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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

VENOMOUS CONCEPT『The Good Ship Lollipop』

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NAPALM DEATHのシェーン(b)と
BRUTAL TRUTHでここ数年はシェーンとLOCK UPでも活動しているケヴィン(vo)が
結成したバンドの2年半ぶりの5作目。
ギターはここ10年近くNAPALM DEATHを好サポートしているジョン・クック、
ドラムは英国のCANCERに在籍していた今回初参加のカール・ストークスという、
4人編成でレコーディングされている。

日本盤CDは、
コンスタントに活動を続けている日本最長寿のインディ・レーベルであり、
EXTREME NOISE TERRORの2015年のセルフ・タイトルもリリースした
京都府のMCR Companyからの発売である。
その記念すべきカタログ・ナンバー“MCR-300”にふさわしい快作だ。


シェーンがギターを弾いたサード・アルバムの『Kick Me Silly VCIII』(2016年)は
ダン・リルカーがベースでダニー・ヘレッラがドラムだったから、
まさにBRUTAL TRUTH +NAPALM DEATHの編成で作られた。
前作ではダンが去ってシェーンが結成当初のベースに戻ったが、
今回はダニーも不参加。
だがそういった“人事異動”の流れがバンドをポジティヴな方向へと進めている。

シェーンとケヴィンが始めたバンドだからグラインドコアと思われがちだが、
その二人があえてハードコア・パンクをやるべくスタートさせたバンドである。
でもこのアルバムはハードコア・パンク・スタイルと断言できる曲はほとんどない。
“パンク・ロック最新型”とも言うべきアルバムなのだ。

CD再生を始めてしばらくは“これ別のバンドの音が間違って入ってる・・・・・?”と疑ったほど、
びっくりした。
けど急激な“変化”ではない。
前作『Politics Versus the Erection』の“非ハードコア・ナンバー”の路線を推し進めたかのようで、
変化というよりは進化であり、
今までとは違ったことをもっとやってみたアルバムである。

新しいバンドや以前からやっているバンドの新作を色々チェックしている友人たちも、
これは!と心から打ちのめされるハードコア・パンクにはなかなか出会ってないと聞く。
自分らが知らないだけと思いたいが、
ハードコア・パンクが頭打ち状態にも感じる。
そんな中でこのアルバムは吹っ切れたかのようであり、
ハードコア・パンクを突き抜けてパンク・ロックで突っ走ったような作品なのだ。


シェーンの家族の一員と思しきIzumi Motoshima Emburyの声が入るオープニング・ナンバーで、
まず腰を抜かした。
シェーンが手掛けたと思しきポップなエレクトロニクス入りのパンク・ロックだ。
以降の曲はいわゆるエレクトロニクスの音はあまり聞こえてこないが、
やはりハードコア・パンクというよりパンク・ロック。
しかもコーラス・パートを設けてキャッチーとも言えるパンク・ロックなのだ。
けどもちろん、いわゆる70’sスタイルを焼き直した“ノスタルジー・パンク”ではない。
『Metal Circus』前後の頃のHUSKER DUがヘヴィになったようでもあり、
FUGAZIのパンク・ロック・チューンがドラマチックになったようでもある。
言うまでもなくいわゆるメロディック・パンク/ハードコアのスタイルとも一線を画し、
絶妙にメロディをブレンドしたセンスにミュージシャンシップの高さも感じた。

本作の肝になったギターはオールド・ロック風のフレーズをしのばせつつ、
NAPALM DEATHの非グラインドコア・アルバムの埋もれた名作の
『Fear, Emptiness, Despair』(1994年)と『Diatribes』(1996年)を思わせる音色やフレーズで押す。
いわばシューゲイザーや米国オルタナティヴ・ロックをピュアに通過したパンク・ロックだが、
BLACK FLAG meets TORCHEとも言いたくなるヘヴィ・ポップ感がたまらない。
デス・メタル畑出身ながら抜けのいいビートをこれでもか!と打ち鳴らし続け、
本作の核になった今回のドラマーが繰り出すエイト・ビート疾走のドライヴ感も特筆すべきだ。

フック十分のパンク・ロック調の曲にメロディを溶け込ませてはいても、
ヘヴィな音で展開していることに変わりはない。
楽曲的にNAPALM DEATHでは発揮しにくいシェーンの小技の効いたベース・プレイも聴きどころ。
むろんケヴィンのヴォーカルがポップになるわけはなく、
シンプルな言葉で幾重もの意味をダブらせたような歌詞を吐きまくる。

何が一番素晴らしいかって、
全編生き生きと鳴っていること。
グレイト!


★VENOMOUS CONCEPT『The Good Ship Lollipop』(MCR Company MCR-300)CD
日本盤は2曲追加の約47分15曲入り。
しっかりした紙に歌詞が読みやすく載った24ページのブックレット封入。


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コメント

もの凄く妄想を掻き立てられる文章で、思わず日本盤を注文してしまいました。シェーンの新し物好きな感性(BABYMETALも聞いてるとどこかで見たような)が横溢した作品のようですね。
手に取るのをワクワクしながら待ちたいと思います!

Re: タイトルなし

TOMMYさん、コメントありがとうございます。
シェーンはBABYMETALを“メタル・シーンの中でNAPALM DEATHが置かれていたようなような状況”みたいなことを言っていた記憶が。あと渋谷をイメージするとか言っていたような。それはともかく、このアルバムはシェーンとケヴィンの多趣味性とパンク・ロック好き、ギターのジョンの90年代NAPALM DEATHリスペクト、ドラマーのエイト・ビート好き、が見事にブレンドしています。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

https://twitter.com/VISIONoDISORDER
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