なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『はだしのゲンが見たヒロシマ』

Gen_Main_convert_20110709121941.jpg


1939年に広島で生まれて
1973年に週間少年ジャンプで連載を始めた『はだしのゲン』の作者である
漫画家・中沢啓治が“自身と『はだしのゲン』と原爆”を綴るドキュメンタリー映画。
監督は東京生まれでこの映画が初の監督作品になる石田優子だ。

生い立ちから現在までの自身を“はだしのゲンが見たヒロシマ”をキーワードに中沢が語る。
1945年8月6日に広島で父と姉と弟を亡くし、
アメリカの原爆投下直後に生まれた妹を4ヶ月で亡くすが、
“爆心地”にいたにもかかわらず偶然が重なって生き延びた中沢。
さらに漫画家を目指すきっかけ、
原爆病院で入院していた母を亡くして火葬直後に原爆がテーマの漫画を描くことを決意したエピソード、
『はだしのゲン』をメジャー少年漫画誌で連載していた頃ならではの賛否、
そして現在の思いも穏やかな語り口で明かされていく。

漫画と違って実際は父姉弟の死に目に会えてないなど100%“中沢=ゲン”ではないが、
『はだしのゲン』は自身の体験をゲンに託した自伝的漫画と言える。
妙な脚色もウソもない。
すべて中沢の皮膚と体内と感情に焼きつけられたものの表現だ。
終始落ち着いたトーンで語っていくからこそ重い。
原爆はピカドンと呼ばれるが実際は“ピカ”だけで“ドン”がない、
つまり光だけで音が聞こえなかったという話をはじめとして、
すべてが生々しい。
父弟が死んでいく“現場”を無念の気持ちで見守るしかなかった母から聞いた話など、
やはり家族に関する話が特に重い。

当時の写真は米軍が原爆投下前と投下後に撮った航空写真のみで、
ニュース・フィルムの類は一切無し。
インタヴューを受けるのは中沢だけで、
あと比較的頻繁に登場する人物は聞き手の渡部朋子(NPO ANT-Hiroshima理事長)ぐらいだ。
音声効果も必要最小限。
極々シンプルな構成だからこそ思いがダイレクトかつ静かに直撃する。

Gen_02_convert_20110709122414.jpg

広島平和記念資料館に収蔵されている『はだしのゲン』の原画を懐かしそうに眺めながらも語られるが、
『はだしのゲン』の原画が映画館のスクリーンいっぱいに広がると、
描線の太さと勢いから中沢の痛みの震えと激情が熱く伝わってくる。
視覚はもちろんのこと匂いまで漂ってくる画は、
多感な6歳の頃に理屈を超越して否応無しに熱線で五感に刻み込まれた者ならではのリアリティがある。
あらためて真にハードコア(露骨)な表現だったとも再認識させられるのだ。
いわゆるヴァイオレンスな漫画は当時もあったが、
これほど肉体と精神をえぐる描写の漫画を昔も今もぼくは知らない。
今までほとんど語られてなかったと思しき事実も明かされている。

この映画は原爆が投下された数ヵ月後ぐらいまでの初期の『はだしのゲン』の話がメイン。
つまり『はだしのゲン』の“核”が凝縮されている。
『はだしのゲン』はナイーヴな反戦反核を超越した漫画だから様々な解釈もあるが、
その5年以上前に描いた原爆がテーマの最初の漫画『黒い雨に打たれて』が、
『ゴルゴ13』の先を行く作風で米国への憎悪をストレートに叩きつけた作品ということは忘れたくない。
中沢が初期衝動を昇華させて『はだしのゲン』に臨んだこともわかる流れだ。

通っていた学校や自宅の跡地を訪れて語るなど起伏を持たせた展開である。
原爆ドームで収録されたシーンもいいアクセントだ。
ギャル旅行者たちと一緒に中沢が記念写真に収まるシーンも微笑ましい。
終戦まもない頃に現・原爆ドームで戯れていた思い出を語るシーンの挿入も見事。
悲劇の象徴とされる原爆ドームを当時子供の中沢たちがスリリングな遊び場にしていた話も、
極限の悲劇の体験をポジティヴにフィードバックしたエピソードだ。
まさに『はだしのゲン』そのものである。

原爆というピンポイントに留まらず、
特に影響を受けた父をはじめとして家族を殺した戦争と核兵器に対しての憤怒が穏やかに渦巻き、
熱いエナジーが沸々と湧き続ける映画だ。
直接語りかけてくる言葉と目に飛び込んでくる映像はやっぱり文章より子供の感覚に訴えかけやすく、
それは昔から中沢が大切していることである。
“個”として静かに訴えているからこそ説得力がある点と中沢の語り口がわかりやすいのは
『はだしのゲン』と同様で、
さらに子供にも伝わりやすい漫画というメディアの力も再認識する。
ぼくも小学生の頃に『はだしのゲン』の深い真意はつかめていなかったが、
画のインパクトと感情を揺さぶるストーリーで自分自身の肝になった。

