なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ベルタのモチーフ』

BERTA_01.jpg


日本でも劇場公開とDVD化がなされた『シルビアのいる街で』で様々な層の映画ファンを魅了した、
スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督による83年の長編デビュー作。
言い訳も能書きも必要とせず映像と音を司るゲリンの原点たるモノクロの佳作だ。

10歳ぐらいのシャイな少女ベルタが主人公とも言えるが、
森林、川、麦畑、石レンガの家、掘っ建て小屋、
広大な草原、そこを通る一本道などの風景も含むすべての映像、
そしてすべての音が主役である。


年下と思しき男の子とケンカしながら戯れて家族ぐるみの付き合いをしつつ、
父の農作業を手伝うのがベルタの毎日。
そんなまったりした日常に、
近場に引っ越してきたボヘミアン風の男が静かに緊張感を運んできた。
自転車で牛乳を配達していくうちにベルタは
「ある女性を待つため静養に来た」と言う病的で洒落た男と行動を共にするようになるが、
しばらくしてその男の“ある行動”を目撃してしまう。
まもなく映画の撮影と思しき一行が草原を訪れ、
期せずしてベルタは謎の男を媒介にその一員の女優とつながっていく。

BERTA_02.jpg

まずゆっくりと毛穴に入ってきそうなほどいい感じで粒子が荒れた映像美に痺れる。
風景を映し出すところも多いが、
“色が付く”ことにより手垢にまみれた“綺麗”とかいうイメージに限定されてしまうことも多い。
だが『ベルタのモチーフ』はモノクロの映像により、
押しつけがましいほど説明過剰の作品とは対極のゲリンの醍醐味が骨の髄まで味わえる。
時間によって表情を変える陰影は登場人物の心と共振しているかのようで、
逆光で撮影したモノクロ写真みたいに顔などがやや黒くつぶれているシーンも意識的だろう。

映画全体の間合いにも舌を巻く。
ところどころで物語とは一見関係のない映像が断片的に挿入されるが、
それもまた意味深である。
そもそもこの映画は一般的な山あり谷ありの物語とは違う。
上質のドゥーム・メタルのような時間の流れで不条理をさりげなく炙り出していく。
何しろ映像全体のゆっくりしたリズムにとろける。
すべてが意識の流れである。

カメラのアングルや映像の切り取り方も絶妙で、
対象から多少距離を置いた遠めのカメラが多いのも効果的。
この世の最果てであるかのような地平線が見える広大な風景の捉え方も素晴らしく、
そこに人間の姿が見えると、
この映画の見どころの一つであろう“自然の中でのヒトの営み”みたいなものを象徴するシーンになる。
昆虫や哺乳類などの生き物が随所でクローズアップされるのも象徴的だ。

『シルビアのいる街で』の肝のひとつだった内向的なエロティシズムが
本作ではベルタ役の少女から滲み出ている。
いわゆる少女らしい笑顔をほとんど見せないクールな表情で逆に思春期の微妙な心の揺れを描き出し、
世俗に染まらないからこそキープされている妖しい“幼女の魅力”すら引き出している。
と同時に大人のイイ女の方もしっかりと押さえ、
エリック・ロメール監督の『海辺のポーリーヌ』でも知られる女優・歌手のアリエル・ドンバールが、
女優役で田舎の空気感の中に洗練された“異邦人”の風を吹き込んでいいアクセントになっている。

最小限にしてすべてが必然の音声も特筆すべきだ。
セリフは少なめでほとんどが日常会話の類い。
イデオロギーはもちろんのこと説明的なセリフがまったくない。
聞こえてくる音は水音や鳥のさえずりなどの自然音や
人間が何かをしているときの物音などのナチュラルなもの。
ところどころで現代音楽みたいなサウンドや辺境の地の民謡みたいな歌が聞こえてくるのも、
牧歌的な地に潜むグロテスクな“生”を浮き彫りにしているようで効果的だ。
映画の中から聞こえてくる音に対するゲリンの気遣いはこの“処女作”の時点ではっきりと表れている。
基本的に音が静かな映画だけに
トラクターの音や扇風機がいかれた音などの“ノイズ”も含めて、
デリケイトな音のひとつひとつが淡い映像と相まって神経をゆっくりと震わせる。


何を言いたいのか?なんていうのはどうでもいい。
自意識を削ぎ落した末に残った表現の核だけが息をしている。
“あれはなんだったんだろう・・・・”と思わせる、
まさに映画でしかできない驚きの作品。

何も起こらないのに吸い込まれるラストにとろける。


★映画『ベルタのモチーフ』
1983年/118分/スペイン/35mm
「映画の國名作選Ⅵ ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」 
6月30日(土)より、4週間限定!渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。
最初の3日間の7回分の上映はゲリン監督自身の解説付。
www.eiganokuni.com/jlg


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日本でも劇場公開とDVD化がなされた『シルビアのいる街で』で様々な層の映画ファンを魅了した、スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督による83年の長編デビュー作。言い訳も能書きも必要とせず映像と音を司るゲリンの原点たるモノクロの佳作だ。10歳ぐらいのシャイな少女ベ?...

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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