なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『沈黙の春を生きて』

沈黙の春を生きてmain>ツーズー病院を訪れたヘザー


ベトナム帰還兵が夫だった坂田雅子監督による『花はどこへいった』(2007年)に続く映画。
タイトルは米国の作家/海洋生物学者レイチェル・カールソンが
農薬や殺虫剤などの合成化学物質の危険性を警告すべく62年に書いた、
『沈黙の春(Silent Spring)』の流れをくむ。
原題は“Living the Silent Spring”である。

『沈黙の春を生きて』は、
その本が著された時期からベトナム戦争中の米軍が
ゲリラが潜むジャングルの隠れ場所の森を枯らすために散布し始めた枯葉剤(agent orange)の、
今もなお続く影響を描いたドキュメンタリーである。
加藤登紀子が適宜ナレーションを入れているが、
基本的には当人たちの言葉を活かしている。


当時の米国政府は枯葉剤について“人体に影響がなく土壌も1年で回復する”と説明していたが、
アバウトにも程がある。
国家だろうが一個人だろうが無責任なヤツは大嫌いだ。

DISCHARGEの曲じゃないが、
まさに“nightmare continues”。
ベトナム戦争中に枯葉剤を浴びた本人以上に産まれてきた子供たちの状態が深刻で、
まさに犠牲者だ。
子孫に対して侵略的かつ破壊的、
場合によっては壊滅的とすら言えるなどの影響を及ぼし続けている。


枯葉剤散布の経緯には簡潔に言及しつつ政治的な背景にはあえてほとんど触れず、
現在と未来を見据えた作品である。

むろん主演にあたる人物はいないが、
アメリカ人枯葉剤被害者として初めてベトナムを訪れた女性の
へザー・A・モリス・バウザーが水先案内人のようになっている。
98年に50歳の若さで亡くなったベトナム帰還兵の父を持ち、
72年に生まれたときから右脚のひざから下と手の数本の指が欠けている。
現在は夫と二人の息子と米国で家庭を持っているが、
そこに至るまでの彼女と御両親の苦労は計り知れない。
ただ正直・・・・おそらく自分自身でも多少なりとも感じていると思うが、
彼女はこの映画に登場する人の中でも恵まれた方と言える。

沈黙の春を生きてsub2>ヘザーとベトナムの子どもの手

ベトナムの子供たちは、
五体がヤられ、
皮膚がヤられ、
視神経がヤられ、
脳がヤられ、
内臓がヤられ、
寝たきりのケースも多く、
癌にまで至るケースもある。
人によっては外出もままならないし人前に出にくいようにも想像できる。
出演者の一人が被害者を「正視できない」とも言っていたが、
映画のスクリーン上ですら目をそむたくなるほど、むごい。

紹介されるベトナムの被害者は子供が多いために本人だけでなく親が代弁して語ってもいる。
障害児が生まれるのは先祖の何かの因縁ではないかということにされていた時期もあったが、
今や枯葉剤の知識が広まってはいる。
だがベトナムでは出産の不安が今もつきまとう。
大きな病院がある所では超音波診断で胎児の障害の有無を調べて、
親が産むか堕ろすか判断せざるを得ない。
医者も無脳症などの重度の障害が発見された場合は堕胎を薦めるという。

一方アメリカではベトナム帰還兵の子供の被害者を紹介するが、
数人の成人女性に焦点を当てている。
髪が抜け落ちた女性。
生まれながらにして子宮がない女性。
生殖器に異常があって性交ができない女性。
本人や関係者が苦悩を吐露する。

全体的に女性監督ならではの視点もポイントになっている。

なにしろ他の人がするようなことができない。
ベトナムの子供もベトナム帰還兵のアメリカの子供も、
それが一番つらいことだ。
他の子供と遊べない、
学校にも行けない、
家庭を作ることも難儀。
家族のつながりの大切さも伝わってくるが、
自分を責める親御さんの言葉もつらい。

沈黙の春を生きてsub1>キエウと母

「戦争は人間の本性かもしれない。やるなら責任取れと」
「アメリカは前進した。あの人たち置き去りにすることで」
諦観も漂う痛烈な言葉が突き刺さる。

話はポイントを押さえてまとめており、
信頼関係があるからこその躊躇を感じさせないカメラ・アイで被害者たちをしっかりと捉えている。
映画だからこそ持ちえる“ちから”を感じる。

安っぽい同情やヒューマニズムが入り込む余地がないほどギリギリだ。
現実問題、見れば見るほど苦難の人生が続くように思えてしまう被害者も少なくない。
だが生きている。
運命に向き合う。
運命を乗り越えてしあわせになる。
枯葉剤の被害者である盲目の音楽家が
そんな言葉とともに楽器“一弦”を奏でる音の力強さが救いだ。


★映画『沈黙の春を生きて』
ドキュメンタリー/HDV/日本/87分/2011年/日本語、英語、ベトナム語
日本語字幕付。
9月24日(土)から10月21日(金)まで東京・岩波ホールにて4週間限定上映!
他、全国順次公開。
http://cine.co.jp/chinmoku_haru/
(C)2011 Masako Sakata/Siglo


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コメント

『花はどこへいった』

先日初めて坂田雅子監督の『花はどこへいった』を見ることができました。

第二作の『沈黙の春を生きて』を詳しく紹介してくださってありがとうございます。ぜひ見てみます。

ETCマンツーマン英会話さん、書き込みありがとうございます。
実は『花はどこへいった』はまだ見てないので比較はできませんが、反戦云々以前に人間が問われる映画だと思います。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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