なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ゴモラ』

メイン

“『ゴッドファーザー』meets『シティ・オブ・ゴッド』”とも評される、
1968年にローマで生まれたマッテオ・ガッローネ監督の2008年の映画。
イタリアのナポリをメインに活動するヴァイオレントな犯罪/企業集団でマフィアを凌駕すると言われる、
“カモッラ(Camorra)”をテーマにしている。

むろん特撮テレビ番組『ウルトラマン』シリーズに登場したゴモラとは無関係。
もっともその怪獣の元ネタは本作と一緒かもしれない。
この映画の原題は『Gomorra』だが、
旧約聖書で“ソドム”とセットで言及される悪徳都市の“ゴモラ(Gomorrah)”になぞらえている。
ニュースクール・ハードコア・バンドEARTH CRISISの強烈な義憤ステイトメントの代表曲、
「Gomorrah's Season Ends.」もあまりにハマりすぎの映画だ。
事実、この映画のベースになったノンフィクション小説『死都ゴモラ』の著者で本作の脚本にも関わった、
ロベルト・サヴィアーノは“カモッラ”から狙われているから24時間警察の保護下にあるという。
愛も人権もヘッタクレもない。
だが美学にする感じるほど硬質に研ぎ澄まされているからこそ逆に、
計算高いやさしさを突き抜けた“確信”と“核心”が見る者の心臓に撃ち込まれる。

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主人公にあたる人物は特定できない。
というのも5つの物語で構成されているからだ。
カモッラに憧れて肝試しの“儀式”を経て組織に食い込んだ小学生にも見える“男の子”たちの物語。
カモッラ組織のメンバーや遺族に給料などを届けるのが主な仕事の組織の帳簿係の物語。
カモッラ関連の産業廃棄物会社のトップとそこに就職した大学新卒者の物語。
カモッラ組織が仕切る高級オートクチュール会社の下請け工場で仕事をする仕立て職人の物語。
カモッラの組織の縄張りを荒らす二十歳弱に見える怖いもの知らずの無邪気な男子二人の物語。

同時進行で起こっていることを示すためか場面が入れ替わっていく。
そのためシーンが変わるたびに頭の切り替えが必要だが、
つながって見えるのは同じ地での同時時代の出来事だから当然だろう。
非情なカモッラと交わっていく中で、
それぞれが“自分自身”に向き合って進む方向を決断していく人間ドラマと言える。
むろん不条理な殺害行為も頻発するが、
各物語の“主人公”の様々な結末からは制作者のメッセージも読み取れよう。

刑務所のアマチュア劇団員も抜擢し、
撮影現場でスカウトした人物にも出演してもらっているらしいが、
“リアル犯罪者”は見ていて明らかにオーラが違うから“コイツだ…”と勝手にわかった気分になる。
遠近も活かした様々アングルからの撮影と
適度に陰った映像が生々しさを醸し出しているのも功を奏し、
他のシーンもドキュメンタリー映画みたいなのである。

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カモッラは
本作でも言及されている違法ドラッグ、武器密輸、上納金の徴収、産業廃棄物事業の独占の他に
様々な一般事業にも手を伸ばし、
様々な堅気の職業の人を構成員にし、
そうして稼いだ金を違法行為中心に再投資しているという。
イタリアのみならず世界の経済の“裏”と“表”で暗躍し、
ニューヨーク・シティのツイン・タワー再建の株式も買っているらしい。
映画の中ではカモッラが生まれた背景や構成員の貧富などの生活状況には特に言及してない。
ただ歌の意味合いと違うとはいえポール・ウェラー(元JAM)のSTYLE COUNCILの曲名を引用すれば、
まさに“money go around”。
金は巡回する。
親とかに寄生しない限り人は金を稼がなければ生きていけない。
だがカモッラは親にたかる代わりに様々な人の“生活欲”の心のすきまにたかる。

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カモッラの組織はタイト極まりない。
だらしない“仕事”をしていれば、
口を割らせる警察が捕らえるより早く抗争相手の組織に殺られる。
“身内”も黙っていない。
組織間での対立以上に深刻だ。
非情な指令は中に組み込まれてしまった以上は拒めない。
大人しく従って“余計なこと”をしなければ身の安全は保たれる。
だが裏切り者とみなされれば銃弾が待っている。
映画から察するに情状酌量の余地を認めるケースもあると推測できるが、
悪気がなかろうが邪魔者とみなした人間にも容赦しない。

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ハードコアな映画である。
NEGATIVE APPROACHの「Friends Of No One」やAGNOSTIC FRONTの「Friend Or Foe」の世界。
すべては“敵か味方か”。
血も涙もない。
いや血は流れても涙はない。
SICK OF IT ALLのアルバム・タイトルと曲名の“Blood Sweat, No Tears”というフレーズが似合う。
いやカモッラの行為が粘着極まりないとはいえクール&ドライな空気感の映像も含めて
“sweat(汗)”の匂いはしない。
冷ややかだ。
映像も徹底的にハードボイルド。
メインの舞台になっている荒涼としたコンクリートの集合住宅のフォルムがそれに拍車を掛ける。

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派手な撃ち合いが売りの映画ではない。
殺しがあっても、
ある種のホラー映画のようなジェットコースターの展開はない。
むしろ恐ろしく淡々としている。
感情を徹底的に削ぎ落としている。
それだけに突然鳴る銃の音に背筋が凍る。
抗争シーンも含まれているが、
そうでない個人の“突然死”がショッキング。
心臓が止まるなんてことを1秒前まで考えずに日常を送っていた人にも銃弾の死神が急襲する。
ネチネチいたぶるになんて“ドラマ”は時間の無駄。
一発必殺で合理的に苦しませないで息を引き取らせるのがカモッラの唯一の情けである。

サブ2

不要な物音や話声は結果的におのれの命を奪いかねないから粛々と事は執り行なわれる。
声を荒げるシーンも多少あるが、
ほとんどの出演者が無駄口叩かず大都会の喧騒といったシチュエーションはほとんどないだけに
驚くほど静かな映画だ。
ひっそりとしているだけに
ひとたび音楽が流れてくるとかなり目立つ。
イタリア文学研究者の堤康徳執筆のプレス向けの資料によれば、
90年代からナポリで流行り始めた甘く感傷的な旋律で
ローカルな日常生活を題材とする歌詞がカモッラの世界を肯定する内容のことも多いという、
“ネオメロディカ”と呼ばれるカンツォーネが数曲使われているらしい。
ホット&クールなイタリア語の“大衆歌謡曲”は不思議と荒涼として気分を高めもする。
他にも様々な音楽が挿入され、
仕立て職人がカモッラの目を盗んで中国人と“密会”して乾杯するシーンではテレサ・テンの歌声も。
最後の最後は、
山の噴火で埋没した古代ローマの町のエルコラーノを描いたMASSIVE ATTACKの「Herculaneum」である。

サブ1

カモッラが現れたのは昨日今日のことではない。
だが“淫行”を含めて女関係と金にまつわるスキャンダルが絶えず、
しかも自分は免罪できるように仕向ける“特権法”成立を試みるなど“無法”やりたい放題の一方で、
放言を娯楽化する“芸達者”ぶりが庶民から支持を集めているのか90年代から長く政権の座に就く、
成り上がり富豪ベルルスコーニ首相のお膝元の映画ということを考えるとまた興味深い。


冷厳なる佳作である。


★映画『ゴモラ』
2008年/イタリア/2時間15分
10月29(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショー。
11月から全国各地でロードショー。
http://www.eiganokuni.com/gomorra/
配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム


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コメント

やっと観ることが出来ました。ブログで知って以来ずっと気になっていましたが、(レンタルですが)じっくり観させて頂きました。これまでのマフィア/ギャング映画とは異なっていて、すごくヴァイオレントなんですがすごく静かでしかもリアルでした。ゴッドファザー等のギャング映画は自分達とはまったく住む世界が違う決して覗くことの出来ない世界ですが『ゴモラ』での世界はもちろん実際は違いますがすごく身近に感じられました。リアルな映像とあの淡々とした演出がそう感じさせるのでしょうか。とても刺激的で色んな問題を考えさせられる映画でした。
何年も前に読んだマフィアを題材にした本での関係者インタビューで『私の息子は今年大学を卒業し、いわゆる一流の企業に就職できたが、その企業はマフィアの会社かもしれない。それは誰にも分からない。それくらい社会や政治の深部まで広大なネットワークが張り巡らされている。』(うろ覚えすみません)みたいことが書いてあったのを思い出しました。これからもブログ楽しみにしてます。

chumbaさん、書き込みありがとうございます。
ずっと気になっていたこと自体もうれしいですが、見ていただいてさらにうれしいです。
そうなんです。殺しはあっても、落ち着いているのが逆にリアルで怖いです。実際、ドンパチみたいな場面は戦場でもない限り(最近の戦場はそうでもないかもしれませんが)ほとんど起こりえないわけで。淡々としているところが派手なギャングものとは違いますね。アメリカ映画とも違うところかもしれません。ヨーロッパ映画特有の静かな奥深さがあります。
日本でもそういう部分が少なからずあったりするみたいですが、イタリアはかなり根深いようですね。いわゆるマフィアとの違いも何となくわかります。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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