なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

CRASS『Penis Envy』

PENIS ENVY


最も政治的だった英国のパンク・バンドのCRASSが80年12月にレコーディングした
サード・アルバムの“デラックス・リイシュー”。
昨年11月にリリースされたもので、
現在4枚目のアルバム『Christ The Album』まで発売されている
別ジャケットなどで新装した“The Crassical Edition”再発シリーズの第三弾である。
本編10曲に加えて3曲ボーナス・トラックが加えられたリマスタリング音源だ。


イヴ・リバティーン(vo)がほとんどの曲を歌い、
ジョイ・デ・ヴィヴレ(vo)が2曲を歌う、
全編女性ヴォーカルという点でCRASSの中でも異色のアルバムである。
CRASSの多くの曲を歌うスティーヴ・イグノラントのクセが強いナマリのヴォーカル不在で、
女性ヴォーカルならではのポップ感も手伝って他のアルバムよりも聴きやすいという声があり、
実は人気の一枚だ。

音楽的には歯切れがいい。
男性のスティーヴが歌う他の作品のCRASSの曲はOiパンクに通じるゴツい労働者臭がムンムンで
(だがそこがいい)、
BUSINESSがCRASSをカヴァーしたのもうなずけた。
けど『Penis Envy』は、
不変のギターがノイジーにジリジリ焼け焦げていると同時にビートがこれまで以上にハジけており、
いい意味で軽く音のポップ度が高く、
どの曲も覚えやすいフックがある。
実験的な音作りも施しつつパンク・ロック・スタイルがほとんどだが、
他のアルバムよりも頭がやわらかい曲だ。
SLITSやRAINCOATSの初期に通じるパートも目立つ。

ヴォーカルは甲高い声が飛んで跳んで踊りまくるような調子で歌う。
大半の曲ではマシンガンのように言葉を連射するのがCRASS流だが、
全編メロディアスに聞こえるし、
曲によってはけっこう歌い上げる。
どこもかしこも“包み込む”トーンがやっぱり女性ならでは。


リリース当時、
同じく両性混合の英国のバンドであるAU PAIRSの『Playing With A Different Sex』とともに、
アルバム一枚でフェミニズムを叩きつけた先駆的な作品として
個人的にもかなり衝撃を受けた。
もちろんCRASSはアグレッシヴに攻め、
『Penis Envy』はオリジナルLPのジャケットがダッチワイフの実物大の顔写真で、
裏ジャケットが屠殺場/食肉加工所の写真なのも意味深だった。
それでもってタイトルが“陰茎ねたみ”。
このセンスも強烈だ。

LP時代はメンバー全員による作詞作曲ということになっていたが、
“The Classical Edition”のブックレットで初めて曲ごとのソングライターがクレジットされている。
『Penis Envy』は他のアルバムの何倍も女性メンバーが歌詞を書いた。
男性メンバーが“cunt”という言葉を歌詞に使おうとして女性メンバーが拒否した話が象徴するように、
オトコが気づきにくい女性の“ヒダ”を表現にしている。
といってもCRASSのことだから“アンチ~”みたいにことは歌っていない。
政治を含むシステムや歴史も絡めて当然シニカルだ。
当時の英国首相のマーガレット・サッチャーが
女性であるにもかかわらずオトコ的な政策を打ち出していたことも、
頭にあったようである。
わかりやすくはないが、
想像力を刺激して意識が広がっていく。
結論はひとつじゃないのだ。


今回のボーナス・トラック3曲はすべてCRASSの単なる演奏ではない。
1曲目は映画音楽のような2009年1月に編集されたアンビエント・チューン、
2曲目は同時期に本作収録の「Our Wedding」などをコラージュした曲、
3曲目は「Major General Despair」にヴァイオリンなどを入れて2003年に再構築した曲である。

ヴィジュアル担当のメンバーの女性G(ジー・バウチャー)によるデザインのブックレットも、
今回は心なしか他の“The Crassical Edition”以上に気合が入っている。
カラーのページも多い。
例によってリマスタリング効果絶大の鮮烈な音に仕上がっているから、
LPを所有していても持っていたいアイテムだ。


★CRASS『Penis Envy』(CRASS CC 03)CD
スリップ・ケースの中に
豪華64ページのブックレット(今回はリーダーのペニー・リンボー[ds]に加えてイヴも一筆添えた)、
CDを収めた二つ折り紙ジャケット、
オリジナルLPのジャケットを復刻したミニチュア・ポスター
が封入されている。
全46分13曲入り。
CRASSが批判したCLASHのジョー・ストラマーのコメントも引用されている。


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コメント

EVE

噂でEVE LIBERTINEは
現在も音楽活動を行っていると聞きましたが
(自身の息子か娘と共に)本当でしょうか?
凄く聴きたいのですが音源などは出てないの
でしょうか。

Chumba さん、書き込みありがとうございます。
その情報はまったく知らないですが、Wikipediaによれば今も音楽活動はしているようですね。ぼくも彼女の音源が聴きたいです。
CRASSの元メンバーだとスティーヴ・イグノラントがLAST SUPPER名義でCRASSの曲をやるライヴをコンスタントにやっているみたいです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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