なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『スリ』『ラルジャン』~ロベール・ブレッソンの芸術

ブレッソン



1901年生まれのフランスの映画監督・脚本家であるロベール・ブレッソンの映画
『スリ』(1959年)と『ラルジャン』(1983年)を見てきた。


★『スリ』(74分/モノクロ)
スリを“職業”にしている若い男の物語。
スーツ姿で“仕事”をしているからサラリーマンにも見えるが、
貧しい大学生という設定のようだ。
スリルありロマンスありで映画の王道のシンプルなストーリーだからこそ、
それをディープに見せていく手腕に痺れた。

しばらくは単独行動で、
やがて“仲間”との連係プレイへと進化していくスリの手腕を惜しげもなく披露。
素早く滑らかな“指さばき”が見どころの一つだ。
スリの対象の大半が金持ちっぽいというのもあって、
盗みの善悪を考える余地を与えず芸術的ですらある。

いわゆる仕事をする気はない親不孝者。
主人公の詳しい生い立ちは不明だが、
それを映画の中で説明するのは野暮ったい。
彼がスリに対する持論を展開するシーンがなくても全体に滲み出ている社会に対する復讐の意識が、
この映画に命を吹き込んでいる。
いつも何かにおびえているみたいな疑心暗鬼でこわばってピリピリした主人公の顔が
すべてを物語る。
と同時に終始冷静で飄々としたキャラがこの結末を導いたのも妙に納得できる。

モノクロならではの彫りの深い映像美と場面転換が少ないことも相まって、
落ち着いたトーンに貫かれている。
当時のフランスの風物も楽しめるが、
スリを行なう際のエロチックな指使いを伝える手の動きをアップで捉えるなど、
ポイントを押さえたプロデュースぶりがたまらない。

50年代の映画ならではの陰影に富み、
深く考えなくてもストレートに面白い映画!と言い切れる。
マニアックなテイストもある映画かもしれないが、
ただ見ているだけで老若男女を引き込む映画だ。
ほんとうにすごい作品ってそういうもんである。


★『ラルジャン』(85分/カラー)
不条理に巻き込まれた不条理な鬱積で不条理の事を起こしてしまう若い男の物語。
原題の『L’ARGENT』は“money”の意味である。
請求書と引き換えにニセ札を受け取らされたことに端を発して、
転がり落ちる人生を転がり落ちて砕けていく石のように描く。
“何か悪いことしたでしょうか?”と自問自答したくなるような、
何かに取り憑かれているかのような映画である。

こちらも家族関係を詳しくは説明してないが、
主人公の男には愛らしい幼少の娘と妻との生活がある。
だが“策略”にハマったことに加えて家庭を持つ男の妙な責任感の運命のイタズラが重なって収監。
“塀の中”に入れられてからは妻からの手紙だけが男の楽しみだが、
それも永遠ではなかった。

子供のイタズラから事件がふくらみ、
責任を転化する人間たちの犠牲者になった一般市民の男の悲劇は底無し沼。
“金が人心を狂わせる”とかいう単純明快なテーマではないが、
“金は天下の回り物”という怖さも滲む。
こちらもしだいに社会への復讐劇のような展開になっていくが、
前述の『スリ』から25年近く経て作られたためか“余裕”がなくなり、
情念がゆっくりとメラメラ沸き立ちメラメラ燃え上がっていく。

ブレッソンが亡くなったのは本作の16年後だが、
遺作になることを予見していたかのような映画の終わり方に溜め息が漏れた。
やさしくされているにもかかわらず終盤は“なぜ・・・・・”とも思ったが、
映画のポイントになるところだから個人的な解釈はここに書かないでおく。
“誰でも良かった”という世の中を騒がせる事件に説明できる動機があれば事を起こしはしない。
要領よく立ち回った人物が途中笑顔も見せるが、
結局は誰もがしあわせになってないのがすごい。
淡い色合いの暗めの映像でも登場人物たちのダークな心象を描き出している。
やはり手の映像も見どころのひとつだ。


『スリ』も『ラルジャン』もお金と“愛”もキーワードの映画と言える。
各々の映画のシーンを抜粋した↑のチラシ画像の監獄における面会シーンが象徴的だ。
共に主人公をはじめとして登場人物のほとんどがニコリともしない。
淡々としたクールな進行の中でハードボイルドな心理描写が光る。
挿入される音楽もストリングスなどで必要最小限に抑えられており、
ドアの開け閉めなどの地味な音の一つ一つが密かに緊張感を煽っている。

本物は遊びも小細工も必要としない。
贅を削ぎ落とした静かな表現の凄みにうならされるばかりの2作品である。


★“映画の國 名作選Ⅲ ロベール・ブレッソンの芸術”
7月15日(金)まで
渋谷シアター・イメージフォーラムにてニュープリント版で上映中。
www.eiganokuni.com/meisaku3-bresson/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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