なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アンチクライスト』

・ア・晢セ・スク・暦スイ・ス・・


『奇跡の海』(96年)や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)も手掛けた、
デンマーク生まれのラース・フォン・トリアーが監督と脚本の2009年の映画である。
原題は“ANTICHRIST”ということになっているが、
スクリーン上だと“ANTICHRIS♀”と表記されているのがポイント。
というわけで単なる“反キリスト”とは言い切れないR18+指定映画だ。

ほぼすべて場面の出演者は二人だけである。
一人は夫のウィレム・デフォー。
55年米国生まれで『プラトーン』(84年)や『シャドウ・オブ・バンパイア』(2000年)
などの演技で知られる。
もう一人は妻のシャルロット・ゲンスブール。
71年にフランスのセルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキンの娘として生まれた女優だが、
歌手としての活躍ぶりは今回の映画の様々な“発声”にも表れており、
凄みすら感じさせる。

・ア・晢セ・スク・暦スイ・ス・・スサ・鯉セ樞側a_convert_20101222140437

浴室で激しくセックスしている最中に一人息子が事故死したことに終生苛まされる夫婦の物語だ。
特に妻は悲嘆と自責の念で神経を病んでセラピストの夫が“治療”を試みる。
まもなく二人が“エデン”と呼ぶ森の中の小屋に向かうが、
ますます憑かれたかのごとく妻は夫を疑った末に、
信じがたい狂気の方法で碇石を“足かせ”のように夫の脚に組み込む。
それからも夫婦の格闘は続き、
夫と妻のおのれ自身との格闘も続き、
“終末”へと向かっていく。

スリラー映画とも言えるようなストーリーはけっこうシンプルだが、
幾層もの映像の“罠”がこの映画の真骨頂だ。
エグい行為と事故であるはずの冒頭から、
美を超越した映像に目を奪われて何が起こっているのかわからなくなるほどだ。
一種の象徴主義的とでも言おうか。
なぜ『アンチクライスト』というタイトルなのかもストレートにはわからない。
いや、だからこそ“ANTICHRIS♀”なのである。

夫婦なら自然なことともいえるが、
やりまくりである。
発作のようにセックスを始めるシーンが執拗に映し出される。
ヤらなきゃ気をまぎらわせられないのか、
ヤっている最中に死んだ息子の霊に突き動かされているのか、
大半は妻の方から夫に乗っかってくる。
ぼかし多数にせざるをえないほど局部露出のシャルロットの熱演は、
彼女のファンであれば興奮を禁じえないであろう。

実際はボカシがあるから何が行われたのかは不明だが、
すべてをわずらわせる元凶を取り除くかの如く終盤では“自己割礼”を施したことが想像できる瞬間も。
おのれの陰核にすべてを支配されていると悟ったかのようだ

・ア・晢セ・スク・暦スイ・ス・・スサ・鯉セ樞則a_convert_20101222140545

プロローグとエピローグにはさまれて本編は、
“grief”“pain”“despair”がテーマの3部構成になっている。
“悲嘆”“苦痛”“絶望”とも訳せるそれらの言葉は、
ぼくにとってはハードコア/ノイズ/ドゥームのロック用語でもある。
DISRUPTの元メンバーによるGRIEFというスラッジ・コア・バンドがいたし、
CHRISTIAN DEATHとAGNOSTIC FRONTとNEUROSISのファースト・アルバムは
それぞれ『Only Theatre Of Pain』『Victim In Pain』『Pain Of Mind』だし
ノイズ・ユニットのSPKには「Despair」という代表曲がある。
キリスト教圏の“いかにも言葉”だが、
こういうある種の青臭さがぼくにはたまらない。
映画の中の節目では象徴する生き物として、
鹿(=grief)、キツネ(=pain)、カラス(=despair)も不気味に姿を現わす。

