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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

水晶の舟(Suishou No Fune)『失われた楽園の樹々を想ふ(- The Lost Trees of Paradise -)』

水晶の舟


東京拠点に我が道を歩む水晶の舟が結成20年目の年の終盤に発表した6曲入りのライヴ・アルバム。
2016年の1月5日に行なった自主企画シリーズ・ワンマン・ライヴの
“水晶の舟 UNDERGROUND SPIRIT Ⅳ - 失われた楽園の樹々を想ふ”から抜粋したLPだ。

まず音質を特筆したい。
新譜も旧譜も最近製造されるレコードは妙に“ひきこもった音”で萎えることも多いが、
アナログ盤ならではの音の柔らかさや彫りの深さ、コシの強さが引き出されている仕上がり。
計57分強だから物理的にLPサイズだとダイナミック・レンジ等がキビしくなるが、
この日のライヴ会場の高円寺ショーボートの狭い空間の中でのダイナミズムが
溝に生々しく刻まれているレコードだ。


オリジナル・メンバーの紅ぴらこ(g、vo)と影男(g)のみの活動も行なってきているが、
これは現在の4人のロック・バンド編成による唯一の音盤でもある。
水晶の舟の“静”の面がよく表れているアルバムながら、
やはりバンドならではのダイナミクスが格別の作品だ。
2本のエレクトリック・ギターの綴れ織りを基調としつつ、
松枝秀夫(b)と原田淳(ds)の渋味の利いた音もよく歌っている。

インプロヴィゼイションを絡めつつ、
やはり楽器も含めてすべてが歌・・・日本の土壌から生まれた水晶の舟の歌である。
語りと演奏でゆっくりと進めるB面の2曲目では、
紅ぴらこと影男が飼っていた猫との関連性も綴られている。

ミニマルな反復も多用されるサウンドは、たおやかで、
のぼっていく感覚に、ゆっくりと持っていかれる。
妖女と幼女のわらべ歌みたいなヴォーカルも含めて、
やはり、まさに、研ぎ澄まされて凛としたリアル・サイケデリックな表情をたたえている。
このレコードの音響効果も相まって底知れぬ深いところから立ち現れてくる。
ポーズなんて微塵もない。
そんなもんを必要としない揺ぎ無き強靭な意思と意志にさりげなく貫かれている。


実のところ当初この音源は、
生悦住英夫が主宰したPSF Recordsから2016年の4月に発売されるはずだったという。
だが生悦住が体調を崩して2016年のPSFのすべてのリリース予定が中断。
結果的に水晶の舟を観た最後のライヴになったこの公演の約1年後の2017年2月に生悦住が他界し、
それから紆余曲折を経て米国のレーベルからリリースされたものである。

その生悦住の娘さんが本作の曲の歌詞の英訳を行ない、
薄手の和紙に印刷して封入されている。
アルバム・カヴァーは一枚一枚が手作り。
本作のテーマに沿うように表と裏に別々の葉っぱが刷り込まれ、
伝統的な和紙をメンバー全員でジャケットに貼り合わせたという。
表面はアートワークのデザインをした影男(g他)による日本語でのバンド名とタイトル、
裏面には紅ぴらこ(g、vo他)によるアルファベットでのバンド名とタイトルが、
手書きで書かれている。

水晶の舟は植物にまつわる曲を多くやってきているが、
この日のテーマにならってこのLPには、
代表曲の一つである「花になって」を最初と最後に持ってきた他に、
「失われた楽園の樹々を想う」「ヤツデ」「ケヤキ」も収録。
エコとかのメッセージ以前の次元で、
アルバム全体が自然な形でオーガニックな作品として仕上げられている。


いつも言うようにパッケージすべてで表現だから。
サブリクション・サービスとやらも含むいわゆるデジタル・データ音源なんかで
曲に耳を傾ける聴き方ができるわけない。
あんなもんただ聞き流すか試聴用でしかない。
敷居を低くし過ぎることによって作品への敬意も失われる。
音楽への向き合い方は人間関係と同じだ。
簡単に使い捨てなんかしたくない。
匂いも手触りもひっくるめて感覚すべてを使って真正面から向き合わないと
対象の意識を感じ取ることはできない。

大切なものか何かと、あらためて気づかされるアルバム。
こわれもののようで強靭、そして重み十分。
水晶の舟らしいパッケージだ。

メンバーの服装は黒が多いが、
白いジャケットに白いレコード盤。
アルバム全体の流れも含めて肯定の光がまばゆい逸物である。


★水晶の舟(Suishou No Fune)『失われた楽園の樹々を想ふ(- The Lost Trees of Paradise -)』(Important IMPREC482)LP
70年代のCBSソニーでよく使われていたような裏面が厚手のビニール製のレコード袋に
ホワイト・ヴァイナルのLPが収納されている。
手書きのシリアル・ナンバー入りの限定100枚プレス。

http://www.suishounofune.jp/suishou.jp.disco.vinyl4.imprec482.html?fbclid=IwAR2y36W2BUSHxstyOdnoNoIZgF6J62s1oCxgc2QI014tHcIAi4vdSoXvQ0g

https://plaza.rakuten.co.jp/suishounofune/diary/201910270000/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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