なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

WIRE『Red Barked Tree』

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英国の元祖“ポスト・パンク・バンド”の2年半ぶりの新作。
リミックスものや“WIR”という別名義のものを除けば、
10枚目のオリジナル・アルバムに数えられそうだ。
ビートがファーストの『Pink Flag』(77年)、
メロディがサードの『154』(79年)などなど曲によってアレコレと過去作とダブるイメージも湧き、
これまでのWIREを踏まえつつ新しい方向性も見せて鮮やかな快作だ。


ロンドン・パンク・ムーヴメントを“打ち止め”にするかのように
真打ちSEX PISTOLSのファーストに続いて7年12月に『Pink Flag』でアルバム・デビューして以来、
2度の活動停止をはさみつつ活動してきたバンドである。
MINOR THREAT、R.E.M.、BIG BLACK、BLOODTHIRSTY BUTCHERSなど、
70年代のパンク・ロック・スタイルを“次”に進めた音楽性の様々なバンドがカヴァーしたように、
影響力は絶大だ。
ヴィジュアルも含めて、
ポスト・パンクと呼ばれた同期のバンドたちよりヘタレ度が高いようにも見えるが、
これまでローファイにダラダラ甘んじることは決してなかった。
今回も目が覚めるようにビシッ!とした仕上がりになっている。
ある意味素晴らしき貧乏臭さは健在にもかかわらず、
凛とした美意識すら感じられるのだ。


2000年代初頭の2度目の再始動以降に出した3作目であり、
オリジナル・ギタリストのブルース・ギルバートが去ってからの2作目。
コリン・ニューマン(vo、g、他)、
グラハム・ルイス(b、vo、他)、
ロバート・グレイ[“旧姓”ゴートゥベッド](ds)という
オリジナル・メンバーのトリオでのレコーディングだ。

前作『Object 47』は録音もコリンが手掛け、
テクノやダブっぽい音作りも感じられてエレクトロニクスの比重も高かった。
そういうニュアンスも薄っすらと漂わせつつ、
今回は前々作『Send』(2003年)のようなハードコア・パンクと接触する曲も含み、
高揚感をもたらすヴァラエティに富むサウンドである。
尖った感触の鮮烈な音の仕上がりもダイナミズムに一役買っている。

いきなりまったりした曲が流れきて最初は出鼻をくじかれた気分になったが、
こういう始まりだからこそ全体のインパクトが強くて深いアルバムだ。
たそがれたヴォーカルと耽美的なギターが目立ち、
歌心すら感じさせる。
サイケデリックとすら言えるディープなヴォーカルも聴かせてくれるのにも驚いた。
70年代以来久々にコリンがアコースティック・ギターで曲作りを行ない、
そこに他の二人が肉付けをしていったという、
歌を主軸に置いたと思しきソングライティングが確実に功を奏しているのである。

後期JOY DIVISIONへの影響がフィードバックしたような音も聞こえてくると同時に、
まもなくヘヴィな音の波が繰り出されてくる。
メロウな曲とハードな曲の配合が絶妙でぐいぐい引き込んでいく。
ぶよぶよした贅肉を殺ぎ落とし、
疾走感も相まってパンク・ロック以外の何物でもない曲も随所で飛び出す。

「ロックでなければなんでもいい」はWIREの名言とされるが、
パンク・ムーヴメント以前のロックの複雑さや、
当時のパンク・ロックも大半が下敷きにしていたロックンロールのフォーマット、
さらにポピュラーなロック・ミュージックの決まりきった構成に中指を立てた言葉と言える。
でもWIREはずっとロックである。
ミニマルな作りをしたとしても、
たとえば民俗音楽とかを取り入れた即席の“民衆の音楽”に逃げず、
たとえば現代音楽や実験音楽に手を染めることもしなかった。

このアルバムもRAMONESやDISCHARGE以上のミニマルな曲で、
よくよく聴けば原初的なブルースにも通じるシンプルな曲構成だし、
やっぱりロックのエナジーに貫かれている。
しかもフック十分のソングライティングなのだ。

『Red Barked Tree』が目の覚める出来なのはビートの強化も大きい。
むろんテクノとかに媚びたやつじゃなく生身の音でハジけている。
パーカッシヴなベースもさることながら、
乾燥したドラムの音に尽きる。
ハイテクでもローテクでもノーテクでもないテクニックを超越したドラミング。
オカズがない主食だけのプリミティヴ極まりない恐るべきビート。
なかなかマネできない。
ことさらストイックとか感じさせない飄々と悠々自適にWIREの時を刻む。
ロバートのドラムこそがWIREをWIREたらしめていると再認識するのは、
ぼくだけではないだろう。
そしてこのドラムこそがパンク・ロックだ。


歌詞からも感じられる冷ややかな熱いパワーがチマチマした能書きだの戦略だのを無にする。
セレブがエコを気取るのとは別次元で根が“エコ”な音のバンドならではの説得力だし、
やっぱり長いこと活動を続けているバンドが元気だとうれしいのであった。


★ワイアー『レッド・バークト・トゥリー』(Pヴァイン PCD-93382)CD
日本盤は歌詞とその和訳付で、
金属的なデザインを落ち着いた味わいに演出した紙質のデジパック仕様。
オススメ。


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うんこ

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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