なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ジャライノール』

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ロシアと国境を接する中国東北部の内モンゴル自治区のジャライノール炭鉱で、
蒸気機関車を動かす老機関士と若い機関士の物語。
静かにじわじわグッとくる映画だ。

79年北京生まれの趙曄(チャオ・イエ)監督の2作目の長編映画である。
桃井かおり主演の『光男の栗』(2010年)も監督しており、
日本の漫画が大好きとのこと。
特に高橋留美子の『めぞん一刻』が大好きで、
人々の人情を描く部分で自分の描くテーマとの共通項を感じるという。

あくまでも人間物語で鉄道云々の映画ではないから蒸気機関車がそれほど出てくるわけではないが、
個人的には高校時代まで鉄道ファンで写真もやっていたから頭の中で懐かしい風が吹き、
イベントで走った際にJR八高線の小宮~拝島間で見たD51の雄姿もチラリと思い出した。
ジャライノールは世界中規模で生き残っている蒸気機関車の数少ない場所のひとつらしく、
様々な意味で、
最期を迎える前ならではのものが発するロマンもさりげなく滲んで目が染みる。


老機関士と若い機関士はタッグを組んで一緒にずっと石炭を運んできた仲間で、
勤務規則を無視して非運行中の機関室の中でビールとおつまみで語り合う先輩と弟子の間柄。
そんな中で老機関士は定年前に退職して娘夫婦の下で生活することを決意するが、
その帰路を若い機関士が追っていく。

物語はいたってシンプルである。
蒸気機関車が走るレールと同じく
極端に曲がりくねったりしない。
ちょっとした人との出会いによりささやかなドラマが随所で起こってゆるやかな起伏を描きつつ、
ゆったりと、ゆったりと、進む。
まったりした穏やかな時間の流れに持っていかれる。

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老機関士も若い機関士も実にいい顔をしている。
労務者の誇りをさりげなく漂わせ、
おくゆかしき佇まいにもかかわらず存在感十分なのだ。
だが、いわゆる俳優ではないそうである。
若い機関士役の青年は監督の旧友で、
監督がその旧友の家に遊びに行った際に居たおじさんが老機関士役になったとのこと。
驚きだ。
個人的に最近見た映画だと『ソフィアの夜明け』も素人が主役で胸に迫る演技で圧倒された。
いや『ジャライノール』の二人もそうだが、
誤解を恐れずにいえば“演技”をしている感覚が希薄なのかもしれない。
だからこそ役者として無我とも無私とも言うべき、
“ありのまま”の静かなる生命のエネルギーを発している。

他の登場人物はすべて現地の人だという。
ほとんどは名も無き役なのだが、
これまた生きている熱気が垢抜けないまま立ち上る。
押しつけがましくなく二人の主人公をナチュラルに盛り立てて、
いいあんばいこの上なしなのである。
ちなみに現地の炭鉱労働者のほとんどは漢族でモンゴル人は全体の10%ほどらしい。

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なにしろ彫りが深い映像美にヤられる。
時は春節(中国などの旧暦の正月)の頃。
とにかく光を上手く使っているのだ。
機関車周辺を重厚に撮ったかと思えば、
逆光を活かして薄暮みたいに景色を映し出したりもする。
コントラストや階調をナチュラルに駆使した素晴らしい芸術である。
よくあるドキュメンタリーものとは一線を画し、
鮮やかすぎないトーンだからこそ身にも心にも染み込んでくる。
映像だけでも意識の流れを感じ取れるのだ。

カメラワークはシンプルながらもポイントを押さえた多彩なアングルで撮影している。
機関車や家などの物はどれも古びて見えるし痛んではいるのだろうが、
使い込まれているがゆえの輝きを確かに捉えている。
かたやカメラを引きに引いて遠くから撮った雄大な景色はめまいがするほど美しい。

機関車の音が労働の響きに聞こえる。
いわゆる民俗音楽風から流行歌までの音楽がまた庶民の心いっぱいで鼻をくすぐる。

中国国内の端に位置する、
一田舎の市井の詩情の流れに目が覚めるばかりだ。
眠れる想像力が喚起される。
会話も映像も、
寡黙ゆえに雄弁で深い佳作である。


★映画『ジャライノール』
2008年/中国/中国語/カラー/92分。
2011年1月15(土)、東京・ポレポレ東中野にてロードショー。
http://www.cinematrix.jp/jalainur/


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コメント

ナメちゃんって鉄ちゃんだったのか・・・

としあきさん、書き込みありがとうございます。
高校時代の途中まで、まさにそうでした。
レコードの方にたくさんお金を使うようになって余裕がなくなくなって、やめた感じです。

その割にレコードにも大してお金を使っていませんよね?

DOLLQ 清水 敢(タケル)さんへ

清水さん 
よそ様のブログを荒らしている暇が
あったら失笑モノの替え歌を披露してくださいよw
DOLLQの更新が滞ってますよ~

行川さん失礼しました。
URLに入れたアドレスは横浜市戸塚区上倉田町の
街BBSで見つけたものです

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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