磯部正文『Sign In To Disobey』
2010-10-29

今年3月に活動停止したMARS EURYTHMICSのリーダーである、
磯部正文(vo、g~元HUSKING BEE)のファースト・ソロ・アルバム。
疲れているときにも元気をもらえる会心の“ポップ・パワー・ロック”だ。
バンドならでは大変さを承知しつつバンドで音楽をやりたくて実践してきた磯部だが、
メンバーが多忙だったりして思うように動けなくなり、
他のメンバーの勧めもあって本格的なソロ活動をスタート。
MARS EURYTHMICS活動中もそのライヴがなかなか決まらない時期に、
アコースティク・ギターの弾き語りソロ・ステージを繰り広げていた磯部だが、
いわば今回はバンド・サウンドでの“再デビュー”である。
ヒダカトオルがプロデュースとアレンジを担当。
BEAT CRUSADERSのリーダー時代は“策士”にも見られたが、
逆に言えば当時から様々な意味で自分のバンドをプロデュースする手腕に長けていたということだ。
そんなヒダカは磯部に、
後期HUSKING BEE以降はほとんど封印していた英語の歌詞もまた積極的に書くように、
ツー・ビート・チューンも含めて速いメロディック・ナンバーもまた積極的にやるように、
といった調子でズバズバはっきりと進言。
長年の磯部の良きリスナーでもあるヒダカだけにファンの気持ちもわかっている。
というわけで半数以上の曲の歌詞が英語で、
ほぼアップテンポの曲オンリー。
たるい曲はひとつもない。
同じような曲もひとつもない。
磯部のソングライティングの妙味が冴えわたる。
ある意味原点回帰だが、
同じことをやるわけではない。
なぜなら磯部も三十代後半。
人生の酸いも甘いも知った上でこういう瑞々しい音楽をやっている。
だからこそ生き生きしていてストロングなのだ。
なにしろ音も声も立っている。
表現者としてもミュージシャンとしても進取の精神に富む人だけに、
HUSKING BEEの後半あたりから“実験的”な曲もたくさん作って披露してきた。
今回のアルバムでもちょっとした言葉遊びは忘れてないが、
根が“まっすぐな男”の本領発揮である。
いい意味で、
アレコレ“余計なこと”を考えないで曲を書いて歌って弾いてレコーディングしたとも想像できる。
一般的にソロの曲はバンド時代以上に様々な曲にチャレンジする傾向もあるが、
磯部はバンドでそういうことをやってきているだけにソロでわざわざ挑む必要もない。
それどころかこの『Sign In To Disobey』は磯部史上最もストレートなアルバムと言えるほどだ。
言い方を変えればまっすぐなアルバムを作ること自体が磯部の挑戦だったとも思える。
もちろんお気楽な気分でやっているわけではなく真剣勝負で気合十分だが、
バンドの名前を背負ってないがゆえの伸び伸びとした意識を感じる。
誤解を恐れずに言えば、
こんなに伸び伸びと音楽をやっている磯部を久々に聴いた気がする。
まるで何かから解放されたかのような響きなのだ。
ヒダカのアイデアも功を奏してポップ・ミュージックの豊富な音楽的アイデアも随所に盛り込まれ、
キーボードとギター・ソロもいいアクセントになっている。
カラフル&パワフルな音でまさに盛り立てた参加ミュージシャンは以下のとおりだ。
●ギター:會田茂一、田渕ひさ子(元NUMBER GIRL/BLOODTHIRSTY BUTCHERS、TODDLE)
●ベース:原直央(ASPARAGUS)、中尾憲太郎(元NUMBER GIRL)、戸川琢磨(COMEBACK MY DAUGHTERS)
●ドラムス:有松益男(元BACK DROP BOMB/PONTIACS、P.I.M.P)、伊地知潔(ASIAN KUNG-FU GENERATION、柏倉隆史(toe、REACH)、恒岡章(Hi-STANDARD、CUBISMO GRAFICO FIVE)
●キーボード:ヒダカトオル、下村亮介(the CHEF COOKS ME)
アルバム・タイトル『Sign In To Disobey』も刺激的で意味深だ。
“逆らうための契約”みたいな屈折した反骨心をイメージするが、
さらに“disobey”のスペルをよく見てみよう。
“dISOBEy”・・・そう“不服従”のド真ん中にしっかりと“磯部”が居座っている。
“苦汁”も数滴ばかり垂らして人間関係も絡めつつ、
森羅万象と音楽の関係を突き詰めた歌詞も音と共振してポジティヴな意志に貫かれている。
音楽へ熱い思いがさりげなくみなぎる曲の連続に押し切られるばかりなのだ。

なお先行シングルとして↑がジャケットの、
3曲入りの『Do we know?』(トイズファクトリー TFCC-89309)もリリースされている。
CDタイトル曲はアルバムと同じだが他の2曲も興味深い。
一曲はアルバムでは英語で歌われている「花の咲く日々に」の日本語ヴァージョンで、
日本語でもツー・ビートの速い曲のスピード感を損なわないメロディアスな歌唱と言葉の選び方がさすがだ。
もう一曲は70年代の“アメリカン・ロック”を代表するカリフォルニアのバンド、
BREADの72年のヒット曲「The Guitar Man」のカヴァー。
元BAUHAUSのデイヴィッド・Jもこの曲をやっていたが、
磯部は米国のCAKEのヴァージョンを参考にしたらしい。
アルバム収録の数曲と同じくCLASHの「Tommy Gun」みたいなアウトロも御愛嬌だ。
★磯部正文『Sign In To Disobey』(トイズファクトリー TFCC-86333)CD
16ページのブックレットに加えて、
日本語の歌詞カードも別に封入されている。
日本語の歌詞と英語の歌詞の和訳が味のある磯部の手書き書体(+画)で綴られており、
そんなHUSKING BEE時代から変わらぬ配慮もうれしい11曲入り。
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コメント
ゾーン・トリッパーさん、書き込みありがとうございます。
タイトルにも彼特有の言語センスが表われていますね。
音楽的にはいい意味で“POPULAR MUSIC”の範疇に入れていいセンスを感じますし、どんどん色々な人のもとに彼の音楽届いたらいいなと思います。
飄々としているようで厳しくて、
音楽に関わる人の基本とはいえ音楽がほんとうに好きなん人だなと再認識もさせられました。
そういう人には元気づけられます。
タイトルにも彼特有の言語センスが表われていますね。
音楽的にはいい意味で“POPULAR MUSIC”の範疇に入れていいセンスを感じますし、どんどん色々な人のもとに彼の音楽届いたらいいなと思います。
飄々としているようで厳しくて、
音楽に関わる人の基本とはいえ音楽がほんとうに好きなん人だなと再認識もさせられました。
そういう人には元気づけられます。
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あらためていっそんのメロディ・センスに惚れ惚れです
「まっすぐなアルバムを作ること自体が磯部の挑戦だった」という行川さんの発言には納得させられますね
いっそんのように長くキャリアを重ねてきた人にとってはまさしく“挑戦”ですよね
なにはともあれいっそんの新たなる出発を祝福したいです