なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『引き裂かれた女』

メイン20110223120805

フランスのヌーヴェル・ヴァーグを代表する一人で昨年9月に80歳で他界した、
クロード・シャブロル監督の最晩年期にあたる2007年のラヴ・サスペンス映画。
20世紀初頭のアメリカで実際に起こった事件をヒントに脚本が書かれたらしいが、
浮き世を超越したフランス映画伝統の匂いに満ちていて嗅覚すら刺激される作品だ。

繧オ繝厄シ胆convert_20110224152124

テレビのお天気コーナなどで知られる人気キャスターのガブリエル(リュディヴィーヌ・サニエ)が、
女好きで妻帯の初老の売れっ子作家であるシャルル(フランソワ・ベルレアン)と
父親の遺産に裏打ちされた金持ちのボンボンである若年のポール(ブノワ・マジメル)の間で、
“引き裂かれる女”を演じている。

女の立場では二人の男の選択。
男の立場では一人の女の取り合い。
話の展開はとてもわかりやすい。
“事件が乱入”しつつ古今東西でありふれた筋書きとも言えるが、
荒唐無稽で奇をてらったストーリーが時に辟易とさせるのは周知の事実。
シンプルな物語だからこそ、
ムズムズしてくる登場人物たちの絶妙なキャラの立て方が際立ち、
微熱感あふれる俳優陣の演技力でクールかつ隠微な内面描写が浮き彫りになっている。
人間関係はわりとドロドロしているにもかかわらず、
まったりさっぱり優雅な佇まいの仕上がりが心憎い。

サブ3_20110223121135

ちょっとした変態趣味を持つ作家シャルルは落ち着き払って余裕しゃくしゃく。
劣等感ゆえに嫉妬に狂って女の子に“処女性”すら求める若いポールは押しの一手で求婚。
追われる術に長けている重厚な銀髪男と
追わずにはいられない軟派な若い男が、
極端なコントラストで描写される。

父親不在の家庭環境と想像できてファザコンとも妄想できるガブリエルが、
親子ぐらい歳が離れている作家シャルルに惹かれていったのは、
同年代か年下と推測できるポールの行動が実年齢以上に子供に見えたからとも思える。
心理的にも肉体的にも、
作家シャルルの老練なテクニックに翻弄され“調教”されていくガブリエルだが、
傷心のタイミングで若い男ポールを受け入れる。
だが必ずしも結婚が完結にはならないのであった。

サブ4_20110223121238

もてまくるだけに誘いの断り方を心得ていて
コケティッシュな顔とボーイッシュなファッションのガブリエルだが、
純情かつ優柔不断と映る揺れ動く女の子としても描かれている。
爛熟の“大人”と未熟な“子供”である二人の男の落差ある無意識な駆け引きと、
同性の友人関係がカットされていて女性の目にはどう映るか気になるガブリエルの行動は、
いわゆる良識ある成人の行動を逸脱している。
と同時に情念とは無縁で痴情に溺れ切らない上品なロマンスにも覆われている。
そんな風情の三人の歯痒い気分がこっちにもじわじわと増幅されていき、
こそばゆい。

名声や年齢はかけ離れているとはいえ男二人は共に富豪のポジション。
ガブリエルは花形の仕事をしているが、
書店で働く母親との二人暮らしでブルジョワではないだろう。
上流社会と関わる女の子の微妙な心象風景の流れも綴った“格差社会”の中での恋愛とも言えるが、
3人の立場を考えればテレビのワイドショー的に十分ありえる舞台設定とストーリー展開である。
人気女性キャスターはモテモテ!という素朴な“実情”などの、
テレビ番組や出版のちょっとした舞台裏も随所に盛り込んで“現実感”を加味している。
そういう下世話なリアリティに貫かれているからこそ生々しく迫ってくる映画だ。

サブ6

引用を得意とする作家シャルルをはじめとして知的な会話の妙味も、
フランス語独特の官能的な言葉の響きとともに楽しめる。
狂おしいセックス・シーンを排したソフト・タッチの映像美に託したのも、
日本はもちろんのことアメリカでも醸し出し得ないモヤモヤした空気感を増幅している。

世界や国内の動きと隔絶した快楽主義者の“ワンダーランド”みたいな舞台は、
いわゆるフランス料理のイメージにも近い。
人が殺されていてサスペンス風味の展開にもかかわらずロマンチックにすら感じられ、
まるで魔法でも掛けられたような気分になる。
けど一般の日本社会とはかけ離れた感覚が味わえるのも映画ならではの醍醐味だ。
ファックではなくオーラルみたいな性感が漂うのも、
アメリカ映画ではなくフランス映画の伝統の味わいだろう。
タイトに物語を詰めずにゆとりの時間配分も日常を忘れさせてくれる。

その他5

それにしてもクロード・シャブロル監督、
77歳でこういうエレガントな性臭が漂う映画を撮ったこと自体でも痺れさせてくれる。
“老いてなお盛ん”という言い方が適切ではないとすれば、
“生涯現役”の意志が奥ゆかしく揺らめいている。
作家シャルルに監督自身を託したように思えて切なくなるのはぼくだけではないだろう。

筋書き的に不可解な部分も御愛嬌。
不条理な行動は恋愛に本気であることの表れだし、
論理を超越したところでこそ映画は輝く。
異次元にワープしたかのごとき唐突な結末も、
日本も含めたメジャーなショウビズ界を眺めれば妙にリアリティがある。

ほろ苦く甘美で芳醇な後味が残る佳作だ。

サブ5

★映画『引き裂かれた女』
フランス/2007年/カラー/1時間55分
2011年4月上旬、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開後、全国順次公開。
www.eiganokuni.com/hiki

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/365-980a015e

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (291)
映画 (254)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (43)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (413)
EXTREME METAL (129)
UNDERGROUND? (95)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (121)
FEMALE SINGER (42)
POPULAR MUSIC (25)
ROCK (83)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん