なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ある秘密』

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シャルロット・ゲンズブール主演の『なまいきシャルロット』(85年)などで知られる、
クロード・ミレール監督の2007年の映画。
自閉症や精神病の児童の臨床医が本職のフィリップ・クランベールによる自伝的同名小説の映画化だが、
1942年生まれのユダヤ系のミレール監督が自身の実体験もダブらせてリアリティの濃度を高め、
フランス映画ならではの芳醇な香りの中に苦渋の色が滲む深遠な佳作である。

ナチ問題と家族、悲劇とロマンス、女と男、過去と現在、肉体派と虚弱性、愛欲と非情、
といったコントラストが、
時空と人の間を移り行く“映画の魔法”でシリアスに意識を揺さぶる。
妖艶な映像と不条理な展開の甘美なブレンドのケミストリーで張りつめ、
心理のヒダに舌を滑らせて観る者を翻弄してとろけさせるのだ。


例によってネタバレを避けるためストーリーは大筋だけを書く。

少年時代のフランソワは虚弱なひとりっ子。
父親のマキシムは体を鍛えることが好きで、
母親のタニアもモデル出身の競泳チャンピオンで高飛び込み競技の現役という“健康体”。
運動が苦手なフランソワはいつしかスポーツマンの“兄“を欲して妄想が膨らむが、
実際に“兄”が存在した。
両親と同年代ながらフランソワにとって“親友”の女性のルイズに色々と過去の話を教えてもらい、
父親のマキシムがタニアの前に別の女性のアンナと結婚して一人息子のシモンを儲けていたことを知るのだ。

ある秘密 サブ2

そこから物語は10年以上さかのぼる。
1940年代にはフランスにもナチスの勢力が迫っていた。
マキシムとアンナはユダヤ人で、
家族や周囲の人間からユダヤ人としての誇りを持つように責められて葛藤。
そんな状況下にもかかわらずダンナのマキシムは二人の結婚式で知り合ったタニアに惹かれていき、
アンナの動揺は加速。
そんな中でマキシムらは
じわじわ包囲していくナチスの魔の手から逃げるために田舎へと向かう。
自然に囲まれて“動物本能”が点火されたような日々を送るも、
まるで古今東西すべての人間がしあわせになることはありえないかのごとく
“final solutionのレール”が敷かれていた。


ただ物語を展開させるだけに留まらずに脚本の深みをささやかにふくらませる、
映画だからこそ成しえる“多重性の作り”が何しろ素晴らしい。
大人の格調で意識の推移や感情の揺れと交錯を静かに描く。
激しい動きで見せる映画とは対極だが、
実はゆっくりと動きで魅せる映画である。

主に1985年、1950年代、1930~1940年代の3つの時代で映画が進行する。
1985年は父親になったフランソワと祖父になったマキシム、
1950年代が子供の頃のフランソワと父母のマキシム/タニア、
1930~1940年代がマキシムとアンナとその二人の息子のシモン、
が主な登場人物。
1950年代と1930~1940年代のシーンが中心だ。

一部例外はあるが、
1985年がモノクロ、1950年代がややセピアがかった色、1940年代がカラーという具合に
一般的なイメージと逆の色合いの映像になっている。
過去が一番鮮やかな色彩というのも、
マキシムがアンナと行なった最初の結婚式のシーンに象徴されるように
みんなホロコースト以前が一番輝いていたという暗示にも映る。
時系列ではなく3つの時代が適度に前後する場面構成になっているが、
それも一人一人の中で時代を超えて逆流する感情の静かなる横溢に他ならない。

カメラが切り替わるタイミングも実に刺激的である。
極端な一例を出すと、
あわただしくセックスを始めるシーンからいきなり出産のシーンに“10ヶ月ワープ!”するのだ。
一つのシーンの中での切り替わりもゆっくりとリズミカルで絶妙だから、
ぼくは一人一人の揺れ動く心理と共振していった。

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人物のアップの映像が多いのも特筆したい。
大半の人物が冷静沈着だからこそ、
目や口の動き一つ一つに吸い寄せられていくうちに不可解な行動の裏の気持ちの震えが伝わってくる。
と同時に人物のボディを意識したカメラ・ワークにも気づかされる。
そこにはエロチックな意味も含むが、
肉の張った健康美と貧弱な肉体とのコントラストをさりげなく見せる。
ヒトラーがスポーツを利用していて健康体を重視していたことと、
フランソワが運動音痴の子供であるのに対して彼の両親や“義兄”のシモンが健康優良児ということで、
様々な葛藤も密かに聞こえてくる。
ナチスだけに留まらず健康体を重視する健常な肉体信奉や弱肉強食思考への批評と、
贅を削いだ身体の問答無用の訴求力や端整な肉体美、ストロングな自立性への憧憬との間で揺れる、
アンビバレントな思いも浮かび上がってくる。

