なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

井上侑~2009年8月9日 at 阿佐ヶ谷ネクストサンデー

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井上侑(イノウエユウ)は愛媛県松山市生まれで東京都練馬区育ちのピアノ弾き語りシンガーソングライター。
CDは5曲入りの『さようなら』(2007年)と6曲入りの『Hello!!』(2009年)をリリースしている。
この日、“みかんの子2009~22回目の誕生日”と題されたワンマン・ライヴに行ってきた。


普段の自分の音楽生活ではまず出会わないタイプである。
ミュージック・マガジン誌の連載インディ・コーナーで知った別のシンガーソングライターのライヴに足を運び、
たまたま同じ日に出ていた彼女のステージも体験。
その日、ステージ中央でニコニコしながら思いッ切り頭を下げた姿で直感した。
ジャンル問わず何かしでかす人は出てきた瞬間からして違う。
観たとがないものを観て聴いたことがないものを聴いた終演後、物販で即CDを購入。
そういうことは最近あまりない。

といっても観に行くのは半年ぶり。
しっかり向き合うには曲がたくさん聴けるワンマンがいちばんだから。


この晩は曲によってベースと打楽器も入ったが、
あくまでも彼女の核はピアノ弾き語りだ。
弾くタッチは決して強くはないが、
たいへんシンプルでミニマルなピアノの音が彼女の中から歌をたぐり寄せ、
メロディアスながらもリズミカルなヴォーカルを先導している。
ピアノは小さい頃からやっていたとはいえ
弾き語りを始めたのが19歳ということを強みにしたいい意味でのプリミティヴなプレイが新鮮なのだ。
時に危なっかしくも見える。
逆に言えば守りに入ってないからこその輝きを放つ。

よく矢野顕子が引き合いに出されてきたらしいが、
凛とした風情は彼女がCDを買い続けている宇多田ヒカルの方に近いかも。
でもぼくが聴いてきた限りだと、いい意味でどちらにもあまり似ていない。
そして誰かの曲のカヴァーをやると明らかに浮く。
時に突飛ですらあるオリジナルの曲がユニークで個性が立っているからだ。

開演前に会場内では、
DOOBIE BROTHERSの「Listen To The Music」やQUEENの「You're My Best Friend」などの、
アメリカのチャートを賑わした70年代のポップス/ロック・ナンバーが流れていた。
彼女にとっては幾世代も前の音楽のはずなのにライヴの合間に聞こえてきて妙にしっくりきた。
彼女の曲にはピアノが楽器の中心になった洋楽のポピュラー・ミュージックに通じる品の良さがある。
しっとりした曲も多いが、日本っぽく湿ってない
さりげなく明朗かつ寂びしがり屋なポップ・センスが冴えている。

英語で歌ってもハマる曲だと思うが、
“僕”(≠ぼく、≠ボク)“を一人称にした歌詞が映える日本語があまりにもフィット。
しかも微妙なクセがある。
でないとぼくが惹かれることはありえなかった。
しかも一回聴いたら忘れないほど人なつこい肌触りの曲ばかりであることに、3回ライヴを観て気づいた。


井上侑にはMCでもヤられる。
とにかくおもしろい。

無駄口叩かずひたすら曲を続けるジャパニーズ・ハードコア・パンクのライヴで育ってきたからか、
普段ぼくはMCが苦手だ。
いやそれ以前のFRICTIONにしろThe STALINにしろ、
“MCありき”な従来のロックのステージ運びを否定していたように思える。
そもそも押しつけがましいしゃべりもあったりするし、
MCでその日のステージ全体の流れを殺してしまっているアーティストも少なくない。

でも彼女はMCも躍動するリズムに貫かれているし
たとえ身内ネタでも普遍的なレベルに持っていくおおらかなパワーがある。
神奈川県の川崎や埼玉県の戸田公園での定期的な“ストリート・ライヴ”で鍛えられているから物怖じせず、
自分のことを知らない人の前で弾き、歌い、語ることが当たり前。
常に開かれた意識の上で他人と向き合っていることは音楽にもトークにも自然と表われる。
滑りまくっても瞬時にネタにし、
一人でボケとツッコミをやるみたいな天性のセンスも感じる。
でも注意して見ていたら意外とダラダラしゃべらない。
ヘラヘラしているようで曲と同じく実はMCもビシッ!と引き締まっている。


そして何より歌っているときの顔が最高にイイ。
ほんとうに歌うことが好きなんだなぁ……とビリビリ伝わってくる。
これほど心から楽しそうにピアノを弾き語るシンガーをぼくは知らない。
おちゃめでコケティッシュな表情に持っていかれる。
炭酸ソーダみたいにハジけている彼女の歌声もまったく同じ。
歌が上手いか下手かなんてことは我流のシンガーにとってはどうでもいいことだ。


次々と曲を書き日々進化している井上侑。
手の届かないところにまで上りそうな予感がする。



<photo♪Keiko Yoshida>


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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