FC2ブログ

なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『COLD WAR あの歌、2つの心』

メイン


ポーランド映画の枠を超えて映画史に刻まれ、
この先何年も何年も語り継がれるラブ・ストーリーの新たな名作である。
世界中を酔わせ続ける『イーダ』(2013年)に続くパヴェウ・パヴリコフスキ監督の新作で、
冷戦下のポーランドで出会って時代に翻弄される女と男の波乱万丈のマスターピースだ。


第二次世界大戦後の“冷戦(cold war)”に揺れるポーランドから物語は始まる。
歌手を夢見る女性ズーラとピアノを弾く音楽家の男性ヴィクトルは音楽舞踊団の養成所で出会い、
生徒と講師の関係を超えて恋におちるも、
政府に監視されるようになったためヴィクトルはパリに亡命。
ズーラは舞踏団の公演で訪れた先でヴィクトルと再会し、
幾度かのすれ違いを経て共に暮らし始める。
まもなくズーラはソロ歌手で活躍していくが、ある日突然ポーランドに帰国し、
あとを追うヴィクトルには思いもかけぬ運命が待ち受けていた。

sub2_2019060700121988b.jpg

オープニングからエンディングまで息を飲むほどすべてがパーフェクトだ。

まず今の時代ならではのシャープなモノクロの力を活かした彫りの深い映像が、
“感動”とか“傑作”といった陳腐なホメ言葉を寄せつけないほど凛然としている。
物語や人物の心も息づく陰影たっぷりで研ぎ澄まされた映像がスクリーンで命を吹き込まれ、
重厚な佇まいであると同時に軽やかに踊りダイナミックに躍る。
あちこちのシーンで往年のポーランド映画の名作群を思い出すのは僕だけではないだろう。
すべてが名場面と断言できるほど目と頭と心に刻み込まれるシーンの連続であることも驚異だ。

女を演じたヨアンナ・クーリクと男を演じたトマシュ・コットの“憑依力”も素晴らしい。
特にヨアンナは、
はすっぱでふてぶてしくも純情でアクシデントに見舞われて時に迷いも見せつつ
障害に出くわすごとにパワーを増す強靭な意思と意志のズーラを好演。
女の執念や情念といったものもイメージさせる行動だが、
そういう匂いを感じさせないほど冷たいエナジーがみなぎり、
“cold war”という言葉が政治性を超えて彼女が愛を貫くための“戦い”の意味を帯びている。

sub_1_20190607001215250.jpg

この映画で展開される時代(1949年~1964年)が冷戦の前期あたりで
映画のメイン舞台の大半がその“最前線”だけに、
避けることのできない当時の政治の色がナチュラルに溶け込んでいる。
もともと冷戦とは、
ソ連(現ロシアを中心に1991年まで続いた巨大連邦国家)やその支配下の東欧諸国などの“東側”と、
米国や西欧諸国や日本などの“西側”とが睨み合った、
第二次世界大戦後の緊張関係を示す言葉だ。
東側に含まれていたポーランドは強権の全体主義国家だったソ連の影響が絶大な時期で、
“東西”の行き来にかなり制限があった時代ならではの出来事が本作のスパイスにもなっている。
なおポーランド、ベルリン、(旧)ユーゴスラビア、パリに移るストーリーだけに、
場面が大きく変わるたびにその舞台となる土地と年を表示する作りで物語の展開理解の良き助けになる。

でも決してポリティカルな映画ではない。
アートなイメージも漂っているかもしれないが、
物語の基本はシンプルかつストレートでわかりやすい。
映画ならではの非日常的な空間に引き込みつつもポピュラリティ十分で誤解を恐れずに言えば、
先の読めない展開にドキドキワクワクしながら楽しめるラヴ・ロマンスである。
時代が引き裂く女と男の愛というテーマは映画の定番で50年以上前の欧州が舞台ながら、
普遍的で現在進行形の瑞々しいリアリズムとロマンチシズムにあふれている。

sub3_201906070012201c9.jpg

もちろん話の流れはしっかりしているが、
一瞬唐突に次の“場面”や“時代”に転換しているようにも感じる編集がまた見事である。
馬鹿丁寧に“原因と結果”を“説明”して観る者の想像力を殺すことなく逆に突き放し、
ストーリーの“肝”と“核”のみで話をつなげて欧州の格調の“侘び寂び”を放射しながら進める。
“美”を感じるほど贅肉を削ぎ落しているからこそ覚醒させられるほど濃密だ。
シーンとシーンの“行間”を感じ取るかのような作りながら決して難解な映画ではなく、
ある意味省略された“余白の部分”は観る人にゆだねて自由に物語をふくらませられる作りである。
カット割りの思い切りが良く大胆だから、
せわしない映画ではないにもかかわらずテンポがいいところも特筆したい。

精神的にハングリーゆえにストイックな仕上がりになる。
作りに甘えがない。
節目で入るラヴ・シーンにも言える。
野原での戯れも屋内での情事も“これぞ映画!”って感じで観ている人が憧れること必至の
ナチュラルな絡み方と鮮やかな映し方で、
ダラダラ続けずに見せるからこそ濃厚だ。
セリフも必要最小限で極々“ふつう”のシンプルな言葉にもかかわらずこれまたクールに響く。

sub4_20190607001223d16.jpg

使われた曲が網羅されたサントラ盤がこれほど欲しいと思った映画は僕にとって初めてだ。
聴見えてくる音楽もすべてが生きている。
BGMとして背景で使われているのではなく、
映画の中で実際に歌われたり演奏されたりしている音楽だからこそますます生きている。
ヴァラエティに富み、
アレンジを変えて何度か歌われる本作のテーマ曲と言うべき民謡「2つの心」などの民俗音楽や、
ポーランド映画の伝統とも言うべきジャズが映画全体に息を吹き込んでいる。
最初のロックンロール・ヒットのBill Haley and His Cometsの「Rock Around the Clock」や、
ラテン音楽などの躍動する後半の音楽も素敵なアクセント。
どの音楽も映画の場面や登場人物の心情と共振しているからこそ生き生きと響いている。

幅広い意味での様々なダンスも見どころだ。
民俗音楽とともに披露される優雅な踊りもロックンロールに点火されたワイルドな“舞い”も、
痺れるパフォーマンスをヒロインのズーラらが披露してくれる。

zimna_wojna_fotosy156.jpg

「映画に恋したのは久しぶりです…」。
本作の関係者の方が言っていた言葉である。
絶品のラスト・シーンまで観たら誰もがそう思うに違いない。

まさにグレイト。


★映画『COLD WAR あの歌、2つの心』
2018年/原題:ZIMNA WOJNA / ポーランド・イギリス・フランス/
モノクロ /スタンダード/5.1ch/88分/ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ 
撮影:ウカシュ・ジャル
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他。
6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
配給:キノフィルムズ
https://coldwar-movie.jp/


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/2152-16eec57f

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (11)
HEAVY ROCK (265)
JOB/WORK (340)
映画 (313)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (48)
METAL/HARDCORE (51)
PUNK/HARDCORE (457)
EXTREME METAL (142)
UNDERGROUND? (129)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (143)
FEMALE SINGER (46)
POPULAR MUSIC (35)
ROCK (91)
本 (12)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん