なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

HEAVEN SHALL BURN『Invictus』

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96年結成のドイツのメタル/ハードコア・バンドの6枚目のオリジナル・アルバム。
この系統は鍛錬を重ねるバンドが多いから年を経て音の体力が落ちるどころか強化され、
曲作りのセンスもアルバムを出すごとに磨かれる。
彼らもまさにそうで、
音の強度と楽曲の完成度と全体の構成力で一気に聴かせるアルバムだ。


「俺たちはBOLT THROWER、AT THE GATES、EARTH CRISIS、DAY OF SUFFERING、KREATOR、
NAPALM DEATH、MERAUDER、DISMEMBER、PARADISE LOSTを同時に聴いてきた」
というメンバーの発言が正直だ。
たとえメタル寄りのバンドでも先進的な耳のパンク/ハードコア・ファンも興味をもつバンドばかりで、
各ジャンルの開拓者が多いと同時に微妙に渋めのバンドが多い。
音の研ぎ澄まし方を考えると『Heartwork』の頃のCARCASSも加えたいところだが、
当然聴いているであろうSLAYERよりはそういったバンドたちの方が共振しているバンド、
それがHEAVEN SHALL BURNである。

たまにブラスト・ビートも挿入し、
ツー・ビートで走るパートはほとんどないにもかかわらずスピード感に貫かれているのは、
緻密なアンサンブルが生む加速度によるところが大きい。
厳格な音から皮膚を斬るほど鋭いメロディが今まで以上に滲み出てくるのも特筆すべきところで、
ヨーロピアン・テイストの麗しいフックのあるソングライティングも光る。
適度にエレクトロニクスを噛ませている作りも今回のポイントだ。
ラスト・ナンバーでは、
ドイツのメタル系バンドのDEADLOCK(注:同名バンド多数あり)に在籍する、
女性ヴォーカルのSabine Wenigerが1曲でかなり歌って華を添えた。


ハードコア・パンクとは違ってパンク・ロックっ気はゼロ。
文字通り“パンク”を取っ払って逃げも隠れもできない“ハードコア”のみが残った音と言葉である。

2000年代以降のいわゆるメタルコアは曲もヴォーカルも、
どこかしら一緒に歌えるキャッチーな部分を設けている。
例を挙げるとKILLSWITCH ENGAGEはやっぱり今時のメタルコアの王道だ。
HEAVEN SHALL BURNが特にメタルコアと違うのは強靭な音もさることながら、
いかついヴォイスにも集約される。
恐怖や苦痛のための叫び声の“スクリーム”という言葉がよく似合う揺ぎ無き強靭な響き、
これぞハードコアだ。

たとえばいわゆるスカンジ系ハードコア・パンクのバンドのルーズなヴォーカルよりも、
HEAVEN SHALL BURNのヴォーカルはジャンル以前のハードコアという言葉の強度や重みがある。
血を流しているような甘えのないこの喉は、
たとえ生理的にこういう声が苦手という人でも本気だということは伝わると思う。


本作には“IconoclastⅢ”という副題が付けられている。
“IconoclastⅠ”にあたる作品が2008年の前作『Iconoclast (Part 1: The Final Resistance)』で、
“IconoclastⅡ”は昨年発表のライヴCD/DVD『Bildersturm: Iconoclast Ⅱ』だ。
“聖像破壊者”“因習打破主義者”を意味する“ICONOCLAST”は、
いくつかのハードコア・パンク・バンドがバンド名に使ってきている言葉だが、
いわゆるDIYパンクやアナーコ・パンクだけのものではない。

HEAVEN SHALL BURNはポリティカルな意識に貫かれた歌詞もポイントのバンドで、
本作でもキープされている。
脳天気なラヴ&ピースとは次元が違い、
音同様にヴィーガン・ストレートエッジのライフ・スタイルのバンドならではのタイト極まりない内容だ。
むろん必ずしもヴィーガン・ストレートエッジの生活を送る必要はないが、
結局は人間一人一人が“個”としてしっかりしてないとどうしょうもないのだ。

英語で綴られる歌詞のモチーフは、
政府軍や反政府軍や民兵などに徴用/誘拐されて前線に送り込まれる世界中の子供兵士や、
ピノチェトの軍政時代の南米チリなど、
様々である。
第二次世界大戦末期にナチス政権時代のドイツ国内で行なわれた米国との戦闘の、
“ヒュルトゲンの森の戦い”のことを描いた歌詞はドイツのバンドならではだろう。
視野が国内に留まっていないから全曲普遍的な内容であり、
これぞ字義通りにハードコア!と言い切れる表現だ。
サウンドでもそういった極限状態と憤怒と悲嘆が描かれているからこそリアリティが高い。

アルバム・タイトルの『Invictus』はラテン語で“不屈”“征服されざる者”という意味。
いかにもの意味だが、
結局それこそがハードコアだと音そのもので叩きつけるアルバムである。


★ヘヴン・シャル・バーン『インヴィクタス』(Doom Patrol Foundation DOOM-0024)CD
80年代から活動している北アイルランドのハードなオルタナティヴ・ロック・バンドである、
THERAPHY?の「Nowhere」の絶妙なカヴァーが日本盤のボーナス・トラック。
ラストに加えて雰囲気ブチ壊しにすることなく全体の流れを尊重した位置に入れてあるのもうれしい。
もちろん歌詞とその“一行解説”の和訳付だ。
16ページのブックレットも封入。


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コメント

こんばんは

 夜分失礼します。 前にDOLLの記事で読んだのですが、行川さんは肉を食べないという事なのですが本当ですか?

JADEさん、コメントありがとうございます。
いわゆる動物の肉は普段“基本的に”食べませんが、色々あって、あえてテキトーなポジションでやっています。自嘲気味に「にせヴェジタリアンだから(笑)」とか言ったりして。
最近は「好き嫌いのレベル」と答えています。実際子供の頃からそうだったし、理屈よりも感覚的な問題かなと思っています。
このへんのことを語るのはエネルギーと時間が要るので、機会があったらまとめて書いてみたいとは考えています。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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