なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』

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アメリカの出産事情を描いた2008年のドキュメンタリー映画。
効率やビジネスが優先されるがゆえに原題は“The Business Of Being Born”である。
当事者の妊婦、助産師と産科医へのインタヴューに“現場”の映像をたくさん絡めた構成だ。

監督のアビー・エプスタインは、
ブロードウェイのミュージカル『RENT』『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリー・インチ』などで
舞台監督としてのキャリアを積み、
女性への性暴力反対運動を追ったドキュメンタリー『UNTIL THE VIOLENCE STOPS』を、
2004年に監督している。
彼女自身も妊娠した状態でこの映画の制作に臨んだから切迫感も十分だ。

当時のデータだと助産師が介助するお産は、
日本とヨーロッパだと70%以上、
アメリカでは8%未満とのこと。
この映画で綴られる大半はあくまでもアメリカでの話だが、
大きく状況が異なるとはいえ日本で生活する人間でも埋もれた現実に性別問わずインスパイアされる。
時々ドキュメンタリー映画に見受けられる理詰めの展開ではなく、
体温のある声とダイレクトな映像に持っていかれるのだ。

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まず関係者が、
「アメリカの産科医療は危機にある。多くの面で悲惨な状況だ。
金儲けや訴訟対策が優先で母子の都合は二の次」
と語る。
アメリカでは病院と医療保険のビジネス化が強まって“強引な出産”も少なくないようだ。
「産科医は外科医だから大半は外科手術が得意だが、普通のお産の知識はないからやるべきではない。
アメリカ以外では助産師が活躍していて医師が分娩を扱うのは合併症のあるケースだけ。
出産時の母子死亡率がアメリカより少ないのは7~8割のお産を助産師が介助しているからだ」と。
アメリカはすべての先進国の中で母体死亡率が最も高く、
新生児の死亡率も先進国の中で2番目に高かった。
「“ハイリスクの妊婦が多いせいだ”と主張する声もある。
女性のせいにするとは、バカげてるよ。米国の産科医療こそ問題なのだ」という話も出てくる。

そういった流れで、
この映画では自然分娩/自宅出産に焦点を当てている。

自然分娩を望んでもすんなりいかないことが多いという。
妊婦の希望を聞くというのは建前で戦わないと医師の言いようにされる。
病院は利益のためにベッドの回転率を上げ、
分娩室も12時間以上いられると困るから陣痛促進剤を与えられ、
進展がないと硬膜外麻酔。
医療介入が始まったらドミノのように止まらない。
医師に「胎児が危険」と言われれば逆らうことはではない。
1つの介入がほかの介入を招き帝王切開をするハメにもなる。
自然にまかせずに半ば無理やりさせるというのだ。

女性たちは言う。
「出産は病気じゃない。痛みを感じる必要があると思うの。痛みなしに幸福感はない」
女性は出産の主導権を失った。
自立を意識する女性は帝王切開を否定して助産師を探す。

「足を広げる体勢にも正当性はない。理にかなった体勢だといわれているけれどね」
「医師にとっては楽な体勢だが、胎児にとっては出てきづらい。
妊婦がスクワットの体勢をとったりして母親が体を動かすことはお産への積極参加を意味する。
息む必要はない。立っていれば胎児は降りてくる」
「女性は自力でやれる。誰の助けもいらない。
1人で立ち向かうからこそ、すべてが終わったときに勝利を宣言できる。
自宅出産をする女性は、みんな、自分のことは自分で決めるという共通点がある。
人任せにしようとはせずに積極的に自分のお産に取り組もうとするの」

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20世紀初頭からのお産の流れが写真や絵などを使いながらわかりやすく説明されるが、
いわゆる進化と同時に浮き彫りになった人間に対するアメリカの根本的な認識にも思える。
まるで実験されてきているかのような母体と胎児。
産科の歴史は誤った介入の繰り返しだと示す。

自然分娩のプリミティヴな形が自宅出産だ。
1900年には95%が自宅出産、
1938年には50%に、
1955年には1%未満になったアメリカだが、
この数字は現在でも変わらないと報告される。
助産師と共に消えかけた自宅出産は60年代にヒッピーの間で復活したらしいが、
テクノロジーの進化に伴って帝王切開率が上昇し、
1996年以降はアメリカではそれが46%上昇し、
2005年には3人に1人となったという。

