橋本孝之(Takayuki Hashimoto)『Chat Me』
2020-12-21

コロナ禍ならではの息遣いを真空パックした.es(ドット・エス~橋本孝之 & sara)関連の
CD3部作の一つ。
ある意味、非常事態の中で突き動かされるものがあったとしか思えない内容の3タイトルだ。
本作はkito-mizukumi rouberやUHのメンバーとしても知られる奇才・橋本孝之が
東京・赤坂の自宅マンションでレコーディングした5作目のソロ・アルバムで、
LPのA面とB面のような感覚で構成された約48分2曲入りである。
1曲目はフラメンコ・ギター独演だが、
猛烈な勢いで高速の“独りおしゃべり”をし続けている様相だ。
ほぼギター“弾きっぱなし”なのに飽きせない展開からは、
山田千尋のアートワークのジャケットどおりにムンクの絵の「叫び」みたいな苦悩が感じられる。
情念を“殺ぎ”落し、
おのれの中の重い“情動”みたいなものを次々と発射しているようにも聞こえる。
高速回転しているかの如きパーカッシヴな音が乱舞し、
エキサイティング、スリリング、エネルギッシュ、ダイナミックなほどの躍動感で弦が踊っている。
クールなのに密かに熱い。
自宅に居ながら百万光年ジャンルを超越し、
ジャズもブルースもヘッタクレもない。
理屈もいらない。
だから僕は強烈にロックを感じる。
2曲目はアルト・サックス独演だが、
こちらも猛烈な勢いで高速の“独りおしゃべり”をし続けている様相だ。
カタカタ音が聞こえるのがパーカッションみたいで、
現実問題としてマンションの一室での録音だから大きな音を出せずに我慢したからかもしれないが、
煩悶しているかの如き小刻みなサックスはブロウしまくりとは対極の贅肉を削ぎ落した鳴り。
首を絞められて死にそうな人間が
ジタバタ抵抗しながら絶え絶えの息を目一杯使って声を発しているみたいなのである。
だが音は止まらない。
インプロヴィゼイションかもしれないが、
意識の流れも生々しく音として表れ、
息を吹き返していくようにも聞こえる。
どちらも修道士のような形相が目に浮かぶ演奏だが、
kito-mizukumi rouberでの活動を知ればユーモアもたっぷりの人とわかるし、
どちらもよく聴けば極めてストイックだからこそユーモアも飛び散っている。
これをクールな顔でやってそうに聞こえるのが橋本であり、
ライナーでもそういう言葉が使われているようにいい意味でダンディ、
そしてハードボイルドな佇まいに痺れる。
CDの盤面のデザイン、
フランスの音楽家ミシェル・アンリッツィのライナーの紙質、
(フランス語に加えて茨木千尋による読みやすい和訳も載った二つ折り仕様)、
たいへんていねいに扱いたくなる7”レコード・サイズのジャケットの紙質
(バーコードも上手く組み込んだデザイン)、
CD盤を収納する“袋”の作りにまでこだわったトータル・アート。
もちろんすべてが表現で、
やはりすべてでひとつの表現なのである。
グレイト。
★橋本孝之『Chat Me』(Nomart Editions NOMART-117)CD
12月23日(水)発売。
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