なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ゲスト』

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“フィクションをドキュメンタリーのように、
ドキュメンタリーをフィクションのように撮る(by蓮實重彦)”
スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督による2010年のモノクロ・ドキュメンタリー映画である。

一昨年日本でも公開されて話題になった作品『シルビアのいる街で』(2007年)が
世界中の映画祭に招待されたため、
映画とともに訪れた様々な国でゲリン監督自らカメラを手にして人々や街の光景を会話も含めて記録。
それを日記形式でまとめたものだが、
言うまでもなくテレビの“世界各地めぐり”の類いのドキュメンタリー番組とは一線を画す。
ゲリン監督の研ぎ澄まされた哲学と美学に貫かれ、
これまた映画でしか表現できない生々しくも深遠な作品である。


ヴェネチア映画祭の模様からスタートするとはいえ欧米圏をあまり舞台にしておらず、
アジア圏も含みつつペルーやキューバなどのスペイン語を公用語とする南米の国々が目立つ。
“保障か!?自由か!?”の左右の政治体制の狭間でテロリストによる一般人の誘拐や殺害も頻発し、
アフリカとはまた別の対立が絶えず非常にハードな地域である。
そんな国々を捕えた映像の対象のほとんどは業界とは関係ない場所や人々。
特に経済的にも肉体的にも困窮の庶民に時間を割き、
大震災以降のハイチのような家屋敷の自宅に招待されて撮影したシーンも多い。
終盤には様々な会話の中に出てきた地のヨルダン西岸のサマリアを含むイスラエルも訪れる。

否が応でも世界が常に非常時だと再認識させられる。
人々が政治的な話題を口にするシーンがたくさんピックアップされているからでもあるが、
それは意図的だという。
だがポリティカルなニュアンスに関してゲリン監督は
“ほのめかす”手法を取る。
本作とは対照的に
宗教関係者が街頭で押しつけがましく声高にアピールするシーンがときおり挿入される。
うっとうしいものでしかない。
どの地でも“ゲスト”の立場であるゲリン監督は
生活の違いで考え方に違いが出てくる様々な意見を謙虚に包容しながら、
切々と訴える“声なき声”の各国の庶民たちと同じく、
静かに、静かに、ほのめかす。
だからこそ深々と心や体に入ってくる。

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ゲリン監督はあくまでも“美しいもの”を好む。
むろん例によって最小限で最大の効果をもたらす音楽の挿入も冴えている映画だが、
本作でもまた言語を超えた圧倒的な映像力に持っていかれる。
『ゲスト』においてゲリン監督は、
手のひらサイズのフツーのデジタル・カメラにフツーのマイクを装着して自ら撮影したが、
特にラテン・アメリカの国は街頭が騒がしいため声を拾うためにはカメラを近づける必要があったという。
必然的に人間をアップでとらえた映像も多く、
それによって一人一人の生活を輪郭まで活写することに成功している。

ギリギリの人間は美しい。
ツイッターだのなんだのに“支配”された生活とはまったく違う日々を暮らす人たちは、
メシ食って洗濯してというふつうの生活の中から湧き出てきた言葉を発するが、
なによりツラ構えや佇まいがどの人も強烈だ。
“存在自体が表現”の人が揃っている。
中高年の映像が多く、
とりわけまさに人生が刻まれたお年寄りたちの顔の“しわ”があまりにも雄弁だ。
終盤に出てくるイスラエルのシーンに登場するのが小学生ぐらいの無邪気な子供たちというのも、
暗示的である。

街の光景などを映すにしても呼吸が聞こえる場や人間の匂いがする所ばかりで、
人々の映像の合間にそういう街の光景を挿入するタイミングとバランスにも痺れるばかりだ。
時に意表をつく転換も映画全体のリズムに躍動感を増幅している。
人物の“立ち位置”を浮き彫りにするシャープな撮影のフレーム・ワークといい、
モノクロならではの彫りの深さといい、
適度に粒子が荒れて富む陰影といい、
あまりにデリケイトかつストロングでめまいがしてくる。

プロパガンダの映画ではない。
他のゲリン作品と同じく意識触発の映画である。
グレイト。


★映画『ゲスト』
2010年/133分/スペイン/35mm
『ベルタのモチーフ』『工事中』などともに、
6月30日(土)から4週間限定で行われている
「映画の國名作選Ⅵ ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」の上映作品の一つとして、
渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開中。
以降、各地で公開予定。
www.eiganokuni.com/jlg


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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