なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『刑事ベラミー』

刑事ベラミー メイン


ソクーロフも映画化した『ボヴァリー夫人』でも知られるクロード・シャブロル監督が、
『引き裂かれた女』に続いて制作して遺作になった2009年の映画。
“映画の國 名作選Ⅴ フランス映画 未公開傑作選”の一つとして上映される。


おもしろい。
とにかく面白い。
喜怒哀楽の感情を超えた趣にゆっくりと麻痺していく。
ストレンジな味わいで風流があり、
それでいて滑稽ですらある。
考えさせもする。
サスペンスでもあるから物語はスリリングだが、
まったりしていて優雅なのはフランス映画の真髄。
ドロドロした人間関係をはらんでいるにもかかわらず重く見せない術に持っていかれる。
むろん映画にしろ音楽にしろ重々しくディープな作品が簡単に作れるとは思わないが、
こういうさりげなくディープな作品には舌打ちと舌鼓が止まらない。

刑事ベラミー サブ3

主演は70年代以降のフランスを代表する男優ジェラール・ドパルデューで
実際に起こった保険金詐欺事件を基に作られている。
ベラミー警視の他の主な出演者は、
犯人の疑いのある男、
その妻と愛人。
ホームレスの男と
その女友達。
そして
ベラミーの妻、
ベラミーと異母兄弟の弟のジャック。

謎解きや物語性もポイントの映画の性格上ネタバレを避けるため、
ストーリーを書くことは自粛させていただく。
でも犯人探しに終始することなく、
様々な要素が絡み合ってしっかりした脚本をふくらませている。
だからこそ映画ならではのデリケイトで深い表現になっているのだ。

刑事ベラミー サブ2

すべてでシャブロル映画ならではの心理描写と意識の流れを演出する。

青い海と空が恨めしい墓地そばの海岸とその砂浜に転がった真っ黒こげの自動車と焼死体で始まり、
まるで輪廻のように終わる。
本作の淡い映像美を象徴するような色合いのシーンだが、
いわゆるカメラの長回しや風景の映像は他にあまりない。
カメラは人物を細かく捉える。
何しろ適度によく動くカメラと思い切りのいいカット割りでテンポがいい。
激しくはないがリズムがある。
やっぱり作品全体が律動している映画は見ていて気持ちがいい。
頭を切り替えられる場面転換と場面展開にホント目が離せない。

俳優陣の好演ぶりも際立っている。
熱くなりすぎずにさらりとしている。
だがみんな人間臭い。
名優ジェラール・ドパルデューで一本を作ることが前提だったという映画だけに、
ベラミーを演じた彼が時に甘えん坊の顔を見せつつ恰幅のいい貫禄を見せる。
特にマリー・ビュネルが演じる奥さんとベラミーとの愛のやり取りはジェラシーを覚えるほどたまらない。
ベラミーは
さりげないエロチックな佇まいの表現を得意とするシャブロル監督の分身でもあるようで、
熟年カップルならではと言える日常の中の“夫婦生活”が微笑ましくてなごめる。
人が死んでいて殺伐ともしかねないし人間関係の確執が起こっているにもかかわらず、
ネガティヴ・フィーリングをとろけさせているのである。

刑事ベラミー サブ1

いちばん激しい確執の火花はベラミーと義弟ジャックの間に発生する。
怪しいことで金儲けをしようとしてマトモや仕事に就かない前科者のジャックは
ベラミーの家に入り浸る。
腹違いとはいえ兄弟は兄弟だが、
「兄弟が憎みあうのは歴史の定番」というセリフも妙にリアルだ。
ジャックの目は終始ブラック・メタルな冷気の憎悪に満ちており、
二人の間の疑心暗鬼は様々な人間模様を描く本作の肝である。

機知に富むセンスのセリフにも舌を巻くばかりだ。
名言が連発されるし、
脇の下をかするような感覚で笑い声が出ない微妙なユーモアも連続する。
ベッドの上にいる気分にさせるエロチックな響きのフランス語も映画全体の妖しさに拍車をかけ、
そういったテイストを活かすべく字幕を担当された方も旨い日本語を使われている。
フランスの反骨シャンソン・シンガーのジョルジュ・ブラッサンスの曲も引用し、
監督の最初の妻との息子マチュー・シャブロルの作曲によるゆったりとしたエレガントな音楽も、
昔の欧州映画を思わせる格調の高いムードを醸し出している。


見終わった後すぐに席を立てなかった。
何考えてるんだかわからないフランスならではの個人主義が匂い立ってめまいがしたからに違いない。
何を言いたい映画なんだ?なんて知ったこっちゃない。
それも映画ならではの魔力。
ただ唖然としながら静かなる余韻にいつまでも浸りたい佳作である。


★映画『刑事ベラミー』
2009年/110分/カラー
© Moune Jamet
“映画の國 名作選Ⅴ フランス映画未公開傑作選”
『刑事ベラミー』『ある秘密』『三重スパイ』
4月21日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて限定ロードショー後、全国順次公開。
http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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