なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アンダーグラウンド』

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1954年にセルビア(旧ユーゴスラヴィア、現ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)で生まれた
奇才エミール・クストリッツァ監督の1995年の映画。
15年前に日本でも公開済みとはいえ今回はデジタル・リマスター版での上映で、
オリジナル版の淡いトーンをキープしつつ映像も音声も鮮やかになっている。

クストリッツァ監督は目下の最新作『マラドーナ』(2008年)でも健在ぶりを示してくれたが、
『アンダーグラウンド』は掛け値なしに最高傑作の一つだし、
映画史に刻まれた作品といっても過言ではないだろう。
“映像と物語と音楽のトリプル・ミックス”という、
映画にしか成し得ない映画だからこそ成し得る表現で見どころありありだ
具がぱんぱん、スタミナ満タン、ホルモン分泌しっぱなしで、たくましい映画である。

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舞台は東欧の旧ユーゴスラヴィアで、
特にベオグラード(現セルビア)を中心に物語が繰り広げられる。
調子良すぎて明らかに怪しい“人生の詐欺師”マルコと
実直な電気工のパルチザンであるクロという
親友&悪友コンビと、
二人が憧れで終わらせず敵のナチス兵も翻弄される小悪魔女優ナタリアが中心になって映画を掻きまわす。

1940年代前半の時代からスタート。
ベオグラードはナチス・ドイツに占領されて危険が迫ったから避難させるという目的で、
共産党員で成り上がり志向のマルコは友達のクロなどのたくさんの身近な人間を
広大な地下(underground)に誘導。
自分の弟や彼が働いていた動物園の動物、さらに大人数のブラス楽団も引き入れ、
地下室の暗いイメージとは対極の何やらにぎやかなワンダーランドみたいな空間ができあがった。
そんな中で地下生活者たちの暮らしが営まれつつ機関銃が製造されて戦車までができあがっていく。

映画も中盤に入ると20年以上時代が進んで冷戦下に突入。
政治的に大出世したマルコは、
「まだ第二次世界大戦が続いている」とクロをはじめとする“地下世界”の人たちをだまし続けるが、
マルコの女房の“裏切り”でバレてしまう。
建国の父とも言われるカリスマ大統領チトーの1980年の死後のユーゴスラヴィアと共振したかのように、
“地下世界”は崩壊してみんなバラバラになってしまう。

映画の終盤は90年代初頭。
もともと微妙なバランスの上で成り立っていた多民族国家が個々の民族の独立運動で崩れていき、
ユーゴスラヴィアという国がなくなっていく。
血で血を洗う民族紛争へと突入して渦巻いた当時の憎悪のメタファーみたいなシーンが続く。

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今回映画館での上映は15年ぶりとのことだが、最初の公開時にぼくも見ている。
この映画が完成した時点でも上映時でも旧ユーゴの民族間紛争は収束しておらず、
実際そういう状況がクストリッツァ監督に『アンダーグラウンド』を作らせた。
当時えらく政治色が強い映画という印象を持った。
あらためて見ても、
たとえばナチスの攻撃と第二次世界大戦中の連合国による空爆のリアル映像の挿入は
90年代前半の彼の地へのNATOによる空爆とダブって見える。
個々のシーンの背景を考えれば全体的にもセルビア人の見方(≠味方)で描いたように感じられる。
だがクストリッツァ監督は“ユーゴスラヴィア人”として“愛国者”だ。

確かに(旧)ユーゴスラビアのポリティカルな背景や民族関係を知っていると
より深く楽しむことができると同時に政治的な深読みもできるが、
予備知識がなくても間違いなくエキサイトできる映画である。

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ジョン・ゾーンとマイク・パットンの死闘セッションのように忙しい映画だ。
論理もヘッタクレもにないダイナミックな展開をする漫画みたいな
理屈なんて一切通用しない快活な磁場が圧倒的である。
何しろ悲劇から喜劇、今度は悲劇、また喜劇みたいに、
いつのまにか映画館内の空気が変わっているカオティックな展開も見事としか言いようがない。
tragedyとcomedyの万華鏡は
悲劇と喜劇が背中合わせであることを告げているかのようだ。

誤解を恐れずに言えば荒唐無稽な映画とも言える。
中途半端にふざけている映画は辟易するが、
『アンダーグラウンド』は全編にわたって針がレッド・ゾーンを振り切っている。
政治性を超越してナンセンスにすら思える娯楽大作として突き抜けた。
自由人クストリッツァ監督ならではだ。

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歴史の境目のシーンで実際のニュース・フィルムを適宜挿入してリアリティを高めているのもポイントで、
場面によっては映画の登場人物をちゃっかり“コラージュ”させて
政治を滑稽に演出しているように思えるシーンもある。
反体制のパルチザンが実はとんでないヤツだったり
大統領の側近になった人間が武器密売人だったりで、
政治に対する一種の風刺と見ることもできよう。

見ている人を唖然とさせたまま万事オッケー!にさせてしまう強引な映像力に加え、
出演者のキャラがみんな濃い。
セリフがある人物はもちろんのこと名も無き人物たちも濃い。
人間だけではなく登場する動物のキャラもあちこちで顔を出す必然性がわかるほど濃い。

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冷静に考えれば極悪極まりない“詐欺師”マルコもオチャメ極まりない。
人物の動き方もみんな妙におかしい。
女優役のナタリアも最初はお嬢さんかと思ったが、
いつのまにかお馬鹿になっていて(だからこそ愛らしい)、
本格的なダンス経験者に言わせれば“関節を外している”と見えるほどストレンジに踊りまくる。
ナタリアに関して言えば、
映画の鍵を握る曲として随所で聞こえてくる「リリー・マルレーン」の代表的な歌い手でもある
女優・歌手マレーネ・ディートリッヒとは対照的なキャラや姿勢で彼女を描いたようにも思えた。

出演者でもあるブラス・バンドのスピード感あふれる狂熱の演奏は
登場人物たちのエナジーそのものである。
民衆の声みたいな民族感情をも煽るツー・ビートのブラス爆裂サウンドに加えて、
ストリングスなどによる憂いの音楽で感情の機微が表されているところも見逃せない。
必ずしもイケイケなだけの映画ではないのだ。

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最後は“アレッ・・・・?????”と狐につままれたような気分になるかもしれないが、
時間軸をも自在にあやつるのがクストリッツァ監督の真骨頂である。
結局国家間も個人間も紛争を終結させるには“これ”しかないシンプルな言葉をフィナーレでクロがこぼし、
ラスト・シーンからは民族的な贖罪と和解の祈りも感じる。
『アンダーグラウンド』は分裂して亡くなった祖国ユーゴスラヴィアへの鎮魂歌、
それも底抜けに陽気なレクイエムと言える。

喜怒哀楽のデッドヒート、だが憎しみはない。
人間賛歌なのである。

ともあれDVDは廃盤とのことだし、
でかい空間で体感してこそアナーキーな体験が味わえる171分。
悪いこと言わない。
見られる方は見ておくことをオススメする。
これぞ映画!とあらためて思うのであった。


★映画『アンダーグラウンド』
1995年/フランス、ドイツ、ハンガリー/セルビア語、ドイツ語/カラー/ヴィスタ/2時間51分/ドルビーSRD/デジタル上映
9月24日(土)より、シアターN渋谷にて4週間限定ロードショー!
www.eiganokuni.com/ug


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コメント

ア、ア、アンダーグラウンド!!

まさかのレビューありがとうございます!
この映画は大好きでDVDも持ってます(サントラも)
高校生時代に友人にVHSを借りて観たときはよく分かりませんでしたが今ではベスト映画の中の一本です。
私にとって映画に必要な要素が全て注入されている凄く贅沢な映画です(偉そうでスイマセン)。
DVDが廃盤になってるなんて信じられないです。もっと沢山の人に観られるべき映画だと思います。

しかし映画館で観られたなんて羨ましいです。
レビュー読んでたらまたじっくり観たくなってきました。

Chumbaさん、書き込みありがとうございます。
サントラを持っている人も多いほど音楽も魅力的な映画ですね。「贅沢な映画」というのもうまい表現だと思います。
たぶんDVDなどだと繰り返したり戻ったりしても楽しめますから、ディテールの面白さも堪能できるでしょう。逆に言えばそういう映画だからこそ、観られる環境の人はデカいスクリーンで体験すると違った興奮アップでしょう。東京近郊在住であればこの機会に映画館で見られることをお勧めします。

ほんの一握りの傑作!

