なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ナチス、偽りの楽園-ハリウッドに行かなかった天才-』

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俳優であり映画監督であり時に歌い手でもあった
ドイツ系ユダヤ人のクルト・ゲロン(1897~1944年)のドキュメンタリーという形で、
精神までも完膚なきまでに痛めつけるナチスの残虐性をあぶり出す映画だ。
監督・脚本はスティーヴン・スピルバーグの下で脚本を書いていたマルコム・クラーク。
2003年アカデミー賞・長編ドキュメンタリー部門のノミネート作品で、
原題は『PRISONER of PARADISE(楽園の囚人)』である。


『ロード・オブ・ザ・リング』で知られるイアン・ホルムのナレーションで進められる。
ゲロンが出演した映画や監督した映画のシーンはもちろんのこと、
彼と接した関係者や“当事者”の発言を交え、
ナチス関連の映像も盛り込んだ構成になっている。

俳優としてのゲロンで有名なのは、
マレーネ・ディートリッヒの代表作のひとつである映画『嘆きの天使』における
でっぷりした座長役を務めた姿だろう。
あのいやらしい姿を憎々しく思ったディートリッヒ・ファンはぼくだけではないはずだ。
本作では描かれないがナチスや第二次世界大戦に対する彼女のクールな闘い方やスタンスと比較すると、
ゲロンの行動は愚直にも映ってやるせない。

すでに有名人になって裕福な生活をしていたことも大きかったのだろう、
ゲロンはハリウッドに行くチャンスを蹴る。
すべてにおいてタイミングを逸したようにも見える。
自分が成すべき仕事に熱中して政治への関心の弱さも手伝い、
じわじわと欧州中に勢力を伸ばしていたナチスに対する心構えも後手に回ったようである。
ユダヤ人であるゲロンは決定していた監督の座も差し替えられてさすがにドイツにはいられなくなり、
フランスやオランダに移って財産を失いつつ細々と俳優/映画監督の活動を続ける。
だがナチスが占領したオランダで捕らえられ、
テレージエンシュタット収容所に送り込まれる。

テレージエンシュタットはチェコに置かれた“楽園”という名の収容所だ。
演劇や音楽の舞台も用意されていたが、
強制収用されたユダヤ人は“生殺し”で囚人同然。
まさに原題どおり“PRISONER of PARADISE”である。

ユダヤ人ゲットーとゲシュタポ刑務所から成る。
テレージエンシュタット内でも拷問や虐殺は行なわれていたようだが、
アウシュヴィッツに移送(transport)する直前に、
“一時的な生存の場所”としてユダヤ人が送り込まれた空間とも言える。
映画の後半でtransport・・・transportとナレーションで話されるたびに、
その語感の軽さと裏腹の事実の重さに胸が締めつけられる。

偽りの_sub_2

映画関係の有名人ということでゲロンは多少優遇され、
収容者の慰安のためのキャバレーを運営することになった。
自らも出演してある意味“エンタテインメントの仕事”を続けられているから
他の収容者よりは恵まれていた。
だが館内のナチスらに蔑まされ、
わずかな食べ物を得るために一般の人たちの列に並んだ。
そのため全盛期は超メタボな体型が変わり果てたものになっていたという。

そんな中
あちこちからユダヤ人がいなくなっているという疑念を抱くスイスやスウェーデンなどの中立国から、
ナチスは説明を求められるようになっていく。
1944年6月の赤十字社の“査察”が入る日までに
テレージエンシュタット収容所は急ピッチで“楽園”に改造された。
その流れでゲロンは、
自分が生活している強制収容所を“楽園”に見せるナチスの宣伝映画を撮るようら命じられる。
第二次世界大戦の時代の日本でも行なわれていた“アーティスト”の国策協力みたいなものだ。

以前同じようなナチスのプロパガンダ映画を作った人間が余計なシーンを混ぜて処刑されたことがあった。
ナチスの趣旨にのっとった映画を作るか、
その場で殺されるか、
ふたつにひとつしかない。
ゲロンは“映画人”としてプロフェッショナルな作品を撮ることを選ぶ。
そんなゲロンの取った行動に対し、
生き残った人によれば収容された人は複雑な感情を抱いたという。

ネガティヴなところは一切映さずに子供の笑顔満開の120%“楽園”の映画を完成させたゲロン。
それはゲロンにとって生き残るための“final solution”のはずだった。

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淡々とした展開でじわじわと
ナチスのユダヤ人皆殺し計画“final solution”の恐怖が迫ってくる。
「次にアウシュヴィッツに送り込まれるのはおまえだ」とばかりに生々しい。
関係者の話以外の映像は、
再現フィルムも含めてほとんどがモノクロで生々しい。
当時の音響効果も相まって笑顔でエンタテインメントに興じるシーンも深く物悲しい。


ドイツ周辺では一人一人が同じ行動を強制的に取らされた時代。
無責任な自由の汁を一滴たりとも吸うことを許されなかった人間の本当にギリギリの状況の話だが、
右へならえの世の大勢にも馴れ合いの反対勢力にも属さず、
“個”であることの大切さもあらためて痛感させられる映画だ。


★映画『ナチス、偽りの楽園-ハリウッドに行かなかった天才-』
2003年/アメリカ/英語/カラー/デジタル/93分
4月23日(土)~新宿K’s cinemaにて公開。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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