sara『Esquisse(エスキース)』
2022-05-10

ピアノをメイン楽器とするsara(.es)のソロ・デビュー・アルバム。
彼女の活動拠点の大阪ギャラリーノマルで今年の2月19日に行なったソロ・ライヴを、
ほぼそのまま収録した約39分のCDである。
実質ほぼ一続きながら8トラックに区切られていて、
音の心象風景の移り変わりがわかりやすい作り。
即興とのことだが、
静と動、緩急が織り交ぜられて一瞬一瞬で作曲していく様相で、
スリリングな流れだけでなく波と渦も生み出しているグレイトな作品である。
あえてジャンルの言葉を使うなら、
ジャズと現代音楽の境界線をはみ出して道なき道を一人ゆっくりと加速する独演だ。
凛とした佇まいでさりげなく張りつめており聴いていると背筋が正されるような演奏だが、
しっとりクラシカルに始まるも時に音が乱舞して戦慄も走る。
裏ジャケットに写るsaraのライヴ写真そのもののパートも多い。
麗しく走るところに魅了される一方で、
ハード・ロック系統のギタリストがギター・ソロを弾くときみたいに、
のけぞりながらピアノを弾いている姿もイメージできる。
saraが別に行なっている活動のフラメンコの舞をイメージせずにはいられない。
情熱ほとばしるプレイなのだ。
もちろん気高く優雅な音だが、
彼女の音楽的ルーツの一つのロックも感じずにはいられない。
たいへんデリケイトな響きであると同時に、
アタック感の強いパーカッシヴなピアノも堪能できる。
打楽器としてのピアノもあらためて思う。
“ピアノ・インプロヴィゼイション”とジャケットに書かれているが、
静謐ながらトラック7の序盤では
パッカッションかピアノのボディ部分を叩いているような音も聞こえてくる。
.esのライヴでsaraが打楽器も演奏することがあったからうなずけるパフォーマンスだが、
そのパートからなだれ込むピアノは
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルのドラム・ソロを凌駕する激烈プレイだ。
指さばきが見えてくる見事な音像の仕上がりも相まって、
一つ一つの音が感情の響きということが鮮烈に伝わってくる。
おのれ自身をインプロヴァイズしていく感情の連なりの作品なのだ。
アルバム・タイトルはフランス語で“スケッチ/下絵、画稿”を意味し、
誤解を恐れずに言えば、いい意味でラフな肉筆画。
妙な加工をしてないからこそ生々しい。
.esの相方だった橋本孝之の一周忌の翌日である2022年の5月11日リリースも必然の、
アルバム・カヴァーとCD盤面のデザインも素晴らしい。
これまでの.esの作品と同じくやっぱりパッケージ全体が表現なのである。
鳥の羽が挟み込まれた三つ折りのインサートも封入された大変ていねいな作りの紙ジャケット仕様だ。
こわれもののようで強靭な意思と意志がすべてに息づく佳作である。
★sara『Esquisse(エスキース)』(NOMART EDITIONS NOMART120)CD
5月11日(水)発売。
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