なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『君へ。』

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幼稚園の頃からの幼馴染が中学二年のときに“失踪”した
主役男子の大学院生時代を桐山漣が演じる2011年の日本映画。
監督は『ラブキルキル』(2004年)でデビューした64年生まれの西村晋也で、
撮影は若松孝二監督の最新作『キャタピラー』などで注目されている77年生まれの戸田義久である。
脚本と映像と音声のトータルで日本ならではの情趣が染みわたってくる映画だ。

たくさんの人物が登場するが、
本間晃治という男子と
蓮田小夜子という女子に加えて、
蓮田謙一という小夜子の父親も触媒になって物語は展開される。
晃治が8歳の頃、
中学生の頃、
大学院の頃の3つに時代が分かれており、
晃治と小夜子は時期によって俳優が異なる作りだ。

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小夜子が8歳のときに母親が病気で入院することになり、
元気づけるため晃治は小夜子と一緒に蛍を探すべく夜更けに山中へと向かう。
ふもとでは“行方不明になった!”と大騒ぎになって捜索に向かうも、
二人はたくさんの蛍を捕まえて戻ってくる。

中学生になって二人の間には本格的な恋心が芽生え、
クラスメイトに内緒で酸っぱくもプラトニックな純愛が育まれていく。
そんな中で迫る晃治の誕生日はどうしようかと思案している中、
小夜子が“行方不明になった!”と教室内が騒然となる。
学校では冷静さを装いつつ放課後に晃治は小夜子を探すべく山中へと出向く。

そこまでが映画の中間地点。
『君へ。』のオフィシャル・サイトにも以降のストーリーが書かれているとはいえ、
ぼくはあえてここで続きに触れない。
これ以上物語に細かく言及すると
映画のデリケイトなヒダが傷つきそうで怖い。
ぼくにとってはそういう作品である。

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桐山は初主演のテレビドラマ『仮面ライダーW』(2009年)と同時期の撮影だったらしいが、
大学院生時代の晃治役で終盤を締め、
小学生時代役の杉山翔哉も中学生時代役の栗田将輝も秀才の晃治をまっすぐな目で演じている。
一方の小夜子は、
小学生時代役の松岡日菜と中学生時代役の瓜生美咲でピュア極まりない少女を演じている。
みんな好演だが、
特に映画の中でポイントになっている中学時代を演じた二人は
純すぎて目がくらむほど素晴らしい。
小夜子の父親の蓮田謙一役である戸田昌宏も、
映画のキーパーソンならではの葛藤に満ちた大人の男性を表現している。

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むろんストーリーにも惹かれるのだが、
日本ものにも多い会話とエキセントリックな展開に頼る映画とは完全に一線を画す。
最初から最後まで静謐なほど落ち着いている。
特筆すべきは、
おくゆかしい音響処理と
大胆な映像力である。

いわゆる音楽の使用はかなり抑え目で、
数箇所で聞こえてくる現代音楽風のピアノの独演と、
文菜が歌うエンディングの主題歌「君へ。」だけ。
でも、これだけ自然の音がナチュラルかつ効果的に使われている映画はそうそうない。

山の音。
川の音。
風の音。
風鈴の音。
“おもいで”を焼く音。
単線を電車が走る音。
8ミリ・フィルムが回る音。
ざわめき、囁き、轟き・・・すべて命の宿った“声”に聞こえる。
音がもちえる静かなる“ちから”におののくばかりだ。
自然界の音が旋律とリズムを編んで“音楽”になっている。

まったりした詩情で終わらない映像も強力である。
信濃川田駅周辺を中心とした長野県がメインの舞台。
いわゆる村落のイメージにも近い山に囲まれた地方の町で、
「初めて汲み取り式便所に入った」という桐山の撮影中のエピソードが象徴するような場所である。
晃治が進学を機に“逃げた”東京時代は別として、
長野県内の撮影では商業施設の類いが一切映らない。
木々の緑に圧倒され、
昔ながらの家屋にも“歌ごころ”を感じる。

近景と遠景を絶妙に組み合わせてアングルも微妙に色々と考慮し、
晃治と小夜子の“心の距離感”も上手に捉えている。
二人が手をつなぐシーンは見ているこっちもドキドキしてきた。
暗がりを活かした陰影もポイントで、
薄暮や山中での映像の奥行きにヤられる。
だからこそ映画の“影の主役”になっている蛍は、
“心の灯火”になっている。

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「この前の震災でもそうだと思うんですが(中略)、
生きているのか死んでいるのかもわからない状況はすごく辛いと思うし(中略)。
人との別れ方って、例えば恋人と別れる時にしても(後略)。」
という桐山の撮影後の言葉が響く。
津波や拉致を含めて世界中のあちこちで起こってきている“消息不明”に思いをはせるが、
日常の人間関係とも接点が大きい作品である。
“ロハスな映画”とも次元が異なるナマの人間の感情が描かれているが、
誰もが自分自身を省みている。
まるで光合成するかのように人間のエゴを山の緑が吸収している映画だ。

陳腐な言い方を許してもらえるならば、
ほんと心が洗われる・・・・いや浄化される。
“中二病”という言葉があるが、
いつまでも大切にしたいものはあると思わされる佳作だ。


★映画『君へ。』
92分
東京・オーディトリウム渋谷にてモーニングショー公開中(10月21日[金]まで)。
大阪・第七藝術劇場で10月15日(土)から。
さらに10月29日(土)から各地で拡大公開。
http://www.kimie-movie.com/
©2011「君へ。」製作委員会


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コメント

行川さん、営業大変ですね。

PUNX NOT DEADさん、書き込みありがとうございます。
実際は見ても半分ぐらいの映画はイマイチに思って紹介もしてないですね。書くのは時間も労力も要するので。
音楽も含めて素晴らしい表現はあちこちに存在していることも示したい感じが強いです。埋もれているのは悲しいので。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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