パブリック・イメージゆえか“息めないセレブたち”も映し出す。
ベッカムの奥さんのヴィクトリア・ベッカムやブリトニー・スピアーズなど、
帝王切開を選ぶのがステイタスになる時代で“流行り”というのも大きいという。
「整形手術がアメリカでは普通のことになりつつある。
今の女性は帝王切開を整形手術のような感覚で受けるようになった」
という説もある。

アメリカの帝王切開率が上昇する一方の根底には、
自然分娩には平均12時間かかり、帝王切開なら20分で済む実情もあるという。
音楽シーンも含めて感情や表現も単なるモノとして扱う世の中の合理主義の流れに乗っているようだ。

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確かに現実問題お金の駆け引きから逃れられない。
助産師のほうが安いという話も出てくるが、
医療関係に限らずアメリカは戦々恐々とした訴訟社会である。

産婦人科医は言う。
「この問題の根底にあるのは(医療過誤の)訴訟問題だ。
帝王切開なら間違いない。ほかの手は尽くしたから“訴えられる前に切れ!”と」
逆の立場の人間は言う。
「産科医は保険会社に“自宅出産は危険”と助言するらしい。
保険会社のトップは体制側だから、そのデタラメをうのみにするというわけだ。
米医師会は立場を明確にしている。
医師以外の者が医師と同じ行為をするのを、よしとしないと」
助産師の利用が増えないのは助産事情が厳しいからのようだ。
医療過誤保険の値上げで助産院そのものも閉鎖になってきているという。

問題は全部つながっているし複雑に絡まってもいる。
だがデータを総合した根本的な事実が挙げられる。
「諸外国と比べ医療費を多く使っているのにアメリカの医療はひどい状況だ。
医療費が少ない国のほうが乳児死亡率が低い。
“高かろう、悪かろう”なのかもしれない」
「アメリカでは母体死亡の大半が病院で起きている。
自宅出産は全体の0.5%なのに母体死亡率は一部の途上国より高い」

アメリカではお産の時期の薬などの介入が増えると共に、
子供の神経症や注意欠陥障害、自閉症も以前より増加しているという。
「現代の医療介入には必要なものもあるけど母親の本能を妨げることもある。
子供を守り、栄養を与えるという、
ほ乳類として当たり前のことを妨げてしまう」
“愛のホルモン”の分泌の有無で愛情面にも影響し、
メンタルな問題につながっている。

実のところ本作の監督自身も映画制作中に母体と胎児にハプニングが発生する。
その内容を書くことは自粛するが、
ラフな形でリアルに記録されている。
その過程で産科医を否定しているわけではないことも示す。
「自宅出産は医療との連携で安定した成果を上げている。
産科医の協力があれば万一のとき搬送できるようにしておけば自宅出産はよい成果を上げる」と
母子保健教授は付け加える。
どの世界でも深化と進化の融合が理想だと再認識もする。

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談話が中心の映画だが、
映画ならではのダイナミズムを感じさせる映像もふんだんに盛り込んでいる。
つるり!と母体から生まれいずるストレートな出産シーンも多数盛り込み、
帝王切開のシーンも映し出す。
命が誕生する瞬間の“ナチュラル・ハイ”の空気感は息を止めるほどの迫力だし、
産まれてすぐに赤ん坊を抱き上げる母親の表情と喚起の声はどんな歌よりも心を揺さぶる。
全体的にプライベート・フィルムにも似たあたたかい映像が生々しさを醸し出す。

もちろん産むことができない女性もたくさんいるから出産が女性のすべてではない。
そのことを踏まえた上で本作に登場する出産した女性たちは言う。
「女性は出産したときの気持ちを生きているかぎり忘れない。
驚きに満ちて自信を与えてくれる体験よ。
一方、深い傷を残す悲惨な体験にもなりうる。
肉体的にも、精神的にもね」

生命を司り抱擁する女性のエナジーにあらためて敬意を表したくなる映画だ。


★映画『ビーイング・ボーン~驚異のアメリカ出産ビジネス~』
2008年/アメリカ/87分
12月26日(日)より、渋谷アップリンクほか全国順次開催。
http://www.webdice.jp/realmikoukai/

以下の日時にトーク・イベントも併催される。
ゲスト:堀口貞夫さん(産婦人科医)
日時:1/10(月・祝)13:30の回

© 2007, Ample Productions & Barranca Productions


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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