なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ビー・デビル』

『ビー・デビル』サブ⑧


チャン・チョルス監督の長編デビュー作になった2010年の韓国映画。

後半は何リットルも流血する露骨な映像が続くからある種の覚悟が必要だが、
単なるスプラッター映画とは次元が異なる。
絵空事を超越した社会性もはらむリアリズムに裏打ちされ、
残酷なシーンは積年の怨念が加速したものとして必然性に貫かれ、
許しの念なんて甘っちょろいとばかりの徹底ぶりに恐怖心を覚えている暇はないほど圧倒される。


“無島”と呼ばれる孤島で繰り広げられる壮絶極まりない物語。
人口は9人。
その内訳は以下のとおりだ。
●主人公のキム・ボンナム(ソ・ヨンヒ)
●ボンナムの夫
●夫の弟
●ボンナムの姑を含む4人の老婆
●男性の長老
●ボンナムの娘

力仕事ができるという現実問題があるとはいえ極端に男性が尊ばれる島。
ボンナムの夫とその弟が“治外封建”なほど大切にされ、
とりわけ前者は母親をはじめとする老婆たちから免罪符を与えられている。
特に夫が強権を行使しているわけではない。
島の掟“だ”。

それに対してボンナムは犬や家畜以下の扱いである。
夫から虐待され、
姑をはじめとする老婆たちにはコキ使われる奴隷で、
義弟には昼間から“肉奴隷”にもされる。
夫は「心を開かない」妻のボンナムでは勃たないからか、
島外から“デリバリー”を呼んで妻に聞こえるようにサディスティックなセックス。
だがそれに飽き足らず“ある女”にも手を出していた。

8

そんな島にソウルの銀行勤めのへウォン(チ・ソンウォン)がやってくる。
彼女にとっては仕事のトラブルなどで疲れた骨休めも兼ねた休暇で、
幼馴染みのボンナムから執拗に手紙をもらっていたというのもあり、
子供の頃に育った島に“里帰り”したのだ。
ボンナムは旧交を温めようと虐げられている姿をヘウォンに見せないように努めたが、
時間の問題であり、
それどころかボンナム以外に若い女がいない状況だけにヘウォンも狙われる。

ボンナムは夫から逃げることを試み、
ソンウォンと会って刺激も受けて
生まれてから30年近く島から出たことがないため過剰に憧れているソウル行きを願うが、
なかなか事が運ばず。
その流れで、
とある決定的な“事故”が起こる。

どん底に叩きつけられたボンナム。
だがカミュの『異邦人』の如く太陽に“覚醒”させられ、
筆舌に尽くし難い行動が加速していく。
ようやく憧れのソウルにたどり着くが、
生まれたときからの夢が達成された瞬間の彼女には失うものは何もなかった。

2

儒教の影響か韓国に色濃く残っている言われる男尊女卑も極端な形で徹底的にあぶり出されている。
映画の中では“掟”と言っているが、
奇習とすら言える本作みたいな状況にまで至ってなくても、
妙な因襲に対して中指を立てた映画にも思える。
死刑制度が有名無実と化している韓国。
裏切られて孤立無援であらゆる尊厳が虐殺されて追いつめられたら、
おのれの解放のために自ら“手を下す”しかない。
そんなニヒリズムにも覆われているように思う。

むろん過剰なBGMで盛り上げることなんてしていない。
ハードボイルドな映像力で圧倒する。
島の自然が残酷なほど鮮やかだ。
どの登場人物も不気味な激臭が漂うほど強烈な存在感を放っている。
ボンナムと娘と長老以外の島民全員が悪鬼に見える。
心理描写も絶妙だ。
たとえば終盤でボンナムが“刃物フェラチオ”から“指フェラチオ”への転じるシーンでは、
情愛はともかく彼女に対する性愛の念が夫の中から呼び戻されていることが伝わってくる。

いわゆるイジメから国家間の関係に至るまで、
世の中には加虐者と被虐者と傍観者が存在する。
そういう意味で旧友のソンフォンはソウルでの仕事中のシーンから“明確なキャラ”で描かれている。
ギリギリのところまで情に厚くてギリギリのところまでソンフォンを助けたボンナムとは、
ヴィジュアルも含めて対照的だ。
実のところボンナムは子供の頃からオモチャにされていたのだが、
その頃から関わりあいたくないとばかり見なかったふりをするソンフォンは変わってなかった。
いつも逃げるばかりであった。
幼少の頃の詩情豊かな回想シーンがあまりにもやるせない。

プレス用の資料で監督は
「あなたは思いやりのある人間ですか? 思いやりをもたない人間ですか?」と問う。
虐げられまくった末にボンナムも終盤で“親切”という言葉を口にしている。
計算高い親切心や見返りを求めるやさしさとは違う人間の本質は極限の局面で表れる。
安っぽいヒューマニズムに血のツバを吐きかける。
いたたまれないほどの諦観の凄みに息を呑むしかない。

『ビー・デビル』メイン

原題を和訳すると“キム・ボンナム殺人事件の顛末”。
英題が“Bedevilled([悪魔などに]取り憑かれた)”。
邦題の『ビー・デビル』は“悪鬼になれ”という意味合いになるだろうか。
どれも言い得て妙なタイトルで、
各々のタイトルの付け方に民族性みたいなものが表れている気もして興味深い。
普遍的な心の震えを伝える映画であると同時に、
狂気というより凶器の如き情念は欧米の映画ではなかなか感じられない血の粘度を有している。

ヴァイオレンス&グロテスク&エロチック、
そしてディープに鎌で内面をえぐり取る映像力とストーリー。
デス・メタルと“怨歌”のまぐわいみたいなハードコア極まりない映画だ。

2時間弱のヴォリュームも決して間延びせず必然性を感じさせるし、
長さを感じさせない力作である。


★映画『ビー・デビル』
2010年/韓国/115分/カラー/R18+指定
3月26日(土)よりシアターN渋谷にてロードショー。
(C)2010 Boston Investments Co., Ltd. and Filma Pictures. All Rights Reserved.


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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