レビューありがとうございます。
アンダーグラウンドは数ある映画の中でも本当に大好きな映画の一つです。個人的に映画史上指折りの傑作だと思います。
東欧映画は他にもいい作品多いですよね。ユリシーズの瞳、ノーマンズランドetc…
でも、クストリッツア作品はそれ以上に好きです。この監督の作風はエゴイズムや毒を含んでいるので、それが受け入れ難い方も結構いると思います。私は逆にそれが壺にはまってしまったのですが…
日本語字幕のDVDも所有しています。只身近な人となかなか語り合える作品ではないような気もします。
320分のディレクターズカット版もあるみたいですね。只DVDやブルーレイの商品としては出回っていないみたいですが…
いつか見てみたいものです。
レビュー全体を拝見して、共感出来る点が多数ありました。今月渋谷の劇場でデジタルリマスター版が鑑賞出来る方が羨ましいです。私は都合が悪く、劇場まで足を運べそうにありません。残念です。

kazusuuさん、書き込みありがとうございます。
日本でも公開済みで有名な映画だからあらためて長い文章を書くのもどうかと思いましたが、書いてよかったです。
確かに身近な人となかなか語り合えない映画かもしれませんが、語ろうと思えばどんどん言葉が出てきます。幾重もの“仕掛け”や思惑を込めている映画ですからね。
昔ぼくも見たとき紛争がまだ結構激しかったので(今も終わったわけじゃないですが)、政治的な苦い後味が残った記憶がありましたが、そういう“毒”も監督としては計算済みだったのではないかと。単なる反戦映画でも享楽映画でもなく、おおざっぱに言うと両方ミックスして成功しているみたいな映画ですが、善悪とかの二元論をはなっから相手にしてないみたいで。人間の醜さも描いていて。アクが強いです・・・・音楽もそうですがアクがないと面白くないです。
「ノーマンズランド」も見ました。ある意味あれは「アンダーグラウンド」以上に後味が苦かった記憶があります。ボスニア問題は関心が強いので関連映画も見た感じです。
ディレクターズカット版DVDも発売されるといいですね。このブログで紹介する映画は東京のみの公開のものも多いのですが、今回の「アンダーグラウンド」の公開の拡大、関係者に話してみます。

映画のすべてがある!!

それまで一番好きな映画を選べなかった私が、この「アンダーグラウンド」に出会った瞬間に最高傑作だと決定してしまいました。
映画でしか表現し得ない世界。映像・音楽・ストーリー…そして何より躍動的で魅力的な登場人物。もの言わぬ動物でさえ素晴らしい!!
クストリッツア監督の作品はどれもいいけど「アンダーグラウンド」は別格です。奇跡のような映画。
とりわけ私は監督の作品に登場するヒロインが大好きです♪
監督は女性崇拝者だな~って思えるほど、誰も魅力的!で美しい。女性としての憧れです。
でも、やっぱりクストリッツア監督はパンクだな~(笑)

見事な解説に出会って、またDVDが観たくなりました。

lovelynnさん、書き込みありがとうございます。
「映画でしか表現し得ない世界」「何より躍動的で魅力的な登場人物」「もの言わぬ動物でさえ素晴らしい!!」 というlovelynnさんの着眼点も素晴らしいです。長時間の映画は無駄を感じさせる場面なども多かったしますが、すべてのシーンや人物・動物・事物が必然な映画ですね。
この映画のヒロインも魅力的ですよね。最初とは別人みたいに、周りに感化されたかのようにどんどんブッ飛んで踊りまくって、かわいいです。
クストリッツア監督はSEX PISTOLS的なプリミティヴなパンクですね・・・というかそのマネージャーだったマルコム・マクラレンみたいなセンスも感じます。策士とは言いませんが、過剰で一言も二言も多いところも。この映画も素材は重いのにエンタテインメントにもなっていますし。
ぼくは持っていませんが、DVDだと細かくディテールをじっくり楽しめるよさがありますね。今日から始まる渋谷以外でも上映が決まっているようですので、近場でしたらまたスクリーンで見ると新たな発見と感動があるかもしれませんね。

はじめまして♪
すごいとしか言いようのない映画。狂乱と猥雑さと喧騒でユーゴを走り抜け強烈極まりない。ブラスバンドの騒々しい音楽が耳から離れません。ヤミツキになります。

シーランカスさん、書き込みありがとうございます。
「狂乱と猥雑さと喧騒でユーゴを走り抜け」・・・まさに!の言い回しですね。中毒性があります。ほんと映画を見る喜びを味わえますね。
映画館で見るとライヴ感が強い映画ですし。おかげさまで勢い止まらなくて、今月5日から東京でもまた回数が増えて1日2回上映になるようです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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