なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『スペイン一家監禁事件』

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タイトルから想像できるとおりの2010年のスペイン映画。
71年生まれのミゲル・アンヘラ・ヴィヴァス監督の長編2作目である。

原題は『KIDNAPPED』だが(同名の映画が存在するので注意)、
それだと“誘拐された(人)”みたいな意味になって本作の内容とニュアンスが違ってくるから、
邦題が端的に中身を表している。
サスペンスな中盤まではともかく、
終盤はホラー映画に加速するから心臓にそれなりの“覚悟”が必要。
だが臓物を売りにするような映画ではなくすべてが必然性を帯び、
欧州では10秒に1件発生して日本でも増加中の“押し入り強盗事件(express kidnapping)”を軸に据え、
社会的とも言えるほどリアリスティックで強烈な映画だ。

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郊外の新興住宅地に引っ越した父と母と18歳になる娘の三人家族が主人公。
仲良し家族に見えないとはいえ関係が冷え切っているわけでもなく、
引っ越して心機一転で家族の絆を強めようとは母親が一人張り切っているが、
多少の不満は持ちつつ“文句いいながらもイイ家族”という雰囲気が伝わってくる。
三人が住むことになったのは建売住宅ではなくプール付の豪邸。
だからこそ速攻で狙われた。
新居での最初の食事目前に三人の男たちが窓ガラスを破って侵入。
メインの目的は金品ではある。

彼の地の“押し入り強盗”の実態を反映させてスペイン人が一人と東欧人が二人という男たち。
連中の威嚇におびえながら家族3人はしばし言いなりになってクレジットカードや金庫の暗証番号を教え、
主犯格のリーダーの男が父親を連れて外出。
父親に車を運転させてATMで金を下ろさせためだ。
その男は“紳士的”であり命令どおりに金を下ろせば女二人に手を出さないというようなことをほのめかす。
だが一日にATMから引き出せる金には限度額があり、
日が変わってまた新たに引き出せるまで待機する形になり、
父親は妻と娘が心配で気が気じゃない。
「こうしちゃいられない……」と考えて思い切った行動に出る。

一方で母親と娘を監視している残った二人の男は仲たがいを始め、
二人の女に手を出すか否かの問題でリーダーの命令を守るか否かといった話に発展。
そんな中で家に訪ねてきた娘のボーイフレンドも監禁されるが、
目を離したすきに母親と娘は“最初の反逆行動”に出る。
恐怖に打ち震えつつ母親も娘も大人しく男たちに従っているわけではなかった。
殺されるかもしれないと思っているからだ。
リーダーに従わない男の方はコカインでキメていてコントロールが効かなくなり、
まもなく暴走が始まった。


映画の中で響く音は実際に現場から出る音以外は基本的に使わず、
音楽も無理のない挿入方法である。
“画面分割”の手法が特に切迫した2つのシーンで使われているのも効果的だ。
同じ時間に起こっている父親と娘(+母親)の別々の場所のシーンを画面の左右で映し出し、
見る側としては左右を一緒に見て緊張感がホント高まるのであった。
ダイレクトなカメラ・アングルと人物のシンプルな切り取り方も功を奏している。
話のリアリティや人物の感情がストレートに伝わってくる。

太陽の下での映像はほとんどないが、
ナチュラルな明るさで夜間の外でも屋内でも人物の表情がはっきりと見える。
陰影に富みつつもシャープな映像だから顔から心境が見て取れるのだ。
ホラー映画でも内面が見えにくい作品は薄っぺらに見えてしまうが、
「ありきたりのスリラー映画のように被害者の内面心理を掘り下げるのはやめた」と監督は言う。
だが登場人物一人一人の行動や反応や表情で十二分に内面心理がじわじわ迫りくる。

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俳優たちの演技力も大きい。
父親役を『永遠のこどもたち』のフェルナンド・カヨ、
母親役を『ビューティフル(BIUTIFUL)』のアナ・ヴァジュネール、
侵入者たちを、
『命の相続人』のドリタン・ビーバ、『鶏小屋』のギレルモ・バリエントス、オランダ生まれのマルタイン・カイパー
が熱演している。

とりわけ娘役のマニュエラ・ヴェレは感動的なほど素晴らしい。
新進女優とのことだが、
何かに憑かれたかのような演技を超えた迫真の動きと表情と声は、
すべてが生きるための鼓動のように震えている。
特に終盤は本気で助けてあげたくなる気持ちになった。
ということは、
映画を見ている人を“現場”にいる感覚にしたいという監督に意図にぼくはハマったわけである。
個人的はそう思うことはめったにないが、
次の出演作を見たくなるほど将来が楽しみだ。


非情が猛烈に加速する終盤を経たあと、
突然時が止まる。
いや時が終わる。
こんな結末ありかよ……と監督を恨みたくなるほど、
しばし動けなくなった。


★映画『スペイン一家監禁事件』
2010年/スペイン映画/カラー/85分/デジタル上映
2011年7月2日(土)よりシアターN渋谷他全国順次レイトショー
www.kingrecords.co.jp/spain/
twitter→ @horror_hiho
(C)2010 VACA FILMS STUDIO S.L - BLUR PRODUCCIONES S.L. - LA FABRIQUE 2


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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