色々と関連づけているように思える緻密な作りだ。
その健康体や肉体美を代表する人物が、
ナチスが迫り来るスピード以上の加速度で愛を交わらせたフランソワの父母のマキシムとタニアというのも、
やはり象徴的である。
二人のシーンに太陽の下で“水浴”や緑のシーンが多いのも両者の健康的なイメージを際立たせ、
対照的な“ダーク・サイドの悲劇”を静かにあぶり出している。
まったりしたムードでありながらも緊張感が途切れない。
落ち着いていてエレガントな
おくゆかしい音楽と1950年代と1940年代のファッションも含めて、
全体を覆う研ぎ澄まされた空気感に飲み込まれていく。

ホロコーストのドキュメンタリー映画を校内で見ている最中にユダヤ人を馬鹿にする発言を学友に対し、
フランソワが激怒してケンカをする場面がある。
だが他に暴力的なシーンがほとんどない。
あまり攻撃的に聞こえないフランス語の響きも一役買い、
映像や進行からも漂う詩情が逆にナチスの残虐性を浮き彫りにしている。

1940年代のシーンで新聞やニュース映画を挟み込んでナチスの勢力拡大の様子を映し出す中、
そういう政治の問題とは関係なく“生存本能”に支配された女と男は惹かれ合う。
その恐ろしくもナチュラルなギャップが本作の肝だ。
いつの時代もどこでもそういうことは現在進行形である。
なぜなら世界はいつでも非常時だから。
情報が伝播しかったこの当時そもそも二人はホロコーストなんて詳しくは知らなかったから、
お互いに夫も妻もいながら消息も判然としない中で粘膜をすりあわせる。
派手なファックのシーンはないが、
適度に入るラヴシーンは信じられないほどエロチックである。
執拗ではなくほとんどが簡潔な見せ方にもかかわらず濃厚なのは、
めまいがするほどの淡い性臭が漂う熱演によるものだ。

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息を呑む俳優陣を抜粋すると、
まず一番登場シーンが多いマキシム役には歌手でもあるパトリック・ブリュエル。
タニア役は
クリント・イーストウッド監督の『ヒアアフター』で注目を集めたセシル・ドゥ・フランスで、
ストロングかつシャープかつ包容力に富む女性を演じて惹かれる。
アンナ役は
クロード・シャブロル監督の映画『引き裂かれた女』での小悪魔ぶりも記憶に新しいリュディヴィーヌ・サニエで、
これまたまた違った男心をくすぐり愛らしくエッチなこと大好きな女性を演じて惹かれる。
映画のパンフレットのコメントから引用させていただくと、
<“大きな茎”のタイプの女性と“小さなリンゴ”のタイプの女性>という具合に、
女性の描き方がジェラシーを覚えるほど痺れる。


ゆっくりと映像が鼻を突き匂いが目に染みる。
甘く酸っぱく後ろめたく苦い気持ちで善悪の彼岸の後味に浸ったまま席をしばらく立てない映画だ。


★映画『ある秘密』
2007年/110分/カラー/フランス語題『Un Secret』/英語題『A Secret』
©Thierry Valletoux
“映画の國 名作選Ⅴ フランス映画未公開傑作選”
『刑事ベラミー』『ある秘密』『三重スパイ』
4月21日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて3作品同時公開。
公式サイト http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/


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コメント

最近このブログにシャルロット・ゲンズブールがよく登場して嬉しいです。
「なまいきシャルロット」のラスト近く、ベンチに座った彼女が前方をじっと見つめるシーンで彼女に恋に落ちました。
あのシーンは彼女のベストですよね!

ミレーユ・ダルクさん、書き込みありがとうございます。
ほとんどが偶然ですが、ブログ内で意外と色々リンクすることが多いと痛感します。
シャルロット・ゲンズブールは親の七光り以前に、極端な話、脚本や曲がどうであろうと存在自体が表現になっていると思います。「なまいきシャルロット」、DVDでも借りて見直してみますね。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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