なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ビン・ラディンを探せ~スパーロックがテロ最前線に突撃!~』

BinLaden_MAIN.jpg


ビッグマックを食べ続けた作品『スーパーサイズ・ミー』で知られるアメリカの男性の、
モーガン・スパーロックが監督と“主役”を務めた2008年の映画。
ビン・ラディンを捜し求めて中東の数カ国を渡り歩く。

まもなく子供ができるということで世界をしっかりと見据える一環として、
アメリカで生活する上で実際問題危険人物なビン・ラディンを探し出そうとするスパーロック。
というわけで、半ば冗談、半ば本気、と思われる目的は実に荒唐無稽である。
だが身重の奥さんがいるにもかかわらず、
いや、いるからこそ生まれてくる子供の将来を思う。
居場所を知る手がかりを見つけ出すべくビン・ラディンと“縁のある国”を訪れ、
怖いもの知らずで危険地帯にも赴く。

NOFXの手法に通じるものがある映画だが、
そのリーダーであるファット・マイクの数十倍は脳天気なキャラでスパーロックが邁進。
さながら“突撃レポート”である。
特に導入部はコミカルでノリが軽い。
適宜ゲームのような画面やコンピューター・グラフィックやアニメーションも使い、
原題の“Where In The World Is Osama Bin Laden?”のとおりに、
とぼけたトーンで展開される。
けどまもなく否応無しにシリアスな色合が強まっていく。

BinLaden_SUB4.jpg

この映画でスパーロックは以下の国などを訪れている。

エジプト
モロッコ
パレスチナ自治区
イスラエル
ヨルダン
サウジアラビア
アフガニスタン

場所ごとに違う空気感が強烈で、
映画ならではのダイナミズムを活かしている。

使われたシーンは撮影した場面の極一部だろうし、
多少なりとも意図的な抜粋もしているだろう。
だが脚色はないと思われる映像の連続だ。
イスラムやイスラエルの保守派の話も紹介しつつ、
一般市民を中心にジャーナリストなどにも話を訊き、
全体的にはリベラルなトーンでまとめられている。
強権的な締め付けに対して誰が相手だろうと“・・・?”の姿勢を顔に出して苦笑する。

登場する人間の大半が男性なのはイスラム圏中心に向き合ったがゆえの現実にも思えるが、
含蓄のある話ばかりだ。

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スパーロックは現地の家庭にも入って飲み食いしながら語り合い、
国によっては監視の下に学校で生徒にインタヴューもする。
イスラム圏の国では冷静にビン・ラディンを見ている人が多い。
モロッコでは、
「テロは外国人に扇動された。イスラムを利用する」の声が聞かれる。

イスラエルに隣接するパレスチナ自治区ではアルカイダについてこういう意見が出ている。
「余計なお世話だ。自分の面倒は自分で見る。これは我々の戦いだ。ヤツらは関係ない」。
「イスラムの印象を悪くするだけだよ」
「我々の戦いに宗教は関係ない。
ヤツら(イスラエルの人)がユダヤ教徒だからではなく我々の土地を奪ったから憎むんだ。
(アルカイダの)連中は西洋社会すべてを敵視してる」。
「イスラム教徒の民族的な感情を刺激するのにパレスチナ問題に言及するのは便利だと知ってるのさ」。

敵国とされることが多いイスラエルではこういう話も出た。
「パレスチナ問題はイス取りゲームに似ている」
「2つの国家が並立するしかありません。
正気の人間は皆わかっています。
だが両方の過激派が交渉を邪魔します」

キワドいポジションのサウジアラビアの人の意見もシビアだ。
「過激派の力を過小評価してはダメです。
連中はいつでも死ぬ覚悟です。
家族も平気で殺します。
命など何とも思いません。
我々だけでなく世界にとって危険な存在です」
「アルカイダの目的は神の名のもとに力を得ることです。
彼らはイスラムの教えをねじ曲げて利用し権力を奪う気です。
イスラム教に限った話でなく宗教人は役人になることは認められてないはずです。
今、アラブの世界に必要なのは、政治と宗教の分離です。
この国のシステムが彼を生んだのです」

アフガニスタンの現地の人は、
「(ビン・ラディンを)見つけたら俺が殺す(笑)」
「アフガニスタンの敵だ」と語る。

BinLaden_SUB5.jpg

そしてイスラム教徒の人々と直接顔を合わせて言葉を交わした主役のスパーロックは言う。
「僕は世界が1つだとかそんな絵空事は信じない。
だが僕らのイスラムに対する恐怖は自分たちが作り上げた内なる悪魔だ。
この恐怖感はやがて独り歩きして巨大化していく」

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ゴールデン・タイムで放映する日本のテレビ番組の
民放のバラエティーとNHKのドキュメンタリーの“アメリカン・ミックス”とも言うべき、
ポイントを押さえたわかりやすい作りである。
だが怖いもの知らずで好奇心とアタック精神が旺盛な主人公のバイタリティと相まって功を奏している。

アメリカンならではの強みと弱みを活かして謙虚に適宜強気に対応。
断られそうなヒジャブ姿の女性にも話を訊こうとし、
マーケットでもビン・ラディンの在り処を質問し、
電話帳で調べて電話しまくったりもする。
一種のエンタテイナーと割り切っているのかもしれないが、
笑われてもチャレンジを続ける。
むろん要所要所はビシッ!と引き締めて複雑に絡まった問題を解きほぐす。

アップ・テンポの映画だ。
これが世界同時多発の現実のスピード感とも思う。
カットしたのかもしれないが、
血生臭いシーンは皆無に近い。
あちこちで流される音楽も軽いロック・ミュージックや民俗音楽だ。
緊張感が漂う場面が含まれているにもかかわらず軽快なアメリカンの空気感に覆われている。

反米映画と思いきや、
ビン・ラディンにまつわる問題を解決できないアメリカ合衆国への愛も滲み出ている。
子供の将来を憂いたからこそ生まれる前に行動を起こした男だが、
奥さんとの携帯でのやり取りを随所に挿入しているのもいいアクセント。
家族を大切にするフツーの人が未来を握るという普遍的なところに着地する。
あながち間違いではないと思う。

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談話中心に展開される映画ではあるが、
どの人物も顔をしっかり捉えたカメラ・ワークと鮮烈な映像力を特筆したい。
現地の様々な景色と光景、
種々雑多な人々のストレートな表情が一番のメッセージだ。


★映画『ビン・ラディンを探せ~スパーロックがテロ最前線に突撃!~』
2008年/アメリカ/93分
12月25日(土)より、渋谷アップリンクほか全国順次開催。
http://www.webdice.jp/realmikoukai/

© 2008 WHERE IN THE WORLD, LLC AND WILD BUNCH S.A., ALL RIGHTS RESERVED


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コメント

是非とも観てみたいです。いつも情報有り難うございます。参考になります♪♪

行川さん、もしよろしければ
アルバムの年間ベスト10を
このブログで発表していただけませんか?
毎年楽しみにしていたので・・・
できればで構いませんので

BECKHAMさん、書き込みありがとうございます。
最初はファニーなテイストに鼻白んだりしましたが、それも狙いの映画かと思います。
ゾーン・トリッパーさん、書き込みありがとうございます。
国内盤だけ、日本のインディ盤だけ、パンク/ニューウェイヴのリイシュー盤だけのトップ10みたいなものは3誌で書いているのですが(いずれもまだ発売されていません)、総合的なものはここで書きますね。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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