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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ジョウブレイカー/ドント・ブレイク・ダウン』

ジョウブレイカー


エモやインディ・ロックの色もある米国のパンク・トリオJAWBREAKERのドキュメンタリー。
『ミニットメン:ウィ・ジャム・エコノ』(2005年)を手掛けた人たちが
監督とプロデュースを行なっている。

1986年に結成する前の個人的な状況も含めて3人のメンバーの話を中心に、
過去のライヴや写真、関係者の証言も挟み込んで話を進めるが、
ほろ苦いバンド・ストーリーである。

JAWBREAKERの音楽性は歌ものパンク・ロックと言える。
CLASHとREPLACEMENTSを引き合いに出す人の気持もわかる一方で、
CCRのような伝統的アメリカン・ロック風味や、
JESUS LIZARDみたいなオルタナティヴ・ロックのビート感も内包してた。
ポップな曲も多いとはいえポップ・パンクとは言いがたいほどクセが強く、
映画の中でメンバーが言っているように“エモ”のテイストも彼らの魅力である。

メジャー契約してから1年で解散したJAWBREAKERの切なくヘタレな歩みを見ていくと、
“エモ”そのものの人生に思えてならない。

当初の拠点はニューヨークで、
まもなくLAに移り、
サンフランシスコ/ベイエリアを拠点にしてから活動が本格化。
確かにベイエリアのシーンで刺激を受けたことによりバンドは成長しただろうが、
ニューヨークやLAに残っていたらバンドがもっと続いていたのではとも邪推できる。
ポリティカルなコテコテDIY志向の強い北カリフォルニアのベイ・エリアのパンク・シーンの
特異性も浮き彫りにする映画だ。

精力的な活動とソングライティングの魅力でJAWBREAKERは注目度が高まっていき、
まもなくNIRVANAのツアーに呼ばれて参加したことで、
ベイ・エリアのパンク・シーンからは少なからず叩かれる。
まもなくメジャー契約でさらに激しいバッシングを受ける。

アルバム・デビューが同じ1990年とはいえ、
1年遅れのメジャー・デビューをはじめ何かとGREEN DAYの後を追う形の活動になったことは、
不運だったとも言える。
GREEN DAYのビリー・ジョー・アームストロングが複雑な表情で証言しているのも興味深い。
メジャーのレコード会社に進んだことでGREEN DAYは
拠点にしていたベイ・エリアのパンク・シーンの“仲間たち”の多くから猛攻撃されたが、
ある意味JAWBREAKERへの反発はGREEN DAY以上だった。
ライヴのMCにおける“失言”がそのへんの政治家以上の痛い“ウソ”だったからである。
裏切られたファンからもまもなく目の前で強烈な“抗議行動”を起こされる。

ベイ・エリアのパンク・シーン周辺のマニアックな懐かしの人たちが証言者などで登場するのも、
この映画のちょっとした見どころだ。
盟友のECONOCHRISTやSTRAWMANのメンバーなど笑顔で話す人もいる。
一方でベイ・エリア・パンク・シーンのライヴ拠点のギルマン・ストリートの中心人物や、
ベン・ウィーゼル(SCHRRCHING WEASEL)らは嫌悪感を隠さぬ顔で露骨に批判。
「いまだ許さない」といった表情で熱弁を振るう音楽ジャーナリストも登場する。

JAWBREAKERの3人はとある事情でレコーディング・スタジオに入るのだが、
セカンドの『Bivouac』(1992年)のプロデューサーのビリー・アンダーソンが同席。
ビリーはストーナー・サウンドの仕事師として知られているエンジニアだが、
JAWBREAKERのアルバムの後にビリーが手掛けたSLEEPNEUROSIS
元々ベイ・エリアのパンク・シーン出身だからJAWBREAKERともつながる。
ベイ・エリアのパンク・シーン“強硬派”の不機嫌そうな顔とは対照的に、
3人のメンバーの次に登場時間が長くて笑顔を絶やさないビリーの存在はこの映画の“救い”だ。

インディ最終作のサードの『24 Hour Revenge Therapy』(1994年)を
レコーディングしたスティーヴ・アルビニも、
似たネーミングの某バンドの名前をユーモラスに挙げながら語っている。
ちなみに『24 Hour Revenge Therapy』のリリースは
アルビニが手がけたNIRVANAの『In Utero』のちょい後だから、
つくづくタイミングの悪いバンドである。

けどそもそもJAWBREAKERはメジャー云々以前に仲良しバンドとは言いがたかった。
少なくてもこの映画を観る限り活動当初からバンド内で確執があったようだが、
それが人間味ってもんで軋轢はエナジーにも成り得る。
気に食わなければバンドから脱退することもできたにもかかわらず
メンバーが変わらなかったがゆえに摩擦と葛藤と嫉妬が続いたとも想像できる。

でも顔も見たくないほどの険悪な関係ではない。
一人一人個別収録の部分では愚痴っぽい言葉も吐きつつ、
メンバーのほとんどの談話は
2017年に3人全員が揃ったときの場での発言というところがポイントだ。
時々あーだこーだ言い合いながら3人が一緒にしゃべっている。
演奏してなくても歌ってなくてもバンドをやっているようなもんで、
“腐れ縁”も悪くないとも思わされる映画だ。

★映画『ジョウブレイカー/ドント・ブレイク・ダウン』
2019年|アメリカ映画|77分|原題:DON’T BREAK DOWN:A FILM ABOUT JAWBREAKER
/© 2019 Rocket Fuel Films/監督:ティム・アーウィン、キース・スキエロン


9月11日(金)から東京と大阪で開催されるロック・ドキュメンタリー映画祭
“UNDERDOCS”の中で公開。
http://underdocs.jp/

イベントの上映作品は以下のとおりだ。
『ジョーン・ジェット/バッド・レピュテーション』
『デソレーション・センター』
『レディオ・バードマン/ディセント・イントゥ・メールストロム』『ジョウブレイカー/ドント・ブレイク・ダウン』(以上4作品は日本初公開)
『D.O.A.』
『悪魔とダニエル・ジョンストン』
『AMERICAN HARDCORE』
『ミニットメン:ウィ・ジャム・エコノ』
『ジ・アリンズ/愛すべき最高の家族』
『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』
『フェスティバル・エクスプレス』
『地獄に堕ちた野郎ども』
『ザ・デクライン』
『FILMAGE:THE STORY OF DESCENDENTS/ALL』
『ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン』
『END OF THE CENTURY』
『FUGAZI:INSTRUMENT』
『バッド・ブレインズ/バンド・イン・DC』
『ザ・メタルイヤーズ』
『ギミー・デンジャー』
『ザ・スリッツ:ヒアー・トゥ・ビー・ハード』
『L7:プリテンド・ウィ・アー・デッド』
 さらに“番外編”として以下のロック劇映画も上映される。
『ジャームス/狂気の秘密』
『スパイナル・タップ』
『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
https://www.facebook.com/namekawa.kazuhiko
                                

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