なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『レバノン』

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82年6月6日早朝にレバノンに侵攻したイスラエルの男性戦車兵たちによる最初の一日の物語。
上映する映画館のサイトによれば、
本作で映画監督デビューしたサミュエル・マオス自身もこの“レバノン戦争”に従軍したらしく、
その経験を活かして「20数年を経て、やっと客観視して映画にすることができた」と語っているという。


レバノンはイスラエルが南にシリアが東に陣取るだけに心が休まる時間はない。
個人的には本作の舞台の1~2年前に、
高校の世界史の教師に「一番関心を寄せる国は?」と問われて迷わずレバノンと答えたことを思い出す。
様々な国や集団から虐げられて常に疲弊した“日陰者”の小国というイメージだった。
イランや米国やソ連(当時)やパレスチナも絡んで“戦場”にされてきたし、
レバノン拠点のイスラム教の組織ヒズボラとの間でずっと緊張が続いていることを思うと、
今もイスラエルと(シリアと)レバノンの関係は基本的に変わってない。
こんがらがった状況だからどの国がどの集団が悪者とか決めつけられないから混沌とする。
この映画の舞台も国と国との戦争とは言えないし内戦とも言えない。

そういう複雑な背景を踏まえて作られているが、
当時や現在の政治状況を知らなくても、
敵が見えない最前線の市街地に最初に入る戦車兵たちの混乱がじわじわ伝わってくる映画である。
なぜなら彼らもよくわかってないから。
ただしイスラエルには他国よりも免役条件が厳しい兵役制度があることを頭に入れておくと、
登場人物たちの恐怖が一層深く感じられると思う。
イスラエルの場合は女性もほぼ皆兵とはいえ、
徴兵された兵が侵攻した点でもベトナム戦争におけるアメリカ兵に近い。

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レバノン内からの“何かの組織”の攻撃を受けて空爆した後の市街を侵攻する、
イスラエル軍の戦車兵たちの人間模様。
強固な鎧をまとった戦車だろうが安全ではない。
基本的には淡々と進行していくが、
民間人に見えてもテロリストの危険性を疑わないと自分らが爆破されかねないから、
対向車が来たら威嚇射撃を怠らない。
警戒心に満ち満ちているから初日から誤射。
まもなくテロリストに人質にされたレバノン在住の家族も目の当たりにする。
何しろギリギリの決断を瞬時に次々と迫られる。

そんな状況下で実践初体験にもかかわらず砲撃手にされた男は手が震える。
初日から「生きていることを親に伝えてくれ」と“上司”に頼む。
同僚から腰抜け呼ばわり。
他の指揮官や操縦士も“戦士”呼ぶにはヘタレだ。
戦闘的ではない面々が揃ってしまった皮肉。

だが、そんなように人間臭いからこそリアリティが高い。
「この手で命を奪いたくない」という言葉は、
どこから“敵”に攻められるかわからない状況下ではむなしく響く。
一人でも気をゆるめて手を抜けば戦車内の全員が死ぬからだ。
一人の“身勝手”で全員の命が失われる。
「おまえが撃たなきゃ全員殺される」のが戦場だ。
「戦争を生き抜きたければ、きちんとすることだ」という言葉がリアルに響く。
張り詰めている。
そんな中でのジョークも“最期の笑い”みたいにも思えてピリピリする。
聞きなれないためか、
イスラエルの公用語であるヘブライ語の言葉の響きも生々しく聞こえる。


“外の状況”の映像も多いが、
何が起こるか予測がつかない“初期地上戦”の戦車の中で恐怖感がこの映画のポイントだ。
暗くて狭い戦車内は精神的にも肉体的にも逃げ場がない。
密室内ゆえの息が詰まる緊張感が極まってムカムカする。
皮を剥がれた肉みたいにピリピリピリピリしているからケンカも起こる。

外の光景の大半が戦車の照準器(スコープ、照準眼鏡)を通して見るような感じで、
映画を見る人が戦車兵たちの緊迫感を共有できる映像になっていることも大きい。
“十字の照準線”越しに外を見る形だから、
まるでターゲットに狙いを定めながら外を見渡していくスタイルなのだ。
いわば砲撃手の視点。
戦車の中から同胞のイスラエル軍やレバノンの民間人を見た光景が次々と映し出され、
彼らの顔と死骸も飛び込んできて、
じわじわと緊迫感が高まる。

サブ1

兵士たちがどこまで状況を知られていたのかわからないのも恐ろしい。
シリア人を捕らえたシーンで、
「なぜレバノンにシリア人がいるんだ?」という言葉でわかる。
レバノンとシリアの関係が彼らに行き渡ってない中で侵攻させられているように思える。
どこから攻められるのかわからない恐怖ゆえに、
“ターゲット”を定めることができない照準器を目にして進軍。
そのうち戦車の調子もおかしくなる。
どこに“敵”が潜んでいるかわからない市街地を抜けられるのか砲撃で殺されるのか。
だが今さら単独行動を取れない。

シンプルな物語ながらも無限の内面ドラマが繰り広げられる。


微妙な陰影に富む戦車内の映像は、
ソ連/ロシアのタルコフスキー監督の映画『ストーカー』も思い出した。
光の加減で肌が黒っぽくなるし、
アップを多用したカメラ・アングルにも通じるものを感じた。
ひたひたと迫り来る

声を荒げる場面はあれど全体的には落ち着いている。
クールなトーンゆえに非情の地上戦の恐ろしさを浮き彫りにしている。
照準器が動く音やエンジンの音やちょっとした物音の響きも、
生々しい仕上がりに一役買っている。


それにしてもたった一日でこれだけのことが起こるのだから、
これが数日、数百日、何年も続くと思うと、
気がふれても不思議はない。
皮膚が焼けつくリアリズムに富む佳作である。


★映画『レバノン』
2009年/イスラエル・フランス・イギリス/90分
東京・渋谷シアターNにて12月11日(土)から公開。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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