なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

MORBID ANGEL『Illud Divinum Insanus』

Morbid Angel - Illud Divinum Insanus


米国フロリダ出身のデス・メタルの帝王による8年ぶりの“復活盤”。
89年のアルバム・デビューからずっとEARACHE Recordsからリリースしてきたが、
レーベルとしては古参の最後の砦だった彼らも遂に移籍してしまった。

UK SUBSと同じく彼らもアルバム・タイトルの頭文字をアルファベット順に付けているから、
これはライヴ盤を含めれば9枚目のアルバムとなる
(デモ作品ということになっている86年録音の『Abominations of Desolation』は除く)。

メンバーは唯一のオリジナル・メンバーのトレイ・アザトース(g)の他、
元ZYKLONのデストラクター(g)とDIVINE HERESYのティム・イェング(ds)がアルバム初参加。
そして“ミスター・ヴィンセント”という名で15年ぶりにアルバム復帰した
デイヴィッド・ヴィンセント(vo、b、kbd)である。

ピート・サンドヴァル(ds)が腰の故障のため離脱中だからでもなかろうが、
堕み落とされたのは問題作にも程がある“怪盤”だ。


MORBID ANGELといえばブラスト・ビート込みのデス・メタルのパイオニアでもあるが、
そういう彼らの王道ナンバーは全体の3分の1以下。
むろん粘着質のミディアム~スロー・テンポの曲もクールなバンドだが、
そういう曲も少ない。
新境地2曲→王道2曲→新境地1曲→王道1曲→新境地1曲→王道2曲→新境地2曲という流れ。
その新境地の曲のほとんどはインダスリアル・メタルと言える。

MORBID ANGELは必ずしも保守的なバンドではない。
ぼくなんかはサードの『Covenant』(93年)の時点である意味“変わった”と思っていたし、
深化だけではなく進化もしてきたバンドである。
思えば彼らはその『Covenant』収録のリミックスを含む『Laibach Re-mixes』を94年に発表している。
80年代前半からインダストリアル・ロックの元祖みたいなサウンドをやってきている
東欧スロヴァニア(旧ユーゴスラヴィア)の実験的なロック・バンドの
LAIBACHによる極上リミックスも2曲入れた12”EPだ。
進取の精神に富む彼らの意識の高さをそこで再認識した。

そんな流れが行き着いたような序盤の新境地の曲は“デス・インダストリアル”でカッコいい。
そのLAIBACHからも影響を受けたRAMMSTEIN風の勇壮なコーラスが光り、
最近のKORNにマックス・カヴァレラが混入したかの如き中盤の「I Am Morbid」も良しとしよう。
だがそれ以降のインダストリアル・チューンはほとんどダンス・ミュージックだ。
シャッフルや四つ打ちの変形みたいなリズムまでも聞こえてきてしまう。

プロデュースはMORBID ANGEL自身だが、
このアルバムでミキサーを務めたショーン・ビーヴァンは
NINE INCH NAILSやMARILYN MANSONの代表作を手がけてきた人である。
“狙い”が見えてくる。
インタヴューによればプログラミングは未使用の生演奏とのことで、
ドラマーも健闘していて大きな問題はない。
テクノからインスパイアされたようなリズムを絶妙に導入したクールなパートもある。
ただ全体的にはインダストリアルものとしても実験的なメタルとしても今一つぬるい。
MORBID ANGEL流を試みたにしても、まだ消化不良に思える。
少なくてもぼくの芯にまでは響いてこない。
今回半分以上のドラム・トラックのレコーディングをした元メンバーのエリック・ルータンが率いる
HATE ETERNALがひと月ほど早く出した新作『Phoenix Amongst The Ashes』とは対極の方向性だ。


肉体的に負担が大きそうなヴォーカリゼイションだから強度は昔に譲るが
ナチュラルな発声に近くなってデス・ヴォイスを凌駕した獰猛な咆哮は旨み生々しさを増している。
ただインダストリアル・チューンでは曲のメロディに合わせるためか声が出切れてない部分も多く、
パワーが減退したような印象も受けてしまう。
耳を疑うようなノリノリのヴォーカルや演技性の高い声も漏れ聞こえてくる。
デイヴィッドならではの肉体的な喉の魅力がインダストリアル・テイストに殺されかけている。

“正フロントマン”の御帰還で狂喜した熱狂的なファンの方々の困惑ぶりも想像できる。
ヘヴィな仕上がりとはいえ曲によっては、
MORBID ANGELを離れてからデイヴィッドが奥さんらと別にやってきているバンドの
GENITORTURERSの跳ねる音がフィードバックしてしまっているといっても過言ではない。

デイヴィッドがこういう方向性を望んだのは納得できなくもないが、
重厚一筋のトレイがこういうアルバムを本当に作りたかったのかがホントに謎だ。
そもそもなぜ今(さら)インダストリアルなのか?
MORBID ANGELがフォロワーになった!とまでは言わないが、
無数のフォロワーを生み出した自分らの確固たるスタイルを活かした挑戦的な方向性は別にあるはずだ。
本作もデス・メタル・ナンバーがカッコいいだけに疑問である。

インダストリアル・テイストはともかく、
ダンス・チューンとすら言える俗っぽい部分は威厳漂うMORBID ANGELには違和感がある。
今までの彼らを思えば陳腐で安っぽくも聞こえる。
バンドが放つ空気感というものには本質が表れるからすごく大切だ。
「Too Extreme!」「I Am Morbid」といった曲名も、
自分で自分にツッコミを入れているみたいでファニーにも映る。


グレイト!ではない。
MORBID ANGEL初心者不可。
今までのMORBID ANGELを聴いていて
「ヤツラもおもろいことやるな~」とおもしろがれる人ならば
真正面からではなく“ナナメから”楽める一枚。


★MORBID ANGEL『Illud Divinum Insanus』(SEASONS OF MIST SOM 222)CD
12ページのブックレット付。
約57分11曲入り。


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コメント

実験的なメタルとしても今一つぬるい、なんで今さらインダストリアル・・・、今までの彼らを思えば陳腐で安っぽくも聞こえる、とまったく同意です。
本当にこれまで尊敬していたバンドだったのでガッカリしました。
某B!誌にはデヴィッドよりもトレイの意見をインタビューしてほしかったです。

コメントありがとうございます。
リーダーのトレイに話を訊かないと事情はわからないでしょうが、もしかしたらアレコレ訊かれそうだからインタヴューを避けていたりして。
バンド内で権力闘争でもあったのか、それとも「俺のやりたい路線でやってくれるなら復帰するよ」みたいな取引でもあったのか、みたいな色々な邪推もしたくなるほどです。
それは半分冗談として、産みの苦しみでトレイからいい曲やアイデアがなかなか出なくてデイヴィッドにまかせたとも想像できます。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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