なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『工事中』

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日本でも劇場公開とDVD化がなされた『シルビアのいる街で』でも様々な層の映画ファンを魅了した、
スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督による2001年の映画。
これまた起承転結のストーリーで持っていく作品ではないが、
抽象的どころか現場仕事の職人がフィットする大衆食堂や大衆酒場みたいな雰囲気で
映画でしかできないユニークな表現にまたしてもヤられた。
ゲリン最大のヒット作というのもうなずける“快作”である。


数年にわたってスペイン・バルセロナのエルバラル歴史地区の
大規模“再構築現場”を記録した映像が基の映画である。
再開発の一環としてビルが解体され、
家族が住める高級マンションを建設。
ただそれだけの物語ではある。
だが見終った後に“こんな素材でこんな映画ができるのか……”と驚きの溜め息をついた。


監督自身が“シークレット・ゾーン”にしているらしいから推測を交えて書くと、
単なる記録映画ではない。
ドキュメンタリーを超えた“ネオ・ドキュメンタリー”だ。
むろん解体の場面はすべて本物だろうし、
“現場”で行動している“一般人たち”をそのまま撮って編集したと思しきシーンも多いが、
多少の“仕込み”があるようだ。
建物周辺の様々な人もナマのままカメラが捕えつつ、
役者らしき人が解体建設現場を“間借り”して撮影したシーンも含むと思われる。
でもそれが演出過剰どころか絶妙の編集も相まって映画全体にリズムを付けており、
“虚実ないまぜ”の雑食の作りで生々しさ五割増しで映画をふくらませている。
リアルな人間臭さという点では、
映画『アンダーグラウンド』のような“人間ヴァイブレイション”を感じるほどだ。
でもこちらで多数登場するのは“民衆”というより“庶民”という言葉が似合う人々オンリーである。

ゲリンといえば映像美で持っていくことでも知られているが、
この映画は会話がとてもおもしろい。
解体・建設のマンションのすぐ隣りに
老朽化したマンションが対照的な存在感を放っていることも本作のポイントの一つで、
現場の職人の若い衆が老朽マンションの女の子を口説く場面も意表をつかれて楽しい。
解体跡から出てきた1500年前の墓地の人骨に群がる人々の会話あり。
アルコールをすすりながらの老人の会話あり。
ぼやきありウンチクありの職人同士の仕事中の会話もいちいちおかしい。
いわゆるポリティカルな映画ではないが、
土地柄か政治や宗教も日常会話のネタの一つになっているのも特徴。
得意気になって持論を相手に吹きかける様子もまた妙に滑稽だったりする。
よもやま話の数々から人生がすけて見えてきて
ぼくも何度か思わず吹き出しかけたほどファニーに聞こえる。

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映画の中のところどころで登場する
ヒモみたいに働かない若い男性と年上のガールフレンドと思しき女性の勝手気ままな生活光景も、
序盤からラストまでこの作品にドラッギーな味を注射している。
目立つその二人以外も、
老朽アパートから作業中の建物を“観察”している様々な人たちから
解体された跡で遊ぶ子供たちまで、
現場とその周辺のいくつもの場所でたくさんの“ドラマ”が息をしている。
そういった無数の小さな“ドラマ”は一見雑然と並んでいるようにも映るが、
すべてまったく関係ないようで
すべてがつながっていて映画全体の“物語”を成している。
133分もある映画にもかかわらず、
どのコマも必然性があるのも驚きなのである。

そしてやはり人物に命を吹き込こんで生き生きさせているのは映像美だ。
解体と建設の場面にも時間を割き、
はかなくも凛々しい美を遠景だけでなく現場の匂いが漂ってくるほど接近してカメラをまわす。
映画に出てくるたくさんの人間たちも
じっくりカメラを向けた映像ありラフショットありで、
かっこよすぎない人間たちの顔をしっかり捕えている。
淡く熱を帯びた映像の色合いも素晴らしい。
いわゆる芸術的なテイストとは次元が異なるリアリズムとロマンティシズムのブレンド。
ただ撮っているだけのようで
“すっぴん”ならではの映像力にあらためてうならされた。


前述したように解体・建設のマンションは老朽化したマンションに隣接しており、
そのコントラストが終始この映画の血管を流れる肝と言える。
老朽化マンションのたくさんの住人は窓を開けて軒先に洗濯物を干すなど、
生活臭ムンムンで新築の方に匂いも漂ってきそうだ。
ほぼ建設完了したマンションの展示会に訪れた人たちの行動も興味深い。
老朽化マンションのお年寄りに向かって一生懸命手を振る子供。
新しい住まいの室内はピカピカでも、
窓の外を見たら汚い建物とたくさんの洗濯物を目にしなければなくて雰囲気ぶちこわしでムッとする夫婦。
人生いろいろ人間いろいろ。
誰もが正直なリアクションである。

こわされるものとつくられるもので綴られる映画だから
何気にシークレットなメッセージも読み取れる。
ふるいものとあたらしいものの共生の美か。
諸行無常か。

いやここはスペインだからやっぱり
ケセラケラ。
だってどの人物もケセラセラな顔をしているもの。

余計な音楽も流れずBGMは現場と街の音で
押しつけがましさゼロ以下の“生活風景画”みたいだが、
実は濃厚。
これまた恐るべき映画なのであった。


★映画『工事中』
2001年/133分/スペイン/35mm
「映画の國名作選Ⅵ ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」 
『ベルタのモチーフ』などと共に、
6月30日(土)より、4週間限定!渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。
最初の3日間の7回分の上映はゲリン監督自身の解説付。
www.eiganokuni.com/jlg


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日本でも劇場公開とDVD化がなされた『シルビアのいる街で』でも様々な層の映画ファンを魅了した、スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督による2001年の映画。これまた起承転結のストーリーで持っていく作品ではないが、抽象的どころか現場仕事の職人がフィットする大衆食堂?...

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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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