なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『スプリング・フィーバー』

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2009年の中仏合作映画。
ただフランスのプロデューサーも付いているとはいえ、
撮影場所は南京で監督も中国の人だからほとんど中国映画と言っても差し支えないだろう。

監督のロウ・イエは66年上海生まれ。
『デッド・エンド 最後の恋人』(94年)でデビューする。
『天安門、恋人たち』(2006年)は、
天安門事件(89年)にまつわる出来事を扱ったことと性描写も影響したのか、
中国の政府機関の電影局から同年のカンヌ国際映画祭コンペティションでの上映許可が下りなかった。
無視して上映したために当局から5年間の映画制作・上映禁止の処分を受ける。

それでもなお撮影を強行して仕上げた映画が『スプリング・フィーバー』である。
ゲリラ的に作られたため少人数で撮影ができる家庭用のデジタル・ビデオで撮られたが、
それが功を奏した粒子が粗めの映像により薄暮みたいな叙情性が醸し出されている。

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男女5人を中心にした同性愛と異性愛が入り混じった物語である。

夫の浮気を疑う女性教師は男性探偵に調査を依頼するが、
夫の相手はゲイの青年であった。
夫婦関係も、夫とゲイの青年の関係も、必然的にこじれて冷え込んでいく。
一方ゲイの青年と探偵は親密になる。
探偵には女性の恋人がいてゲイの青年にも紹介。
だがゲイの青年と探偵は肉体関係にまで進展する。
実はもう少し人間関係は入り組んでいるが、ネタバレになるから止めておこう。
交じりまくって三角関係から四角関係まで生まれるような流れだ。

といっても異性愛は抑え目で男性の同性愛に重点が置かれている。
異性愛はプラトニック、
同性愛は“性愛”みたいにも描かれている。


ぼくは男性同士のこれほどまでの絡みは初めて見た。
いや絡みなんて生やさしいものではなく交尾。
もちろん性器は見せないがエネルギッシュな騎乗位などの体位も繰り広げられて強烈だ。

だが声高に取り乱すのは女性教師ぐらいで、
みんな至ってクール。
フツーのこととして性を営んでいる。
燃え盛る欲情で体液がほとばしるドロドロの映画ではない。
だからこそ2人からほとばしる血という名の体液が一層“生”の証しにも映る。


むかしガールフレンドに「女の子も好き」「レズビアン云々」という話をされて多少うろたえた経験はあるから、
夫や彼氏がゲイ(正確にはバイ・セクシャルかもしれない)と知ったときのショックは想像するに難くない。
実際に同性の愛人がいることが発覚したのならば様々な思いが炸裂して冷静さを保つのは難しいだろう。
彼女たちの行動は必然に思える。
とりわけ日本とは比べものにならないほど同性愛がタブーの中国では。

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終盤、
生まれ変わったかのようなゲイの青年が町を闊歩する。
胸に彫ったタトゥーの花を見せびらかしながら。

後半で短編小説や散文や詩が読まれ、
“すべてが発覚”したあとゲイの青年と探偵とその恋人によりカラオケ・ボックスで歌が歌われる。
字幕で表示されるそれらの言葉も意味深だが、
大半は花がキーワードになっている。

監督によれば「中国では“世界はひとつの花である”」と言うらしい。

わかりやすいメッセージはどこにもない。
憂き世と浮世(ふせい)の思いが
映像をはじめとして映画自体も生々しくも詩的な表現になっている。

本作は日本で一時期暮らしていた中国の作家・郁達夫の1923年の小説、
『春風沈殿の夜』に大きくインスパイアされて作られたという。
映画の英語のタイトルは『スプリング・フィーバー』だが、
“英辞郎 on the web”によれば“spring fever”とは、
“春先になって(性的)エネルギーが高まってホルモンのバランスが崩れ、
それが身体および精神にさまざまな症状となって現れるもの。”
とのこと。
言い得て妙だ。

政治を超越した愛の“まぐわい”に貫かれた映画だが、
色々な意味で中国のモヤモヤ感と精力が無意識のうちに滲み出ていると思うのは、
ぼくだけではないだろう。
そこはかとなく虚無の香りがする。

様々な音楽が挿入されているが、
テヘラン生れのピアニスト/作曲家のペイマン・ヤズダニアンの強く静謐な調べも、
5人の命の響きみたいで効果的だ。


★映画『スプリング・フィーバー』
カラー/115分
11月6日(土)、渋谷シネマライズほか全国順次公開


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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