Gen_03_convert_20110709122901.jpg


ぼくにとって『はだしのゲン』は戦争や政治の原点だ。
小学生の頃にリアル・タイムで『はだしのゲン』に出会ってなかったら違う人生になっていた。
少なくても“ヒロシマ”に関してはぼくにとって『はだしのゲン』がすべてとも言える。

初めて『はだしのゲン』に触れたのは当時たまたま買った週間少年ジャンプ。
原爆が投下された直後で焼けただれて皮膚が垂れ下がってガラスが体中に刺さった人が列を成して
「水をください」とつぶやきながら歩き(中沢さんは“幽霊”と繰り返していた)、
『はだしのゲン』の画のインパクトが最も強烈だった比較的初期の回だったから絶大な衝撃を受けた。
当時10歳のぼくは『はだしのゲン』から興味を広げ、
戦争関係のテレビを見たり本を読んだりして、反戦そして“憎戦”へと思いを広げていった。
突き詰めて掘り下げていって“個”を抹殺する戦争につながる意識も自分の憎む行動の原点だ。
また自分にとって『はだしのゲン』は、
ポリティカルなパンク/ハードコア・バンドやデス・メタルなどの、
ヴィジュアルや歌詞のダイレクトな表現に惹かれる原点とも言える。

6月30日に『はだしのゲンが見たヒロシマ』の試写会に続き、
中沢さんと監督の“記者会見”が行なわれた。
ぼくはこういう場に出席してもめったに発言しないが、
中沢さんがそこにいてしゃべらないではいられない。
ためらうことなく挙手して二番目に質問。
当時週間少年ジャンプの連載が途中でなくなって疑問に思ったこと(以降3つの非児童誌で連載続行)、
他の連載漫画と違って当時“少年ジャンプ・コミックス”として単行本にならなかったことなどを、
映画では言及されてなかったから直接中沢さんの口から聞きたかった。
このへんのことは中沢さんにとって周囲との関係性も絡むからヘヴィなことで慎重に答えてくれた。
週刊誌は一週間で店頭から消えるが単行本はずっと残るから、
集英社として『はだしのゲン』は“少年ジャンプ・コミックス”として単行本にできない、
という話を関係者から聞いたという。

タイプは違ってもぼくが別に好きだった『侍ジャイアンツ』や『アストロ球団』と同じ本で息づき、
そういったスポ根(スポーツ根性)漫画と同質いやそれ以上の熱量を放っていた『はだしのゲン』。
ただもともと少年ジャンプの編集者が好きなだけページをやると言って『はだしのゲン』の連載が始まり、
他の漫画がイマイチな紙に青などのインクで印刷されていたのに対し、
『はだしのゲン』だけ滑らかな紙に黒インクで綺麗に印刷されていた記憶があり、
編集部が特別扱いしていたようにも思う。

記者会見ではひとつの話題から派生させて様々な持論を展開した中沢さん。
映画の中ではあまり言及されてないが、
『はだしのゲン』を発表してからの苦労や“闘い”もパンパじゃないことが想像できた。
不屈の反骨精神にシビれた同時に、
チェルノブイリにも行った中沢さんの原発にまつわる諸問題の話も視野が広くて説得力があった。
原発に賛成しているわけではないと前置きした上で
風評、特に福島から移った子供がイジメられていることに怒りをぶちまけ、
被爆などには様々なケースがあることを踏まえた上で、
「私だって今70歳まで生きている」と言い切った。

たくましい。
『はだしのゲン』のゲンはやっぱり中沢さんの分身なのだ。
映画の終盤では「100歳まで生きる」と豪語。
まるでレミーである。


★映画『はだしのゲンが見たヒロシマ』
2011年/77分/HDV/カラー/ステレオ/ドキュメンタリー
出演:中沢啓治(『はだしのゲン』作者)
企画:渡部朋子
製作:山上徹二郎、渡部久仁子
監督:石田優子
撮影:大津幸四郎
8月6日(土)よりオートリウム渋谷にてモーニングショー。
©2011 シグロ、トモコーポレーション


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/486-6caff312

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (294)
映画 (262)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (43)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (420)
EXTREME METAL (129)
UNDERGROUND? (99)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (123)
FEMALE SINGER (43)
POPULAR MUSIC (27)
ROCK (83)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん