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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

ANAL CUNT『The Old Testament 1988 - 1991』

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その名が猥褻すぎて時に“AxCx”“A.C.”とも略される、
“憎悪将軍”セス・パッナム(vo他)が率いたボストン拠点のバンドの初期音源集。


7”EPやオムニバス盤で発表した音源にレアなデモやライヴを加えた2枚組CDで、
ディスク1が約77分13トラック入り、
ディスク2が約59分13トラック入りだ。
“セッション”ごとにトラック・ナンバーを付けているが、
単独作の7”EPはA面とB面とでトラックを分けている。
ただし正確な曲数はカウント不可能。
イタリアのS.O.A. Recordsが出したオムニバスLP『Master Of Noise』に
音源を提供した際に“曲名”として使った秀逸なフレーズの“C(O)UNTLESS SONGS”状態だからだ
(“MASTER OF NOISE”がスプリット盤の相方バンドみたいな表記の日本仕様版の和訳は間違い)。
似たようなセレクションの編集盤CDも過去に数種類リリースされてきたが、
本作は未発表トラックも6つ収めたトータル約136分のノイズ・グラインド地獄なのである。

“ノイズ・グラインド”と呼ばれていた時代の音源だ。
インプロヴィゼイションのグラインド・コアがほとんどである。
特に91年録音の名7”EP『Unplugged EP』『Live EP』は格別。
前者は珍妙なアコースティック・ノイズ・グラインド、
後者は初のライヴ音源リリースだったから当時一部で話題になった壮絶なライヴ・テイクである。
ライナーの日本仕様版の和訳には
このCDのトラック4~7がそのオリジナル7”EPには含まれてないように書かれているが、
実際はトラック4~7の“ボーナス・トラック”がオリジナル7”EPに含まれてないという意味だろう。

ヴァラエティに富み始めたファースト・アルバム『Everyone Should Be Killed』(93年)以前の
スタイルの時代の音源が核のCDである。
いや意識的に非即興の曲もやるようになって曲名も付け始めたのは『Everyone~』からではなく、
本作同様にRELAPSE RecordsからのリリースされたEP『Morbid Florist』(93年)が最初だった。
今回蔵出しした曲名付の91年未発表セッションは『Morbid Florist』以降の原型で、
“産まれたばかりの赤ん坊の叫び”の如き見事な原始的ソングライティングが堪能できる。

実際は真に初期衝動オンリーだった極初期の時点から
インプロヴィゼイション・オンリーというわけではなかった。
デビュー・レコードの『88 Songs EP』(89年)で後にアルバムに収める“曲”の原型を既にやっている。
もともとNEGATIVE APPROACHや初期ボストン・ハードコアみたいな
ストロング・スタイルのハードコア・パンクと、
BATHORYのような初期ブラック・メタルが、
逆噴射したゲイ・スピリットで“fast(not fist)ファック”したようなサウンドがANAL CUNTの基本。
何しろ『Another EP』(90年)では
後にロゴでオマージュするJUDAS PRIESTのフレーズを早くも挿入しているのであった。

デタラメ即興のようでそんなことない。
音作りも録音の方法やシチュエーション、バンドのコンディションが異なっているから、
全部同じようでトラックごとに全部違う。
すべてが本気。
だからANAL CUNTに言い訳はない。
音楽的にも高度なことをやっているが、
真剣すぎたからこそファニーにねじれた憎悪の加速がすべてだったと再認識させられる。


結果的にセスの追悼盤みたいになったが、
もともとリリースを予定していたもののようである。
死を予感していたかのように昨年6月に亡くなる3日前にセスが書いた長文ライナーが付いている。
SEVEN MINUTES OF NAUSEA、MEATSHITS、PSYCHOといった
本作にも音源を収めたスプリット7”EPを作った当時の盟友バンドたちの話はほとんど出てこないが、
トラックごとに愉快なエピソード満載だ。

“憎まれっ子、世にはばかる”という言葉どおりにはならなかったセス・パットナム。
いやセスは世界中で愛されたから長生きできなかったのかもしれない。
ぼくにとってもANAL CUNTはとても大切なバンドで言いたいことが無限大だから、
いつか機会をあらためてじっくり書いてみたい。


★アナル・カント『ジ・オールド・テスタメント』(リラプス・ジャパン YSCY-1233)2CD
日本仕様版は16ページのブックレットに載ったライナーの和訳付。


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コメント

正に似たような編集盤を持ってるので一瞬躊躇いましたが、セス直筆のライナーが付くなら改めて入手しようと思いました。
それにしても惜しい人物を亡くしましたよね…

改めて何か書かれるのであれば期待させてもらおうと思います。

eristさん、書き込みありがとうございます。
セルフ・ライナーにも書かれていますが、90年代初頭から数えると数度目の“お色直し”の初期音源集と言えそうです。単なる色物とは違う奇才でしたね。

ベスト盤の中でも本当にベストなものを残して逝ってしまいましたね。努力してた人に天才っていう言葉は失礼かもしれませんね。とにかく才能はハンパじゃなかったですね。初めて聴いたのは、SLAP A HAMからの今では有名なシングルコンピに収録の8 SONGS(5 SONGSだったかな)でした。あっという間に終わって次のバンドになりましたけど、そのカッコ良さには驚きました。また、かなり頭の良い人だなって思いましたね。今回、セスの解説で1番面白かったのは「アンプラグド EP」です。ぼくは英文でしか読んでませんが最高の裏話でした。ホント、真剣っていう言葉は間違ってないです。行川さんのACに関する文章、楽しみにしています。

かくさん、書き込みありがとうございます。
セスは確かに色々な面で努力していたと思いますし、色々な面でのセンスも素晴らしかったです。80年代後半のバンド編成のときのGEROGERIGEGEGEからの影響も感じられましたが、曲名の付け方一つにしてもタダモノじゃない。そういう点も含めてエンタテイナーでもあったかなと。歌詞を公開するようになってからの後期は、敵を作りまくる言葉の数々からも何か読み取れたりします。
音楽的なバックグラウンドも、シリアスなものからバカなものまでユニークで、そういう切り口や物の見方でもぼくは影響を受けました。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

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