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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『罪と女王』

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中年女性が少年の虜になる普遍的なネタを超えて迫り、
人間の暗部を炙り出して家族の“在り方”も問う北欧恐るべしな2019年の映画。
女性監督(1977年デンマーク生まれ)で脚本も執筆した作品ならではとも言うべき、
生々しくシビアな筆致に息を呑む“心理的ホラー映画”の佳作である。
製作総指揮は『ヒトラーの忘れもの』『ある戦争』を手掛けたヘンリク・ツェインだ。

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児童保護を専門とする弁護士のアンネは、
医者の夫と幼い双子の娘とデンマークの邸宅でしあわせな家庭を築いていたが、
前妻との間にもうけていた夫の息子のグスタフが問題行動で退学になって引き取ることに。
当初グスタフはアンネの家庭に馴染もうとしなかったが、
家庭問題で苦しむ子供たちを普段仕事で相手にしているアンネは根気良く家族として迎えて接し、
グスタフは娘二人とも仲良く遊んで穏やかな性格になっていく。
だがアンネは17才のグスタフと性的関係を持ってしまう。

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以上は前半のあらすじで、
ネタバレを最小限にすべく中盤以降のストーリー等は最小限書くに留めておく。

LGBTが認知されつつあるが、
いつの時代も女と男は基本こうなのかもと思わされるし、
中年女性と少年の性愛はいつの時代も変わらぬ永久不滅の物語なのかとも思わさせる。
男性監督の妄想映画もいいが、
女性監督の夢想と肉欲が入り混じった末路のような非情のリアリズムに震撼するのみだ。
切り口や描き方が“生”なのである。

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強烈なセックス・シーンにこの映画の覚悟が示されている。

フランス映画と双璧を成す大胆な描写が多い北欧映画らしくポルノ紙一重だ。
ぼかしがないとスクリーンを正視するのに覚悟が要るような息を呑むシーンには、
理性を失ったアンネのねっとりとした性欲に観ている側も飲み込まれていく。
もちろんダラダラした見せ方もせず、
エロが売りの映画ではないからこそ
“初めての交わり”の時間以外はポイントを押さえて“厳選”されている。

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適材適所の音楽とともに、
カメラは性行為以上に人物たちに迫り、
レンズは登場するすべての人物の底意地も容赦なくえぐり出す。

少年グスタフはあえてベタなキャラにしたかのようで、
“崩壊家庭”の犠牲者ならではの問題児だからこそピュアな心が開かれていく様は、
アンネの娘たちとの微笑ましい交流場面に象徴される。
クールな演技が見事だ。

その娘たちの父親でもあるアンネの夫もこの映画のキー・パーソンで、
アンネを“目覚めさせ”て物語を展開させる女友達も同じく好演だ。

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もちろん主人公のアンネに尽きる。

凛々しい弁護士で仕事ができる女性の顔と、
妻であり母親でもある良妻賢母な家庭人の女の顔と、
若いオトコのカラダに溺れ狂うギラギラしたオンナの顔を
ナチュラルに見せるギャップが見どころだ。
17才の男子との性行為は法的にどうなのか、
そもそも義理の息子との関係だから不貞ではないかなんて、
法律を駆使した弁護士であろうが夢中になっている最中は頭にない。

だからこそ我に返った時が怖い。
いわゆるしっかりした社会的地位の人間ほど怖い。
人としての責任感なんて簡単に葬り去る。
そして信じがたい精神的な虐待を始める。

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家庭を持つと自己保身の“本能”が無限大に強化される人間がいる。
たとえ血がつながっていようが自分が家族とみなさない“面倒”な人間は排除する。
自分が大切と思う子どもにとっては良き親としてふるまう一方で、
自分にとって足手まといの“子ども”は利用できる道具でしかない“親”もいる。
仕事で大切な人たちや“自分の地位のために必要な身内”に対しては人格者でも、
その人間を深く知る極々限られた者にとっては万死に値する人間だったりもする。
自分のダーク・ゾーンから目を背けたいばかりに調子よく正義の味方や善人ぶって、
他者の非難ばかりしておのれを省みない。

そしてこの映画は虚栄と虚飾で武装されたナイーヴなヒューマニズムの急所を突き、
体裁を取り繕った欺瞞を冷酷なまでに炙り出す。

“女は、守るために、残酷になる”。
この映画の宣伝コピーで間違ってないとは思う。
だが、“男も、守るために、残酷になる”というフレーズも付け加えたい。
アンネの夫でもあるグスタフの父親を見ていると誰しもそう想うのではないだろうか。

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引き起こした動機を詳しく説明した作りになっていないところも特筆したい。
たとえば理性を崩したのは欲求不満か嫉妬か愛情か、
観る人それぞれの想像力にゆだねられている。
ある意味“女王的な権力者”と言えるかもしれない女性からの少年に対する性的虐待か、
気持ちが高まった中年女性とやりたい盛りの若い男性が意気投合したのか、
観れば明らかだとしても僕はコメントを避けさせてもらう。

サスペンスの要素も含むネタバレ厳禁映画だからここで多くは書けないが、
観た後に“あの人はなぜああいう行動をとったんだろうね?”という話で一晩語り明かせるような映画。
あえて夫婦や恋人同士で観に行くにもピッタリと断言する。

いつもと変わらないように見えるだけに寒々としたラスト・シーンがあまりも怖い。

必見。

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★『罪と女王』
2019年/デンマーク=スウェーデン/デンマーク語・スウェーデン語/127分/シネスコ/
原題:Dronningen(英題:Queen Of Hearts)/(映倫区分R15)/
監督・脚本:メイ・エル・トーキー/共同脚本:マレン・ルイーズ・ケーヌ/製作総指揮:ヘンリク・ツェイン/製作:キャロライン・ブランコ、ルネ・エズラ/撮影:ヤスパー・J・スパンニング/音楽:ヨン・エクストランド
出演:トリーヌ・ディルホム、グスタフ・リン、マグヌス・クレッペル、スティーヌ・ジルデンケルニ、プレーベン・クレステンセン
配給:アット エンタテインメント
©2019 Nordisk Film Production A/S. All rights reserved
www.at-e.co.jp/film/queen/
6月5日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、他にて公開決定! <5月29日追記>


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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