NILE『Vile Nilotic Rites』
2019-12-26

90年代前半から活動を続けている米国サウス・カロライナ出身のデス・メタル・バンドが、
『What Should Not Be Unearthed』から約4年ぶりに出した8作目のフル・アルバム。
リーダーのカール・サンダース(vo、g他)と20年近くやってきたダラス(g、vo)は不在だが、
15年近く一緒にやっているジョージ(ds)は今回も叩いており、
新しいギター/ヴォーカルとベース・ヴォーカルとの4人体勢でのレコーディングである。
程良く音の抜けがよく、程良く粘着質の音作りがピッタリで、
痛快ですらあるほど胸がすく快作だ。
メンバーが変わろうが、
このバンドも既に“NILE節”の曲と“NILEサウンド”の音が確立されていて、
変わった、変わらないのレベルにはならない。
やればこうなる“バトルフィールド・サウンド”健在である。
だが自己保身で守りに入ることなく着実に進んでいることは、
停滞を潔しとしないサウンドそのものの生き生きとした響きでわかる。
“ピラミッド・パワー”とでも言いたくなるほど、
エジプト史の血を精気にして狼煙を上げ続けるのだ。
たとえば多少ジャンルは違うが
TOXIC HOLOCAUSTが核の被曝や生物/化学兵器による血の出ない殺戮だとしたら、
こちらは肉体破損を伴う原始的な殺戮。
戦闘シーン、拷問シーン、処刑シーンなどなど、色々とイメージできる佇まいのアルバムだ。
ブラスト・ビート多用のせわしないリズムのテクニカルな演奏であっても、
聴かせどころをバッチリ設けている。
いつにも増して楽曲クオリティが高く、
スロー・パートを織り込んでも9分近い曲でも弛緩することなく、
フックを忍ばせたアレンジ・センスにも磨きをかけている。
曲も音もメリハリ十分で一気にブッ飛べてカッコいい。
複雑怪奇なテクスチャーを絡ませていても緩急織り交ぜた曲でスペクタクル映画の如く構成し、
たとえデス・メタルであろうとリスナーとの交感で音楽をさらなる高みに持っていく。
アコースティックなインストの小曲をはじめとして
中東ちっくなロマン溢れるメロディもほのかに香り、
残虐音とブレンドされて無数の死者を弔う。
神話を現代にリライトしたような旋律で彩る。
むろんヴォーカルも無味無臭没個性デス・ヴォイスではなく、
いい意味で円熟味を帯びながら凄味を増し、
苦渋と苦汁のハーモニーが苦悶の調べとなって押し寄せてくる。
ところによって披露する詠唱も堂々たるもんだ。
グレイトな音楽すべてがそうであるように理屈抜きにサウンドだけでイケるアルバムだが、
歌詞を見るとまた一段と深みにハマる。
もちろん(古代)エジプトのネタ満載のモチーフながら、
歌詞自体にそういう言葉があまり使われてないから普遍的な解釈も可能だ。
いわゆる政治的な歌詞ではないが、
「Seven Horns Of War」の曲解説のところでカールが使っている“political chaos”という言葉で、
現代の世界情勢もイメージできる。
歌詞の字数もかなりのものだが、
執念を感じる曲解説の文章量が膨大で音楽同様に今回もトゥー・マッチだが、
固有名詞はともかく文体は平易で英語だからちょっと頑張ればどうにかなる。
曲に耳を傾けながら読んでいって少しずつでも理解を深めていきたい力作だ。
さすがの大スイセン盤。
★NILE『Vile Nilotic Rites』(NUCLEAR BLAST 5147-0)CD
写真に加えて歌詞とカールによる長文曲解説がビッシリ載った28ページのブックレット封入の、
三面デジパック仕様の55分弱の11曲入り。
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