“antiChrist”を歌いこんでいるバンドはたくさんいる。
だがこの映画の雰囲気はSEX PISTOLSでもVENOMでもSLAYERでもMARILYN MANSONでもない。
ブラック・メタルの空気感である。
切り刻むようなシーンはほとんどないとはいえブラスト・ビートがふさわしい激しいシーンもあるが、
BURZUMのアンビエント・チューンみたいな佇まいに覆われており、
実際アンビエント・サウンドが聞こえてくる。
そして(ゲオルク・フリードリヒ・)ヘンデル作曲の、
“オペラ『リナルド』第2幕 アリア(アルミレーナ):私を泣かせてください”も挿入される。
敵の魔術師に捕らわれた女性アルミレーナが恋人を思って自分の悲運を嘆くシーンで歌われる曲だという。

アンチクライストサブ④a

最後のテロップで示されたように、
本作はソ連/ロシアのアンドレイ・タルコフスキー監督に捧げられている。
さもありなんである。

もう何年も見てなくて今見たら演出過剰に思えるかもしれないが、
ぼくにとってタルコフスキーは特別で彼の映画はロック的だ。
一筋の光に救いを求めるみたいな、
見えない敵に向かっていくみたいな、
ヨーロッパのアーティストを中心にした古典的なロック観と共振している。
『アンチクライスト』も何を言いたいのかはすぐにはわからないところにも近いものを感じる。
だが思わせぶりと言うには強烈すぎる。


偽悪趣味や露悪趣味の映画とは一線を画している。
一瞬一瞬にケリをつけるみたいな重いトーンで迫り、
ストーリー云々以前に強引な映像力で神経をなぶり続ける。
ぼくが映画に求めるのはそれなのだ。


★映画『アンチクライスト』
2009年/デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド合作映画
ほぼカラーで一部モノクロ/104分/英語/日本語字幕
2月26日(土)より全国順次ロードショー。
http://www.antichrist.jp/
©Zentropa Entertainments 2009


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コメント

自己割礼の時点では、絶望も超えてしまっていそうですね。やりまくりの阿部定も相手のブツですからね。ぼくも、SPKを思い出しました。また、NEUROSISの1stタイトルも同じく。GRIEFは、THROBBING GRISTLEのライブ盤のタイトルを思い出しました。全部、狂気なアルバムですね。ぼくは、TGのデレクジャーマンの映画のサントラ、「IN THE SHADOW OF THE SUN」は初期作品の影響のせいか、余り名前のあがるアルバムではないですが、内容は素晴らしいと思います。また、行川さんのあげたクリスチャンデスのアルバムもかなりな名盤だと思ってます。発売当時、ハードコアもADKも絶頂期で内緒で聴いてましたが(笑)、今でも聴くアルバムです。マスターベーションのライブアルバム、予想以上に良かったです。だいぶ、元の日のテープをノイジーにしてある所も。同時期に、AMEBIX、日本にマスベ。オリジナリティを持ったバンドだったと思います。

かくさん、コメントありがとうございます。
いかにもな3つの言葉ですが、80年代以降の欧米の地下系統のロックに馴染み深いのが面白いです。
TGは初期のインパクト強いですが、「IN THE SHADOW OF THE SUN」はもちろんのこと、他のレコードでも映画音楽っぽい音をやっていましたからね。
80年代のCHRISTIAN DEATHはかなりレコードを買ってきましたが、やはり初期のヴォーカルのパンク・ロック色の強い時代が格別です。
マスターベーションはRUDIMENTARY PENIとかCRASSの流れのバンドのダークな色も強いですね。

行川さんは映画雑誌では原稿を書けないんですか?

イルジーさん、書き込みありがとうございます。
そうですね。
映画のことを書くとしたら、せいぜい音楽雑誌の映画レヴュー・コーナーぐらいです。

音楽雑誌の映画コーナーで書いてるんですか?
どの雑誌ですか?読んでみたいです。
プロとして記事を書くには、何本ぐらい見ているべきでしょうか?

イルジーさん、書き込みありがとうございます。
たまにミュージック・マガジンで書く程度ですよ。
たくさん見るにこしたことはないと思いますが、ひとつの映画をストーリーも映像も音も丁寧に感じることも大切かと。
でも人間、やることたくさんありますから、ぼくは一本一本、集中力とエネルギー使って見ることにしています。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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