリギリ感に満ち満ちた映画です。
> シネマスコープで89分というフォーマットがまずイイ感じですね!
まさに! 音楽のアルバムがLPサイズの40分前後がベストと同じ感じで、映画も90分程度の尺がベストと痛感する昨今です。
いわゆるハリウッド系の最近のはほとんど観てないのでなんとも言えませんが、大メジャーどころはそんなにないとはいえ、試写で観る機会に恵まれているので偏見無しになるべく観るようにしています。日本公開は6月ですが、ポーランドの『イーダ』の監督の新作映画『COLD WAR あの歌、2つの心』は、映像も物語も音楽も期待を上回る最近観た絶品作です。
ただ書いたように、特に邦画は中途半端な映画が目立ちます。やっぱり根本的に飢えてないんですね。映画に限ったことではないですが。でもアイドルものだろうと、完成度高くなくても一生懸命でグッ!とくる映画と出会うことも少なくないので、視野を狭めないように日々臨む次第であります。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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