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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

Bonnie‘Prince’Billy & The Cairo Gang『The Wonder Show Of The World』

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米国東部ケンタッキー州ルイヴィル出身の男性シンガーソングライターの1年ぶりの新作。

ボニー“プリンス”ビリーはウィル・オールダム(Will Oldham)の変名。
レコード・デビュー仕立ての90年代の半ばは“Palace Brothers”“Palace Music”名義でリリースし、
20世紀末からは“Bonnie‘Prince’Billy”名義で活動している。

20枚目のフル・アルバムに数えられる作品である。
ギター片手に年一作以上のペースでアルバム発表を続ける精力絶倫な活動ぶりは、
PIXIESのフロントマンとして知られるブラック・フランシス(フランク・ブラック)も思わせる。
90年代から3月20日の“バースデイ・リリース”を続ける三上寛も忘れちゃいけない。
だが、とんがってる三上と違ってボニー“プリンス”ビリーはレイドバックし切ってる。

『The Wonder Show The World』は日本盤だとボニー“プリンス”ビリー名義になっているが、
実際はシンガーソングライターのエメット・ケリー(=The Cairo Gang)と共演だ。
エメットはベス・オートンのツアー・バンドのギタリストを務めたこともあるミュージシャンで、
ボニー・ビリーは2006年の『The Letting Go』以来よく一緒にやっている。
著作権のクレジットから察するに、
ボニー・ビリーが作詞でエメットが作曲というソングライティング体制で作られたようで、
それが今回の特徴のひとつだ。

昔からアルバムによってアシッド・フォークっぽいものあり明るいものありとはいえ、
基本的な作風は変わらない人だが、
今回どことなくボニー・ビリーのソロ名義作品とは趣が違う気もする。
ブルースやカントリーのダシが何気に効いたギター弾き語りをベースにしていることに変わりはないが、
“オルタナティヴ・テイスト”の膜が薄めで、
曲のポピュラリティが高いためか“70年代のアメリカン・フォーク・ロック”の泥臭さや洗練具合も感じる。

適宜ベースとパーカッションが入るほかは、
全編アコースティック/エレクトリック・ギターが弾かれ、
エメットもたっぷりとバッキング・ヴォーカルをとっている。
熱く歌うところもあるが、
英語だと“calm”という言葉が似つかわしい穏やかな曲の綴れ織りだ。

鳥の翼みたいな髪を両脇になびかせつつ見事に禿げ上がったボニー・ビリー。
70年のクリスマス・イヴ生まれにしては年を重ねまくっているような風貌ながらも、
似たような髪型のNASHVILLE PUSSYのフロントマンのブレイン・カートライトと同じく
枯れているどころか命にあふれている。
もちろんギンギンの類いの音楽とは対極だが、
慈愛がこぼれ落ちる麗しい歌声。
心に染み入る歌の数々にぴりぴり肌も震える。

特にぼくが好きな歌は「Go Folks, Go」。
歌詞カードには“Go Folks! Trust your brain! Trust your body!”と強い調子で書いたにもかかわらず、
あくまでも静かな語り口で歌うのがボニー・ビリーらしい。
胸に響くストロングで肯定的なフレーズだ。
さあ行け! 自分の頭を信じよ! 自分の体を信じよ!

フツーのアメリカの歌もののようで研ぎ澄まされた佳作である。


★ボニー“プリンス”ビリー/ザ・ワンダー・ショウ・オブ・ザ・ワールド』(Pヴァイン PCD-24252)CD
イイ~手触りのカラフルな三面デジパックにパラフィン紙の歌詞カードが封入されている。
歌詞の和訳付の約48分10曲入り。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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